武蔵野の住民投票:朝日がついに「本性」、社説で条例案支持…反対の読売とガチ対決に

もはや武蔵野は政治とメディアの修羅場に
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 武蔵野市が外国人にも住民投票権を与える条例案、朝日新聞が採決直前に社説で後押し
  • 明確な反対論の読売社説とは真逆なのに、ともに1995年の最高裁判例を持ち出す奇異
  • 判例の解釈が混乱する背景は?党派性“丸出し”の新聞報道で街は分断でいいのか

武蔵野市が外国人に住民投票権を付与する条例案は、週明けの21日、市議会本会議で採決される。きのう18日は、ここまで反対派の論陣を引っ張ってきた自民党・長島昭久衆院議員らの街頭演説会に、維新の石井苗子参院議員、都民ファーストの会の本橋弘隆都議(現議長)も市外から駆けつけ、超党派の様相になってきた。

そして、この日の朝、朝日新聞がついに「本性」を表した(笑)。朝刊に「住民投票条例 共生社会を築くために」と題した社説を掲載し、「多様な人びとが、互いに認め合い、意見を交換しながら「共生社会」を築いていく。そんな施策のひとつとして意義深い取り組みだ」などと主張し、推進派の松下玲子市長を明確に支持した。

東京・武蔵野市役所( fuku41/PhotoAC)

読売から遅れて半月、朝日がついに社説

意外なようだが、産経新聞の11月11日の報道でこの問題に火がついてから1か月余り。朝日はここまで事の成り行きをあえて見守っていたのか、社説を出してくるのは初めてだ。ライバルの読売はすでに12月2日の時点で「住民投票権 外国人参加を安易に考えるな」と明確に反対論を示している。

随分とためて出してきたものだが、もちろん、そこは朝日だ。すでに布石は打っていた。先週11日の時点で現場記者に詳細なレポート記事を書かせ、排外主義的な団体が市役所周辺で街宣活動していると報道。識者談話での理論武装も怠らず、「『外国人参政権の代替になり得る』という反対派の主張は論理が飛躍している」などと主張する慶応大教授のコメントを掲載し、自民党などの反対派をけん制、松下市長らを実質的に後押しはしていた。

しかし社説となれば社論となりフェーズは変わる。オリンピック中止論を書いて批判が出た時、関係者やOBらが「朝日は他社と違い、執筆した論説委員個人の見解」などと釈明していたが、それなら憲法改正が持論の記者が社説を書いたら載せるのかと聞いてみたくなるような「珍言」は失笑もので、むしろ社説の価値を落としてしまった。

それはさておき、いずれにせよ編集局上層部の判断も経て社の論として載せる以上、武蔵野市の問題については外国人の投票権付与が、朝日新聞の正式見解としてみなしてよい。

同じ判例に言及してるのに主張は「真逆」

詳しくは読み比べていただきたいが、興味深いのは、賛成の朝日、反対の読売がそれぞれ、外国人の地方参政権について判断した1995年の最高裁判決について自説の補強材料にしている点だ。読売は

1995年の最高裁判決は、国政だけでなく、地方の選挙も外国人に選挙権は保障されていないと結論づけた。

と述べているのに対し、朝日は

違憲うんぬんの指摘も的外れだ。最高裁は95年、「自治体と特段に緊密な関係をもつ人」にいわゆる地方参政権を与えることを憲法は禁じておらず、立法政策の問題だと述べた。ましてや法的拘束力のない住民投票への参加は、憲法やその他の法令に反するものではない。

と書いている。確かに、それぞれ事実を書いてはいるのだが、読売は、朝日が触れている判決と憲法との絡みの部分に触れず、朝日は、読売が書いた判決の主文、つまり憲法にある「国民」は日本国籍者であり、「住民」は日本の国民である、という趣旨で記載したことを言及しない。はっきり言えば互いに自説に都合の良い部分を引き合いにする「チェリー・ピッキング」になっている。

だが、この混乱は以前述べたように、民主党政権が仕掛けた“トラップ”だ。判決文の中で、朝日が言うように「地方参政権を与えることを憲法は禁止しておらず、立法政策の問題」という趣旨の部分があるのは事実だが、判決の傍論の部分に過ぎなかった。ところがそれを、武蔵野市を地元とする菅直人氏が首相だった時に、外国人の地方参政権について「最大限配慮しなければならない」と拡大解釈して政府見解にした。おそらく松下市長は、それを理論的支柱の一つにしているのだろうと思ったことも前回述べた。

市長選で松下氏を応援する菅直人氏(同氏ツイッターより)

しかし、これが法的にかなり無理のある解釈だったことは判決の当事者の1人が主張している。問題の政府見解が出た2010年、判決の当事者の1人である元最高裁判事の園部逸夫氏が産経新聞の取材に対し、裁判を起こした永住外国人である在日韓国・朝鮮人を「なだめる意味があった。政治的配慮があった」と証言。菅政権が永住外国人だけでなく、他の外国人にまで対象を拡大することも、園部氏は「賛成できない」と語っていたという(当時の記事より)。

現在92歳の園部氏は健在で、この夏も読売の戦時体験企画に登場していた。読売が武蔵野市の件で再取材するのはもちろん、朝日もぜひ取材してみてはどうか。どちらにせよ、問題の政府見解はその後の政権交代で、自民党が反対を表明はしているが、安倍・菅政権下で新しい見解を出したとは聞いてないが(※未確認)、もし出していなければ岸田政権は改めて出したほうがいいのではないだろうか。

党派性“丸出し”の新聞報道で街は分断

DragonOne /PhotoAC

週明けの採決はどうなるか。紙の新聞が売れなくなり、社会的影響力が落ちたとはいえ、反対派は元々「逆風」に晒されている。というのも新聞各紙の部数を見ていると興味深い数字がある。

折り込み部数表によると、朝日、毎日、読売、産経、日経、東京の6紙合わせて市内は計39,100部。経済紙の日経(5,350)は別格として、本件の火付け役で、ネットで存在感を出している産経は1,250部に過ぎず、毎日(1,050)、東京(1,800)と少数派だ。

残りの6割のシェアを朝日と読売が分けているのだが、注目すべきは都内全体でトップの読売は13,300部なのに対し、朝日が16,350部と上回っている。いまどき社説を読む読者層がさほどいるようには思えないものの、数だけで言えば朝日の社説を読んだ武蔵野市民の方が多い。朝日の社論は同市の政治風土を左傾化するのに長年貢献してきたとも言える。

本来、報道機関は党派性より事実を優先すべきところだが、政治家が党派的なバトルをするのは仕方ないとして、新聞社もまたお互いの主張を都合よく取り上げ、政治闘争を拡大する状況になってしまっている。それが条例反対派に排外主義的な人たちが、賛成派に極左の活動家らしき人たちがそれぞれ“加担”する状況を生み出しているようにも見えるが、政治的な混乱と分断を招いてまで松下市長は、条例案を通したかったのだろうか。

「知性と寛容を備え、排除せず分断せず、おひとりお一人に寄り添った、優しいまちづくりを目指して、明日から始まる新たな挑戦へ」

こう述べていたのは松下市長ご本人だ。2017年、初めての市長選に臨む前日、ツイッターでの投稿内容だ。これが優しいまちづくりだったのか。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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