右派VS左派、リベラルVS保守……「逆サイド」の人とどう対話すればいいのか

【連載】元共産党 安保外交部長に元“右翼少女”が直撃 #3(最終回)
ライター・編集者

ネット上の左右の対立は深まり、議論すらできない断絶の様相を呈している。コロナ対応という科学や医療の話までが対立の火種になりうる昨今、「九条」と「自衛隊」という水と油の存在を融合させようと活動する人物がいる。

「超左翼おじさんの挑戦」というブログを主宰し、かもがわ出版の編集主幹を務める松竹伸幸さんは、元共産党安保外交部長。元右派(保守?)雑誌編集者で、かつては「右翼少女」と呼ばれた筆者(梶原)が直撃。分断を乗り越える「対話」について論じます。

左派が全否定すると余計に広まる右派言説

――松竹さんは『慰安婦問題をこれで終わらせる。』(小学館)や『日韓が和解する日』(かもがわ出版)を出版するなど、歴史認識問題に関しても意欲的な発言や執筆活動をされていますね。

【松竹】最初に歴史認識問題について「何とかしなければ」と感じたのは、2005年に『嫌韓流』(晋遊舎)が出たときです。あの衝撃は本当に大きくて、あっという間に「在日は生活保護で養われている」とか「日本人の知らない在日特権がある」という話が、真偽不明のまま、わっと世の中に広がった。

私は当時、日本共産党職員でしたが、共産党の地方議員から「あの内容は事実なのか」という問い合わせがありました。『嫌韓流』では、日本が朝鮮半島に鉄道や財産を残してきたこと、つまり「いいこともやった」ということが書かれていて、当時の左派の論調としては「これはあり得ない、全否定すべきだ」というものだったんです。

松竹 伸幸(まつたけ・のぶゆき)
1955年長崎県生まれ。 ジャーナリスト・編集者、自衛隊を活かす会(代表・柳澤協二)事務局長。
一橋大学社会学部卒業後、日本共産党国会議員秘書や政策委員、安保外交部長などを歴任。退職後、かもがわ出版に入社し、現在は編集主幹。日本平和学会会員(専門は外交・安全保障)。『改憲的護憲論』『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』(共に集英社新書)、『9条が世界を変える』(かもがわ出版)、『反戦の世界史』『「基地国家・日本」の形成と展開』(共に新日本出版社)、『憲法九条の軍事戦略』『集団的自衛権の深層』『対米従属の謎』(いずれも平凡社新書など著作多数。

しかしそういう否定の仕方をしていると、むしろどんどん広がるばっかりだということを実体験し、「どう考え、どんなものの言い方をすれば、『嫌韓流』を支持するような人たちと話ができるのだろうか」と当時から考えていたんですね。ただ、共産党にいる間は、何の結論も出せないままでした。

その後退職して「超左翼おじさんの挑戦」というブログを書き始める中で、日々起きる北朝鮮の問題や日韓関係について言及する際に、本を読んで勉強するだけではなく、「ものの言い方」も随分鍛えられました。理論だけでなく感情に寄り添わないとダメだと。

「河野談話」を支持した産経、否定した朝日

――まずは思い込みを排除して、事実を丁寧に解きほぐすところから始められています。例えば「河野談話」も、実は発表時の評価は今とは違っていました。産経は今でこそ「すべての元凶」的に批判しがちですが、当時は一部留保はしつつも、慰安婦になった女性への同情心を示すのは当然だと談話の趣旨に賛同。一方、現在は肯定的な朝日や東京は「政府が責任を取らないのはおかしい」と否定的でした。

【松竹】立ち位置が入れ違ってしまった。

――2015年12月、日韓政府は日韓合意を結んだ時には、朝日新聞は賛成の論調。河野談話やアジア女性基金とほとんど同じなのだから、朝日が当時賛成していたらこんなにこじれなかったのに、と正直思いました。

【松竹】私も本に「もし左派があの時、妥協していれば、少なくとも日本の中では慰安婦問題に対する合意ができたのではないか」と書きました。確かにこの辺りの経緯や合意には、今思えば知恵の絞りどころもあっただろうとは思います。しかし少なくとも、日韓合意によって設立された基金によって、8割の元慰安婦たちが日本の税金から支出された支援金を受け取っています。

pixabay

――これさえも左派から「女性に寄り添っていない」「日本は反省していない」と言われてしまうと、右派としては立つ瀬がない。特に日韓関係においては、「謝っても永久に謝罪と賠償を要求される」「それなら謝らないほうがいい」「むしろ朝鮮半島の近代化に貢献したんだから礼を言われてもいいくらいだ」というまでになってしまった。こうした傾向をいいとは思いませんが、これは保守が勝手にそうなっただけではなく、韓国側の運動と一体化した左派やリベラルに責められ続けた(という感触を持っている)ことも一因です。

