台湾有事勃発で日本の平和運動は瓦解する 〜 今こそ「固定観念」から脱却を
【連載】元共産党 安保外交部長に元“右翼少女”が直撃 #2- 自衛隊と護憲の両立を論じる元共産党の「超左翼おじさん」に引き続き聞く
- 憲法や安全保障の議論でありがちな「固定観念」の問題
- 護憲派がやるべきは「中国に台湾への武力行使を断念させる運動」
ネット上の左右の対立は深まり、議論すらできない断絶の様相を呈している。コロナ対応という科学や医療の話までが対立の火種になりうる昨今、「九条」と「自衛隊」という水と油の存在を融合させようと活動する人物がいる。
「超左翼おじさんの挑戦」というブログを主宰し、かもがわ出版の編集主幹を務める松竹伸幸さんは、元共産党安保外交部長。元右派(保守?)雑誌編集者で、かつては「右翼少女」と呼ばれた筆者(梶原)が直撃。憲法や安全保障の議論でありがちな「固定観念」の問題を論じます。

「なぜ護憲派が自衛隊の心配をするんだ」
――冷戦後、もう右も左もなくなった、と言われ続けながら、しかし沖縄の基地問題や集団的自衛権行使容認の問題などになると、驚くような断絶が可視化されます。私は保守側ですが、それでも保守の一部による沖縄に対する悪罵は聞くに堪えないものがある。
新聞や雑誌はもちろんですが、ツイッターなどでの「論争」「断絶」状況はさらに悪化しているようにも見えます。その中で、「九条派」と「自衛隊派」が、ともかく現実として必要な議論を重ねていこうとする姿勢は参考になります。
【松竹】私は共産党出身、護憲の立場ですが、それでも自衛隊について必要な法整備についての問題提起をしており、これは従来の区分けで言えばありえないことです。右の人から見れば「なぜ護憲派が自衛隊の心配をするんだ。お前たちは自衛隊否定論者だろう」と思われるかもしれません。しかしむしろそういう問題提起が必要だろう、と。
――確かに、護憲派の方にこっそり話を聞いてみると、「護憲派だけれど、自衛隊も大事だと思っている。でもそういう話ができる場所がなかった」という声もありました。
【松竹】護憲派内部での議論も活性化しますよね。例えば野党共闘は私はよかったと思っていますが、政権を取ったときに共産党が自衛隊否定、日米安保否定という主張をどうするのか。これはかなり大変な問題になります。

1955年長崎県生まれ。 ジャーナリスト・編集者、自衛隊を活かす会(代表・柳澤協二)事務局長。
一橋大学社会学部卒業後、日本共産党国会議員秘書や政策委員、安保外交部長などを歴任。退職後、かもがわ出版に入社し、現在は編集主幹。日本平和学会会員(専門は外交・安全保障)。『改憲的護憲論』『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』(共に集英社新書)、『9条が世界を変える』(かもがわ出版)、『反戦の世界史』『「基地国家・日本」の形成と展開』(共に新日本出版社)、『憲法九条の軍事戦略』『集団的自衛権の深層』『対米従属の謎』(いずれも平凡社新書など著作多数。
野党共闘で防衛議論が加速する
――野党共闘においては「今はそこには触れない」というスタンスでした。
【松竹】「保留」という態度で、どこまでできるのか。それでいいのか悪いのか、そのあたりの議論が起こってくるはずです。さらにこの問題は、共産党だけではなく左翼の活動家、理論家みんなが問われることになる。その意味でも野党共闘に意味はあったのではないでしょうか。
――立憲民主党の代表が交代してから、立憲側はどうも共産党に冷たいんじゃないかとも思いますが(笑)。
【松竹】いや、それでいいんですよ。逢坂さんだったらおそらく気を使って、共産党の顔をつぶさないようにするだろうけれど、泉さんは率直に言いますよね。それが大事なことで、大いに議論したらいいと思います。
中国批判=右翼という誤った構図
――特に野党共闘は「外交安全保障の方針が見えない」と批判されます。自衛隊や軍事戦略をめぐる議論で言えば、中国の台頭にどう対処するかが目下の課題ですが、左派の議論には首をかしげざるを得ません。
【松竹】これはまさに私が今、一生懸命勉強している課題です。結論から言えば、日本の平和運動、あるいはリベラル派がやるべきことは、「中国に対して、台湾に対する武力行使の方針を断念・放棄させるための平和運動」を構築し、展開することなのです。
中国の台湾への武力介入を阻止するには、台湾がおとなしく中国の軍門に下るか、中国が武力による統一を諦めるかのどちらかしかない。その構造をはっきりさせて、実証できるようなものを書かなければと思っています。
中国の意志を変えさせる試みが失敗し、本当に中国が台湾に武力介入することになれば、日本にとっては他人事ではなく、最悪目の前で何十万という人々の命が奪われかねません。その時に日本が「何もせずに見ているだけ」「台湾を助けない」ということはできないし、すべきでもないでしょう。
ところがまだ左派の一部は非常に観念的で、「台湾有事が起きるのは、アメリカが何か悪さをするからだ」という認識を持っています。「中国を非難する、あるいは中国に働き掛けて事態を軟化させなければならない」という発想がないようなんです。

