「超左翼おじさん」が護憲派に突きつける「自衛隊の現実」
【連載】元共産党 安保外交部長に元“右翼少女”が直撃 #1- 元共産党の「超左翼おじさん」が自衛隊と護憲の両立を主張し始めた訳
- 「抽象的・観念的な議論はおいて、具体的な問題への対処を前に」
- 自衛隊が合憲か、違憲かという問題と関係なく、必要な法整備とは?
ネット上の左右の対立は深まり、議論すらできない断絶の様相を呈している。コロナ対応という科学や医療の話までが対立の火種になりうる昨今、「九条」と「自衛隊」という水と油の存在を融合させようと活動する人物がいる。「超左翼おじさんの挑戦」というブログを主宰し、かもがわ出版の編集主幹を務める松竹伸幸さんは、元共産党安保外交部長。元右派(保守?)雑誌編集者で、かつては「右翼少女」と呼ばれた筆者(梶原)が話を聞いた。

「九条」と「自衛隊」は共存できる !?
――「超左翼おじさん」を自称する、元共産党安保外交部長の松竹さんが「自衛隊を活かす会」を立ち上げたのが2014年。憲法9条と自衛隊を両立させることを目的としながら、しかし単なる現状追認ではなく、「現実的な議論」によって課題を徹底的に詰めていく会ですね。
【松竹】はい。新刊の『「異論の共存」戦略』(晶文社)にも書きましたが、この会を立ち上げるにあたって影響を受けたエピソードがあります。
それは自衛隊違憲論を問う数々の裁判で弁護団の一員として中心的な役割を担ってきた内藤功弁護士の存在です。内藤氏は現在の護憲派が依拠する自衛隊違憲論の骨格を作り上げた人物ですが、なぜそこまで裁判に邁進するのかという質問に対し、『我、自衛隊を愛す 故に、憲法九条を守る』(かもがわ出版)という私が編集した元防衛官僚の本に言及しつつ、こう答えたことがあるのです。
自衛隊と隊員を本当に活かしてやりたいということの一念ですね。
それまで護憲派と言えば自衛隊の存在を認めないだけでなく、自衛官に対しても冷淡でしたから、このスタンスは新鮮でした。そして護憲派がこぞって「自衛官を愛し、活かしたい」という考えの上で「だから九条を守る」と言えるなら、その時初めて「九条派」と「自衛隊派」の間に議論が成立するのではないか、と考えたのです。