【松竹】それはそうなんですよ。

日本の「戦後補償」は足りなかったのか

――松竹さんの新刊『「異論の共存」戦略』(晶文社)では、おもねっているのでは全くないながら「右派に響く言い方」というか、対話につながる方法を模索する試みがなされていました。

【松竹】安全保障だけでなく、歴史認識問題においても、どこかで左右が一致できる道筋があると思いましたし、その道筋を見出す責任は左派の側にあると感じていたんです。

例えば日独の戦後補償問題に関して、『「異論の共存」戦略』にはこう書きました。ちょっと長いですが引用します。

ドイツは責任を果たしたが、日本は果たしていないという問題はどうだろうか。日本が国際法上の責任を果たしたことは間違いない。連合国との間でサンフランシスコ平和条約を結び、東南アジアの国々とも賠償のための独自の条約を締結し、遅れはしたが中国とも共同声明で戦後処理を行った。植民地諸国との間で問題を処理する条約を結んだ宗主国はほとんど存在しないが、日本と韓国は基本条約と請求権協定を結んでいる……もろもろ批判はあるが、法的(形式的と言ってもいいが)には後ろ指をさされるようなことはしていない。

ドイツの場合(国家の分裂や「人道に対する罪」の性質上)被害を受けた個人に向き合うことが求められたので、被害者に対する言葉にも気遣うことになり、心がこもっているという評価が定着した。日本はそこが欠けていたが、法的な責任を果たしたかどうかで見れば、日本とドイツは同じである。

長谷川三千子さんとも「7割一致」!

――私も保守雑誌を10年以上編集してきた「保守」あるいは「右派」の人間ですが、「左派の方がここまで言ってくれるなら、あえて強く戦前日本の『光』の部分だけを強調する必要がなくなるな」と思いました。「少なくとも、戦後の日本は後ろ指をさされるようなことはしていない」という、その言葉を左派の方から聞きたかった、という思いです。

【松竹】2016年に、『「日本会議」史観の乗り越え方』(かもがわ出版)という本を書きました。当時安倍政権下で、日本会議が政治の話題になっていたからです。その前に、偶然ですが護憲派・改憲派が討論する会に呼ばれ、日本会議で代表委員を務める長谷川三千子さんと議論しました。そこで『「日本会議」史観の乗り越え方』を長谷川さんに献本したのです。すると、長谷川さんから「7割ほどの一致点があるが、残る3割の違いが決定的」とした丁寧なお手紙をいただいたんです。

――驚きですね。共産党出身の松竹さんが「超左翼おじさん」なら、日本会議コアメンバーの長谷川さんも一般的には(失礼ながら)「超右翼おばさん」となりますが、両極にいるはずのお二人が7割一致するとは!

【松竹】どこが一致し、どこが違うのかを把握することは重要です。日本会議にしても、左派が思い込んでいるほど戦前の歴史を一方的・全面的に賛美しているわけではありません。双方に言えることですが、相手の主張をよく吟味することが何より重要です。

bakhtiar_zein /iStock

議論のできる土壌は育ちつつある

――これは保守も耳が痛い話です。脳内で作り上げた虚像の左翼を叩き続けても仕方ない。何より7割一緒なら分断する必要はなく、互いに「殲滅戦争」のような罵り合いをする必要もないってことですよね。

【松竹】もちろん、話の出来る人とそうでない人はやはり存在します。それは右左の違い以上に大きくて、左翼でもあまりに観念的な人とは議論がかみ合いませんから。

逆サイドにいる相手と話しても、全否定されると「やっぱりあいつらはみんな一緒なんだ、話が通じるわけないんだ」となり、左右の議論はいつまでたっても固定化されてしまいますよね。

しかし、これまでの二元論的な議論に違和感を持っている人、何とかしなければと思っている人はたくさんいるはず。個別バラバラに点在しているからまとまって発信できていないだけ。徐々にいい状況ができつつあるのではないかと思います。(終わり)

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