最近も「兵庫県9条の会」に呼ばれて、この話をしました。「中国を批判して、大使館前で戦争反対のシュプレヒコールをあげてもいい」と。しかしどうも皆さん、ピンと来ないようで、「なぜ中国を批判するんだ? 悪いのはアメリカじゃないのか?」という反応が多いんです。
さらにごく一部からは「松竹さん、あなたの話はこれまで十回以上聞いてきたけれど、いつから右翼になったんですか。平和運動と称して中国を非難するなんて、これじゃ右派論客と一緒じゃないか」と言われてしまいました。
――ええーっ。それはまた極端ですね。
【松竹】年配の方を中心に、まだ中国に対する「(戦前の行いから来る)後ろめたさ」があるのだとは思いますが……。これを聞いて、なおさら本格的に腰を据えて訴える必要があると思いました。
湾岸戦争に賛成した共産党
――香港の弾圧のニュースを見ていなかったんでしょうか。
【松竹】香港のあの事態を見ても変わらない。それほど根深い構造があります。これがこのまま推移していくと、日本の平和運動は崩壊するという危機感を持ちました。

思い出したのが、湾岸戦争の頃の話です。イラクがクウェートに攻め込み、国連軍が出る前の多国籍軍の段階で、在日米軍も出動したのですが、当時、共産党はこれに反対しない姿勢を取りました。さらに国連安保理も対イラク武力行使容認決議などを相次いで成立させ、米ソが拒否権を使わず「イラク非難」で一致。多国籍軍による武力行使の許可を得た時点で、共産党は「この戦争を基本的には支持する」という態度をとったのです。
これはクウェートの主権を回復するための行為を助けるという目的なので、常識的に考えても支持すべきでした。ところが新日本婦人の会、平和委員会といった共産党系の団体は猛烈に反発し、「湾岸戦争反対」を掲げて反戦集会を開きました。共産党中央の方針が出ても、「悪い戦争を始めるのはアメリカだ」という固定観念から抜けることができなかったんです。
――これは驚きですが、一方で固定観念を乗り越えられないのは左派だけではないですよね。例えば右派も「中国批判」という文脈から香港や台湾の行く末に非常に同情的で、「頑張れ!」と声援を送りますが、沖縄にはびっくりするほど冷たい。
【松竹】そうですね。好意的に考えれば、これもまた沖縄に対する「後ろめたさ」があるんじゃないか……そう思いたい面もあるけれど。
確かに、右も左も観念から抜けきれない面はある。同時に、現実的に判断すれば一致できる部分もある、ということです。現に湾岸戦争では左右関係なく、自民党から共産党まで「賛成」で一致したんですから。観念に陥らず、現実的に考えたうえで一致点を作っていくこと、議論がかみ合う共通のベースを見つけていくことが重要です。(#3へつづく)
(#3につづく)
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