1人当たりGDP、日本を韓国逆転 〜 打開策は歳出増?いえいえ、彼の国に学ぶ大減税!

韓国で2年前発表の論文「GDP増に有効」
  • 1人当たりGDPで韓国が日本を抜いていくとの予測で衝撃広がる
  • 日本では歳出増による積極財政を打開策にあげる傾向が強い
  • その韓国で「歳出増より減税が効率的」という注目すべき研究

年の瀬も迫る中で、ネット上で最近注目されているのが「日本の1人あたり名目国内総生産(GDP)が2027年に韓国、28年に台湾を下回るとの試算」が出たというニュースだ。日本経済新聞が16日、系列のシンクタンク、日本経済研究センターが予測したというもので、記事が出てから、経済の専門家や政治家らがSNSで言及。韓国でも、ハンギョレ新聞が「国ではない日本側の見通しであるため目を引く」と取り上げるなど反響が広がっている。

作・ハム蔵/Photo AC

韓国に“追いつかれた”日本

GDPは総体で見る場合よりも、1人あたりの数字で見る方が「実力」が推し量れる。ちょうど10年前、それまで世界第2位の名目GDPだった日本は中国に抜き去られ、以後は大きく引き離されたが、1人当たりの名目GDPで見ると、日本はまだ中国のおよそ4倍はある。中国はデジタル化で日本を圧倒的に凌駕するようになったとはいえ、沿岸の都市部と内陸の農村部との格差は埋め難い。

中国や韓国が嫌いな保守系界隈はそうした事実を引き合いにしばしば溜飲を下げている節もあるが、しかし本音のところで「格下」に見ていた韓国と比べると、中国との比較とは逆の展開になる。つまり、国全体の名目GDP(IMF調べ)では、日本は世界3位、韓国は世界10位で3倍弱の開きはあるものの、1人当たりの名目GDP(20年)に換算すると、日本は3万9890ドルだが、韓国には3万1954ドルとほぼ肩を並べられている。

そして今回、日経センターは労働生産性、平均労働時間、就業率をもとに今後のGDPの伸びを試算。「25年まで韓国は1人あたりGDPが年6.0%、台湾は8.4%増える一方、日本は2.0%の伸びにとどまる」との見通しを立て、官民で遅れるDXを日本の課題に挙げた。この数字をめぐっては米ドル換算のため、為替レートの影響もあることから「鵜呑みにできない」(投資家、内藤忍氏ブログ)との前提はあるものの、それでも成長性の勢いに差が出ていることは否めない。

歳出増で生産性アップ?

国民民主党玉木代表は20日、ツイッターでこの日経記事とともに、日韓GDP逆転の別の記事を拾う形で「日本の1人当たりGDPは2027年に韓国に2028年に台湾に抜かれる。既にシンガポール、香港に抜かれた」と言及。「この現状に危機感を抱き、国民民主党は「給料が上がる経済の実現」を掲げた。カギは労働生産性の向上。『教育国債』の発行で、教育、科学技術への投資を倍増させる必要がある」と党の政策をアピールした。

すると、近年、政治的な発信が増えているロックミュージシャンの世良公則さんが玉木氏の投稿に反応し、「これでもこの約30年間に及ぶ金融財政政策は間違っていなかったと財務省や政府は主張するのか」と、過去の政府の対応が“緊縮”志向だったと批判気味にツイートした。国民は中道右派を標榜するが、こうした歳出増に見られる積極財政策は、左派から保守言論界までウケは良い。

だが、歳出増は典型的な「大きな政府」志向の政策だ。長引く低成長での低金利が続く限り、歳出増による借金増が直ちに良いか悪いかは議論があるところだが、「小さな政府」を志向する減税クラスタは違う見方を示す。その理論的支柱で、サキシルでおなじみ渡瀬裕哉氏は「まずは経済成長すること、そして歳出改革を真面目にしていくことで、社会保障費は賄うことが可能です。 そのためには、増税を阻止して減税する必要があります。そして、規制廃止で更に経済成長を促進。 それが最も効果的な解決策です」と主張している。

「歳出増より減税が効率的」

そうした中、高い生産性をあげて日本人の“プライド”を動揺させ始めた韓国で、興味深い研究結果が2019年に発表されている。日本の経団連にあたる、韓国の経済団体「全国経済人連合会」(全経連)系のシンクタンク、韓国経済研究院が、減税の方が歳出を増やすよりも1.8倍も効率的だと打ち出したのだ。

その概要を当時報じた朝鮮日報(2019年11月9日付)によると、2013年から19年前半まで、減税によってGDPがどれだけ増えるのかを分析した。100ウォン(日本円で約9.5円)減税した場合、年間で平均102ウォン増加したのに対し、政府が100ウォンを支出した場合にはGDPは58ウォンしか増えなかったという。「政府支出が年金支給、社会間接資本投資、物品購入など直接的なルートでしかGDPに影響を与えないのに対し、減税は経済主体の経済活動参加率を高める波及効果があるためだとみられる」というわけだ(記事より)。

ここで留意したいのはこの研究が出てきた当時の韓国での政策的背景だ。韓国はその2年前に左派の文在寅政権が誕生し、分配重視、増税推進の大きな政府路線に舵を切った。法人税率は22%から25%にアップ。大企業や高所得者に対する課税強化に踏み切ったことで、2018年の税収に占める所得税と法人税の割合は55%と、2001年の40%から大幅に増えた

「金持ち叩き」増税政策への反証

増税万歳!(loonatheworldFollow/flickr)

しかし、格差社会が問題になっていたことで、文政権の「金持ち叩き」は支持を受け、当時の聯合ニュースの世論調査で85%が増税に賛成するという状況が拍車をかけた。当然のことながら韓国経済はブレーキに。経済成長率では政権誕生時の2017年が3.16%から18年に2.91、19年に2.24…と落ち込んだ。つまり、この研究は、大企業叩きに溜飲を下げたい国民の“ヒステリック”状態に危機感を覚えた、経済団体が反転攻勢への材料として示した側面があるといえそうだ。

その後も不況続きの中でコロナ禍に突入した韓国は、来春の大統領選で保守野党への政権交代が必至と見られている(詳しくはサキシルの重村智計氏の記事にて)。大統領選では先ごろ、保守野党「国民の力」から出馬した尹錫悦氏が不動産税制の大幅見直しを打ち出し、左派与党「共に民主党」の李在明氏が現在の税制維持を主張して対抗する、といったような税制をめぐる政策論争もあった。「保守が減税、左派が増税」志向というのはアメリカ政界とほぼ同様だが、仮に尹政権誕生で大型減税となれば韓国経済が復調し、増税続きの日本を1人当たりGDPで置き去りにする可能性が小さくない。

他方、日本の政情は一部政党を除き、自民から共産まで大きな政府志向の政党や政治家が多い。「彼を知り己を知れば百戦危うからず」はかの孫子の言葉だが、近年悪化する外交的感情とは別に冷徹に割り切って参考にする動きは、インテリジェンス的な発想が苦手な日本で見られるのだろうか。

 

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