武蔵野市の住民投票「否決」、趨勢決めた中立派女性議員が涙ながらに訴えたこと
「右でも左でもない市民の声」代弁東京都武蔵野市議会は21日の本会議で、外国人にも日本人と実質同じ条件で住民投票権を付与する条例案は賛成11、反対14で否決した。条例案は先週、市議会総務委員会で委員長も採決に加わって1票差で可決。全国的な注目を集め、市外からも左派、右派の活動家が多数集結してデモ運動をするなど、論争が荒れた中で、採決の行方が注目されていた。
涙ながらに苦悩の「反対」討論
市議会の定数26のうち、最大会派の自民(8)と公明(3)などは当初から反対していたが、条例案を肝煎りで進めていた民主党都議出身の松下玲子市長を支持する第2会派の立民(6)や共産(2)、無所属系のリベラル市議もいて、情勢は五分五分とされてきた。
そうした中、採決の趨勢を決めた1人が「中立派」の無所属議員たちだ。会派「ワクワクはたらく」所属で、市議会最年少33歳の本多夏帆氏は、苦悩を重ねた末に反対に回ることを決めた。採決にあたって理由を述べた本多氏の討論は、党派的な対立を極めた中で「右でも左でもない市民の声」を代弁する思いの丈を涙ながらに述べて、中継をネットで見ていた人がもらい泣きする人もいるなど感動を呼んだ。
本多氏は採決直後の昼休みに、ツイッターに「賛否両論、コメントをありがとうございます。中立会派として、さまざまな意見があるからこその結論です」と投稿。討論原稿を早々とアップした。
賛否両論、コメントをありがとうございます。中立会派として、さまざまな意見があるからこその結論です。字が小さくてすみませんがひとまず討論の読み原稿をシェアします。 pic.twitter.com/VUkb8vrAXc
— 本多夏帆🌱多世代スペース | 行政書士 | 武蔵野市議会議員 (@natsuhonda8) December 21, 2021
本多氏は反対に回った理由として3つの問題点を提起。まずは「住民投票制度そのものについて市民理解を得られていない」ことを挙げた上で
今巷で議論されていることは「外国人を含めるか否か」この点ばかり。右左で考えがキッパリと分かれている様相ですが、本来議論されなくてはならないのは制度全体の設計であり、また本来の目的を達成するためにより良い内容とすることが求められます…
と指摘。松下市長が「住民投票制度がここまで知られていないとは思わなかった。成立後に周知広報したい」という旨の答弁をしたことにも「周知広報するのは制度成立後ではなく前と私たちは考えます」と苦言を呈した。 二つ目に挙げたのが「条例の制定過程において、リスクマネジメントが不足している点」。本多氏は「民主主義において実際に不正の歴史はあり、それに対してどこまでリスクマネジメントを行うことができるか、それを踏まえた条例の中身と規則が求められます」と原則論を述べた上で、条例案の最大の“欠陥”を次のように指摘する。
これだけ思想により意見が真っ二つに分かれる提案をする中で、どちらかに寄せた内容を設定するのであれば、それこそバランスを取るあるいはリスクヘッジをし、完全なる納得は得られなくてもこれだけやりましたと説明する責任があるでしょう。ここが今回の案の実現可能性を最も損ねた部分と考えます。
そして第三に「政策目的と手段、プロセスの妥当性、優先順位」を提起。武蔵野市の第6期長期計画の中で、市民自治の課題について、「参加する市民の固定化に伴い、市民参加の裾野の拡大が課題となっている」と述べていることを踏まえ、本多氏は
そもそも課題となっている「参加する市民の固定化」の部分、これを打開することなく施策を打っていったらどうなると思いますか。今がその答えなのではないでしょうか。
とクリティカルに指摘。条例案に関して今年3月に意見を募集した際などにも反対意見が出ていたことも挙げて、
多様な意見が出てきたときにそのまま突き進むことが本当に望ましいのか、今回のことが分かったと思います。というか分かって欲しいです。これは先日の吉祥寺東部まちづくりの件でも起きたことで、市民とのコミュニケーションが不足した結果生じるのはまちの中における「分断」です。こんなこと市民は望んでいません。
と、思いの丈を叫んだ。
民主主義に対話が必要なワケ
そして討論の終盤、本多氏は民主主義における「対話」の意義を改めて提起する。
正解は分からない。絶対はない。だからこそ対話が必要で、どのように前提条件に立っているのか、どういう背景なのか、そんなに単純な話ではないので。今回はあまりに論点が単純化され、自分とは異なる考えを否定することが目的化されてしまったように感じ、とても残念に思っています。
と述べた。 また、今回の論争化に拍車をかけたメディアに対しても注文。
今回武蔵野市のこの条例の結論を見て、外国人の部分だけを取り上げて争点にしないでください。条例案を検討するということはその一点だけで結論づけられるものではなく、さまざまな視点によって結論が導かれます。各議員の出した結論には、このようにそれぞれ理由があります。そこをぜひ捉えて今後も議論していただきたいです。
と結んだ。 本多氏は大学卒業後、環境関連企業勤務を経て行政書士として独立。2019年4月の市議選で初当選した。
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