私立大学猛反発!「文科省のガバナンス改革」反対で日本の大学は滅びる

日大の問題は「氷山の一角」
早稲田大学名誉教授
  • 日大理事長逮捕で注目。私立大学のガバナンス改革は急務
  • 筆者も新聞社退社後に大学に身を置き、ガバナンスに疑問
  • 文科省の改革に教授らは猛反発するも、少子化で迫る倒産危機

日大理事長の逮捕は、私大の建学の精神とガバナンス喪失の危機だ。報道では、理事長は2億円もの資金を脱税した。建学の「日本精神」は失われ、象牙の塔は黄金の塔に堕落した。タイミングよく、文科省が「大学ガバナンス改革提言」を公表したが、私大は猛反発し大きな論争が起きている。改革を求める文科省の主張と提言は正しい。本格的な大学改革なしには、私大の没落は必然。このままでは「私大倒産」と「教授失業」時代がやってくる。

日大本部と田中前理事長(画像はMr.Sugiyama /Wikimedia CC BY-SA 3.0、日大サイトより)

悪質タックル、不正入試……失われたガバナンス能力

文科省の依頼を受けた「大学ガバナンス改革会議」は、12月3日に報告書を出した。大学評議員会の権限を強化する提言で、理事会や経営の大改革を求める、歴史的な「大学改革」提言で、評議員会にチェック機能と経営権限を与える内容だ。

「大学ガバナンス改革会議」は、日大のアメフト部パワハラ・悪質タックル事件や東京医科大などの医学部不正入試を受けて設置されたものだが、報告書提出までの間に、「日大理事長逮捕」という大事件も起きた。この日大事件は、私大が理念はもとよりチェック機能とガバナンス能力を失った事実を明らかにした。今回の不正腐敗、そして「提言」を改革のチャンスにすべきだ。

記者の目で見た大学は「やっぱり象牙の塔」

私は新聞記者を経て、2000年から拓殖大学と早稲田大学の教授に採用してもらった。いまはオンラインの東京通信大学で教える。20年に及ぶ大学生活で、日本の大学システムと教授会、ガバナンス(経営と運営)はおかしいとかねて感じていた。

日本の大学は、教授会がほぼ全権を有し、大学本部の行政を拒否できた。何より教授会が大学改革への最大の抵抗勢力で、理事長、理事会も機能していない。勢力争いと総長・理事長選挙に血道をあげるばかりで、社会科学や人文科学では、国際的に評価される論文や研究書が出ない。論文を一本も書かない教授も、生き残れるのだ。

新設大学の教員認定も、かなり杜撰だ。博士号や業績がなくても、准教授や教授になれる。業績評価も論文の具体的調査をせず、教育能力も問わない。書類上の審査でお茶を濁すありさまだった。新聞社という「外の世界」から来た人間にとっては、一般社会のやり方が全く通用しない大学・教授の在り方はまさに「象牙の塔」だったのである。

Delpixart /iStock

人事権を振りかざす教授会

こうした状況だから、私大と教授たちは、「改革」が嫌いだ。20年以上も前に文科省は「学生による授業評価」を求めたが、教授会はかなり誤魔化し、授業の満足度を問う質問を避け、授業評価の公表や公開を拒んだ。

教授たちは、自分よりも優秀な教員の採用を教授会権限で阻止してきた。そのため文科省は、2014年に学校教育法93条を改正し教授会から教員採用の人事権を奪った。大学改革を阻害したのは、こうした教授会の権限だった。人事権の奪回は歴史的な大改革だったが、多くの私大は改正93条に従わず、今も教授会に権限を認める違法状態にある。

私大の総長、学長や理事長選挙も、不正が野放しだ。選挙権のある教員や職員、評議員の買収は違法ではなく、利権やポストを約束して票を集める。建学の精神は、政府からの「学問の独立」であったはずだが、政府の補助金に頼る。理念と精神が失われて久しい。

私大を待ち受ける少子化の危機

さらに大きな危機が、私大を待ち受けている。「2040年危機」で、私大は続々倒産する。出生数が激減しているからだ。2021年の出生数は84万人を切る予想で、21年前の2000年は約120万人だったから、およそ40万人も減る。

彼らが大学受験する2040年頃の大学志願者数は40万人を下回るとの指摘がある。現在の定員はおよそ50万人だから、多くの私大は大幅定員割れで倒産する。

すでに「崩壊」は始まっている。日本私立学校・共催事業団は今年10月に全国約600校の大学のうち、277校が定員割れ、と発表した。大学の数は700校を超えるが、すでに募集を停止している大学を除く597校を対象にした調査だ。結論を先に言うと、現在でも日本の大学のおよそ50%は定員割れで、この数は毎年増えている。

特に地方私大の経営状態は悪化しており、倒産は時間の問題だ。大学が倒産すれば、教授は失業する。数年前から始まった「専門職大学」も、定員割れが少なくない。大学の経営改革は、待ったなしなのだ。

1001nights /iStock

私大も「財政改革」が必要

私大は、学問の自由・独立と大学の自治を主張するが、「財政の改革」なしには、「学の独立」は維持できない。早稲田大学の借金危機を解決した元財務理事の関昭太郎氏(元山種証券社長)は「財の独立なくして、学の独立はない」と主張する。こんな簡単な真理を、私大の教授や総長、理事たちは共有していない。

もちろん、文科省の政策にも問題がないわけではない。大学の数が800校近くに達しているのに、大学新設をなお認める。現在の法律では、文科省には新設を拒否する権限はない。要件さえ整えば、認めざるを得ない。

私大の「建学の精神」は、政府の補助金をあてにしなかった。早稲田大学も、慶應大学も、学問研究と教育への政府の干渉を排除するのが建学の精神だ。その代わり、大学の独立と学問の自由を叫んだ。創立者が生きていたら、大学補助金を拒否しただろう。

このまま「避けられぬ未来」を迎えるのか

私大倒産は、必ず起きる「避けられない未来」だ。ガバナンス能力がなく改革もしない私大は、倒産しても仕方がない。文科省は、私大倒産を認めるべきだ。その社会的影響は大きいが、大学の名前に値しない私大を放置すれば、教育水準の低下を招き、国民の能力は向上しない。

寄付金税制も問題だ。私大への寄付金を全面的に無税にし、税制改革で、大学への寄付金を全面開放すれば、補助金も減らせる。

私大は、改革なしには倒産する。それは「日本の没落を生む」。「大学ガバナンス改革提言」の真意はそこにこそある。私大幹部は提言に反発するだけでなく、ガバナンス改革に積極的に取り組んでほしい。授業料を払う学生と国民に、授業料以上のリターンを与えるべき大学の使命を真剣に考えてほしい。

 

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