コロナ禍は東京への人口集中を変えるか?#1

自民党政調でテレワーク推進論
  • コロナで東京一極集中解消なるか。自民党政調会の議論から展望する
  • 政調会でテレワーク議論活発化。安倍前首相のブレーンらリモート推奨
  • 自民党内でこれまでになくテレワークに肯定的な議論。今後に注目

コロナ禍で政府が国民に実践を求める「新しい日常」。マスクの常用と並び、多くのビジネスパーソンにとって最も直接的に感じられた変化が、自宅などオフィスから離れた自由な場所で働くことができるテレワークの一般化ではないだろうか。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の象徴とも言えるこの働き方の変化は、わが国の保守政治が長年にわたり取り組みつつ実現できなかった最大の政策課題、東京一極集中解消に向けた切り札になるとの見方も出ているようだ。自民党政務調査会の議論を追って今後の動きを占ってみよう。

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自民政調でテレワーク議論

テレワークが一般化することで、オフィスへの通勤に便利な都心部ではなく、家賃が安く、生活環境のいい地方に住みたがる人が増加していく可能性がある。

一方で、小泉純一郎政権の誕生まで長らく「非都市型」政党とされてきた自民党にとって、地方の豊かさを実現する「国土の均衡ある発展」(田中角栄)の実現は長年の課題だった。近年においても、安倍晋三政権は地方創生を内閣の主要課題に据え、専任の担当大臣を置き、地方創生交付金による手厚い予算措置を行うなど取り組みを進めたが、東京に集中する人の流れを変えるまでには至らなかった。

自民党政務調査会の中で、テレワークを含めた働き方改革を議論する中心は雇用問題調査会だが、首都移転構想を主要アジェンダとしている「社会機能移転分散型国づくり特命委員会」においても、テレワークの推進に向けた議論が活発に進んでいる。

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特命委の資料を見ると、3月24日には、安倍晋三前首相の経済ブレーンとして知られた本田悦朗元内閣官房参与が出席。本田氏は「リモートでも相当なことが代替できる」と指摘したうえで、東京から地方への人口分散へのより踏み込んだ具体策を示している。

4月27日に出席した三重県の鈴木英敬知事も「コロナ禍は、地方創生にとってピンチであるとともにチャンス」だとしてテレワークの導入加速を訴えた。

東京で「初」の転出超過

本田、鈴木両氏が自民党特命委に提出した資料でも触れられているが、月別の住民の転入・転出データ(住民基本台帳人口移動報告)を見ると、2020年5月に長年続いた東京都の転入超過(都内への転入数が転出数を上回る状態)から、転出超過(転出数が上回る状態)へと転じている。これは、比較可能なデータがある2013年以降初めてのことだ。

神奈川、埼玉、千葉の各県を加えた東京圏でも同様に、20年7月に初めて転出超過となる。東京都の転入・転出状況は、同年6月に一度転入超過に戻るものの翌月は転出超過となり、これが21年2月まで8か月続いた。9か月ぶりの転出超過となった21年3月の転入超過数も、前年同期の40199人よりも3割少ない27803人に留まっており、これまでの東京一極集中のトレンドが変化しつつある可能性を示唆する(参照:令和3年4月27日 総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告』p2)

江戸期に世界最大の100万都市になったとされる東京は、近代期も人口の集中が進み、先の大戦で大規模疎開が行われた時期を除いて人口は増え続けた。都市圏全体の人口が1000万人を超える「メガシティー」の条件も、東京都市圏は1950年時点で満たしていたという。

当時、世界中で存在したメガシティーがニューヨークと東京だけだったことを考えると、いかに東京が巨大かが理解できる。少子化が進む中で、近年においても都の人口は増え続け、2020年5月には1400万人に達した。主な要因は死亡する人と出生してくる子供の数の差に拠る自然増ではなく、他地域からの流入「社会増」で膨れ上がった結果だ。

東京都報道発表資料より

一方で、社会増による人口増の最大の理由は東京における働き場の豊富さであると見られるが、テレワークの普及がその前提を変えてしまう可能性もある。先に東京における転入人口と転出人口の逆転について紹介したが、オフィス需要に関しても興味深い民間データが存在する。東京の最大の強みである「働き場=オフィス」の需要が減少しているのだ。

リーマンショックと違う空室率と株価の動き

三井不動産は、4月20日に開催された自民党の雇用問題調査会「ポストコロナ時代におけるテレワーク推進小委員会」に提出した資料の中で「空室は2020年3月から上昇に転じている」と報告している。ここでは、2007年以降の東京23区内と、都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の空室状況の変化が紹介された。

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これによると空室率は2009年のリーマンショック前後から上昇し2010年に入るとおおよそ横ばいとなり、12年以降はコロナ禍までほぼ空室率は下向(オフィス需要増)が続く。

足下の空室率上昇は、コロナ禍での急激な経済の冷え込み状況を勘案すれば自然だとも言えるが、同社の資料に日経平均株価の動きも盛り込まれている点に着目したい。空室率の上昇が株安と同時に起こっているリーマンショックの時とは異なり、コロナ禍では株価は上昇している。

資料では、オフィス需要の減少の主な理由として「テレワーク徹底要請ゆえに出社率の下がっている従来オフィスの一部空室が顕在化」している点を指摘しており、先行き不安からの賃貸契約の解消などだけではなく、オフィスの在り方について各企業が大きく考えを変えつつあることも影響している可能性を示唆している。

コロナ禍における東京を巡る人の流れの変化、空室オフィスの増加、その背景にあるテレワークの拡大といった事象を肯定的に受け取る問題意識が、民間企業や地方の知事から自民党内の政策検討会議の場で披露されているということの意味は大きい。一連の議論の流れを把握することで、わが国の政策の方向性を探ることが可能だ。

次回は、自民党内での議論を引き続き参考にしながら、次々と誕生している民間サービスの姿や実際のテレワークの定着状況の現状と特徴について未来のオフィスの姿を探っていきたい。

#2に続く

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