上場請負人がズバリ直言:SPACが日本に根付くために何が必要か?
アメリカに比べて足りない決定的な問題- SPAC解説の続き。メリットもあるが、デメリットもある
- アメリカで見えた課題。SPAC設立者の買収先の目利き、実態との乖離リスク…
- 日本でも導入されれば資金調達はスピード化するが、日本ならではの大きな懸念
きのうの記事で、SPAC上場と何か?一般的なIPOを比べながら解説してみました。一見するとSPACは、これまでのIPOより全体的なスピードが非常に早いなど特徴があり、いいことづくめな感じがします。ただし何事もいいことばかりではありません。SPACにも一定のルールやデメリットもありますので、以下でそのことについて解説していきます。

SPACのルール
まず、SPACのルールについて見て行きます。SPACには、投資家を保護して、企業の不正を防止するための決まりがあります。
- 上場後1年~1年6ヵ月以内に買収を開示する
- 上場後2年以内に買収を完了する
- 上場後は資金の90%を信託保全する
- 買収を実行するには、株主の一定数以上の同意を必須とする
- 買収を実行できなかった場合、利息を含み資金を投資家へ返還する
SPACのメリット・デメリット
次に、SPAC上場の企業側と投資家側のメリットとデメリットについて解説します。
【メリット】
◎一般的なIPOよりも簡素な審査による上場準備期間の短縮化(企業側)
一般的な従来のIPOに比べると大幅に短縮した期間での上場が可能になることで、資金調達を早期に実現してスピーディな事業戦略を実行することが可能になります。また、上場準備中にリーマンショックや新型コロナのような突発的な市場クラッシュリスクを回避しやすくなり、上場延期を未然に防止できると言えます。
◎一般的なIPOと異なり、想定する企業価値の交渉を受け入れられ易い(企業側)
一般的な従来のIPOは、公開価格の算定に関して主幹事証券会社や機関投資家に依存する度合いが大きいです。しかしSPACの場合は、被買収先企業が既に上場しているSPACとの交渉によって企業価値を決めることになり、またSPACは買収が必須であるため、被買収先企業にとっては想定する企業価値を受け入れられやすと言えます。
◎投資家が未公開株式に少額投資が可能(投資家側)
現在、株式投資型クラウドファンディングを除いては、未公開株式に関しては、限られた投資家にしか購入することができないことが多く、金額も高額(小口での募集を行わない)のことが多いのが実状です。SPACは買収前に既に上場していることから、個人投資家が未公開企業への投資を間接的に行うことができます。また、上場企業であるSPACに投資することで、少額資金で未公開株式に投資している状態になります。
【デメリット】
◎SPAC設立者の買収先選定眼に依存しリスクが高い(企業側と投資家側)
投資に際しての意思決定はSPAC設立者の選定眼に依存します。投資家保護の規定はあるものの、SPACが買した後に株価が下がれば投資家は損害を被ります。事前に投資先を見極めることが重要ですが、未公開株は上場株に比べると公になっている情報が少なく、見極めることは相当な眼力が必要であり、リスクが高いと言えます。
◎実態とかけ離れた企業評価や虚偽の表面化リスク(企業側と投資家側)
事業内容や業績に対する調査が弱く、算定された企業価値と市場の評価に乖離が発生したり、未上場の被買収企業が虚偽の公告を行うことも考えられ、株価が大きく下落してしまう可能性があります。
実際に、波紋を呼ぶ案件がでており、米国では法整備が進んでいます。2020年6月、ニコラという会社は、SPACを活用して、ナスダック上場企業になりました。上場後は90ドル以上の値を付け、二酸化炭素を排出しない大型トラック開発事業であることから、成長企業をイメージさせ一時的に株価は急騰しました。

しかしその後、ニコラをカラ売りしている投資会社が「ニコラの技術には虚偽がある」とするレポートを公表したことで暴落が起こります。16ドルまで株価は値下がり、創業者の辞任に発展しました。
SPACが台頭した米国では、この仕組みが業績予想の不明瞭な企業の上場につながり、投資家が損失を被る問題も発生しています。
◎短期間で買収が必要(企業側)
SPACは、短期間で買収の手続きを進めなければなません。例えば、上場から2年以内に買収を完了させなければならないというルールが挙げられます。
SPAC側は期限を気にしながら買収先を検討する必要があります。また、被買収先が買収を焦っていること認識し足元を見てきて、実態よりも高値での売却価格を提示し乗せられて可能性もあります。
リスクを取らない日本に根付くか?
SPAC制度が日本でも認可されれば、投資家もスタートアップ企業への投資がしやすくなり、スタートアップ企業の資金調達額とスピードも高まり、わが国の成長戦略に資すると思います。また、投資家の投資から回収のスピード感も上がり、正のエコサイクルが生み出されるのではないかと予測されます。
私が考える大きな懸念は、わが国では米国と異なり、投資に対するカルチャーが全く異なることから、米国のようなアグレッシブな投資スタンスで機関投資家も個人投資家も実際にスタートアップ企業に投資を行うか?という点です。
わが国では、投資は自己責任という認識は米国に比べ低く、よく言われるとおり、リスクの高い投資よりリスクのない貯金という考え方がまかり通っています。また、機関投資家も所詮自分のお金ではないものの、サラリーマン意識の強い日本の機関投資家はスタートアップ企業を見極める眼力を養うより、とりあえず安全なパッシブ運用を志向する傾向が強いと言えます。
SPACが日本に根付くためには、投資に対する考え方、文化まで踏み込んで変える必要があるのではと思う次第です。
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