1955年長崎県生まれ。 ジャーナリスト・編集者、自衛隊を活かす会(代表・柳澤協二)事務局長。
一橋大学社会学部卒業後、日本共産党国会議員秘書や政策委員、安保外交部長などを歴任。退職後、かもがわ出版に入社し、現在は編集主幹。日本平和学会会員(専門は外交・安全保障)。『改憲的護憲論』『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』(共に集英社新書)、『9条が世界を変える』(かもがわ出版)、『反戦の世界史』『「基地国家・日本」の形成と展開』(共に新日本出版社)、『憲法九条の軍事戦略』『集団的自衛権の深層』『対米従属の謎』(いずれも平凡社新書など著作多数。
――対立構造でしかなかった両者を、議論を練っていく相手として認めるということですね。
【松竹】双方の存在を両立させることで、「自衛隊派」は改憲に費やす労力をより効果的な防衛政策の構築に回すことができます。例えば後でも述べる、自衛隊が海外で活動する際の国際刑事法典の制定などは、自衛隊の「防衛」や「国際貢献」、あるいは自衛官の処遇を考えた際に、現実に今すぐ対処しなければならない問題ですが、改憲を優先させると後回しになります。
また「九条派」は「いや、九条の理念の究極の理想は軍隊をなくすことであり、自衛隊を認めるのはおかしい」と考えているのですが、最終的に自衛隊をなくしたいとしても、そのためには周辺各国の軍事状況を鑑みて「絶対に日本は攻め込まれない」と多くの国民が確信する必要があるのです。だからこそ、やはり当面、しっかりとした外交政策と防衛政策が必要になります。
しかもそれは両派が互いに議論を深めながら作っていく必要がある。そういう動機から、この「自衛隊を活かす会」を立ち上げました。
「自衛隊は合憲か」を問わず今すぐ必要な法整備とは
――元防衛官僚の柳澤協二さんが呼びかけ人代表、伊勢崎賢治・東京外国語大学教授と加藤朗・桜美林大学教授が呼びかけ人で、松竹さんが事務局長をお務めです。私は2015年に出版された『新・自衛隊論』(講談社現代新書)を読んで、興味を持ちました。
「元共産党の人と、(当時)政権批判をしている元防衛官僚が中心か……護憲・左派的な色が強いのかな」と、右派の私は当初警戒(笑)しましたが、本やシンポには元陸幕長の冨澤暉さんも参加していたので、思い切ってシンポを見に行ったのを思い出します。
【松竹】当初、私の取組みは護憲派からは「裏切り者」と言われましたし、柳澤さんや自衛隊OBの方も「護憲派と一緒に登壇するなんて」とやはり「裏切り者」扱いされたようです(笑)。
しかし私は九条と自衛隊について、抽象的・観念的な議論はおいて、具体的な問題への対処を前に進めたほうがいいという立場です。例えば現在も、国連のルールに反して、自衛隊が海外で犯す刑法犯罪を裁く法律が不備なままです。また、海外であれ国内であれ、上官命令による発砲が犯罪につながった場合に上官を裁く法体系がないなど、自衛隊の行動に必要な法律の整備が進んでいません。早い時期にこれら国際刑事法典の整備を議論するシンポジウムを開催する予定です。
これは自衛隊が合憲か、違憲かという問題と関係なく、現実的に必要な法整備です。だからこそ、「こうした法整備が必要である」ことを、日弁連などが問題提起できるかどうかは、実は護憲派にとってかなり大きなハードルになると思っています。必要だとわかっていながら、「自衛隊違憲論」に阻まれて問題提起さえできないということになれば、もはや改憲するしかありませんから。護憲派もそのことを直視せざるを得なくなるのではないでしょうか。

「防衛族」議員も評価
――自衛官の家族がいるものとしては、単に「改憲できないから」という理由で自衛官の国際法的な位置づけがあいまいなまま、海外派遣が常態化することに疑問を持っています。しかしこうした疑問はこれまでの右派左派の議論、つまり「海外派遣しなければ国際社会から取り残される」論と「海外派遣によって米軍と一体化し戦争する軍隊になる」論の間に取り残されてきました。それゆえ「自衛隊を活かす会」の議論は蒙を啓かれる思いでしたが、その後、安全保障に関するメディアなどの取り上げ方などは変わってきましたか。
【松竹】例えば沖縄では在日米軍や米軍基地については批判すべきものとしてメディアでも世論でも位置づけられていますが、自衛隊に関してはまだ何をどこまで認めるのか、はっきりしていないようですね。
「自衛隊を活かす会」が2017年に沖縄で日本の安全保障をテーマにシンポジウムを開催する際に、沖縄タイムズ、琉球新報の2紙を回り、議論してきました。そこで沖縄タイムズの編集幹部が言っていたのは、「沖縄では、自衛隊はタブーになっている」ということ。辺野古基地の移設反対ではみんな一致しているが、では米軍に代わって自衛隊が使うならいいのか、といった議論はまだ進んでいないそうです。
それでも、「自衛隊を活かす会」のシンポジウムは告知してくれましたし、取材して記事も掲載してくれました。安全保障をどうするか考えなければいけないという問題意識はあるのです。朝日新聞も、これまでの「護憲派」「改憲派」という二元論で語れる状況でないことを自覚し、その種の特集を組んだりしました。
メディアではありませんが、安全保障を真剣に考えている人の中では、「会」の問題意識は伝わり始めています。自民党の石破茂さんはブログで、「会」の抑止力に関する著作を好意的に紹介してくれましたし、山崎拓さんも柳澤さんとの対談を収録した書籍の中で、これまで抑止力に何の疑問も持ってこなかったが、「大きな一石を投じられた」「安保条約見直しにつながる重要な提起」と評価してくれています。
(#2につづく)
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