森ゆうこ氏 vs. 原英史氏、法廷で直接対峙、森氏への尋問も残された謎
国民・玉木代表をディスる場面も- 森ゆうこ参院議員を訴えた原英史氏の訴訟が山場。本人尋問の模様リポート
- 原氏に“マウンティング”、かつて所属した国民・玉木代表ディスりなど言いたい放題
- その中で浮かび上がった不可解な問題点とは?
係争中の毎日新聞記事に基づく批判による名誉毀損や、ネット上に住所を晒すプライバシー侵害の被害を受けたとして、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の原英史座長代理が、立憲民主党の森ゆうこ(裕子)参議院議員に対し、慰謝料など385万円の損害賠償を求めた訴訟が、大詰めを迎えている。
提訴は昨年2月で、森氏はここまで争う姿勢を示してきた。そして24日には東京地裁で口頭弁論が行われ、森氏本人が初めて出廷。双方の代理人弁護士や裁判官から尋問を受けたが、原氏はここまで森氏と毎日新聞が裏で連携をしていたのかどうかも追及しており、森氏の証言が注目された。両者の対決は、筆者が以前所属していたネット媒体の時代から継続的に取材。訴訟の山場とはいえ他メディアが報じないと見られることもあって、法廷を取材した。
裁判に至る経過おさらい
いわゆる「森ゆうこ事件」は2019年10月、大型台風襲来前夜、当時、国民民主党所属だった森氏の質問通告が締め切りに遅れ、台風接近下での未明の帰宅を懸念した現職官僚たちがツイッターで次々と怒りの告発。ネットで騒動になったことが発端だった。
やがて「官僚VS森氏」の騒ぎが原氏とのバトルに進展した。原氏がその年の6月、毎日新聞に特区申請事業者から不正なお金を得たかのような印象を与えかねない記事を書かれたことで、事実無根を訴える原氏が毎日を訴える裁判沙汰になっていたところ、森氏が「特区の議論の公正性を疑わせるような大変な事態」などと“追及”する形で参戦したのだった。
森氏は毎日の記事に書いてあることが事実と決めつけような発言をし、参院の委員会で「(原氏が)国家公務員だったら、あっせん利得、収賄で刑罰を受ける(行為をした)」と、一方的に断罪する発言をした。
「免責特権外」2つのネット配信
原氏は当然、これに反論し、両者のバトルが激化。国会議員の院内の発言内容は、憲法51条により免責特権を保障されているため、民間人の原氏は森氏の法的な責任を問えないが、代わりに懲罰を求める請願書を参院議長に提出した。これは議員運営委員会で多数を占める自民、立民がこの請願書を取りあわず、審査未了で廃案となったが、森氏が「院外」のネットで2つの発信をしたことで原氏が直接“反撃”する機会が巡ってきた。
一つは同年10月のフェイスブックでの投稿。毎日新聞の記事の当該紙面をほぼ掲載した。原氏サイドは、森氏にも係争中の毎日記事を掲載したことで名誉毀損に当たると主張している。
もう一つは、同年11月のツイッター投稿。国会質問時の資料として、原氏が代表理事を務めていた一般社団法人「外国人雇用協議会」の登記簿をアップ。登記簿の代表理事としての原氏の住所を含めた個人情報も記載されているが、森氏はプライバシーへの配慮なしにそのままアップ。ネット上には毎日報道の影響もあって原氏を非難する人たちがおり、その中で原氏の会社が入居するマンションの共用部分の郵便受けなどを撮影し、原氏を監視するようなツイートをするアカウントが出現。森氏に住所を一時的に晒されたことで、原氏は「家族への影響が心配」と不安を訴えた。
「裁判が障害に」マウンティング
原氏は昨年2月に森氏を提訴。森氏側は請求棄却を求め、争う姿勢を示してきたが、24日の口頭弁論は、来年の判決に向けて、原告、被告本人に対する尋問が行われた。原氏への尋問のあと、森氏は証言台へ。提訴された挙句、法廷にまで呼びつけられたことに、よほど腹に据えかねていたと感じる場面があった。
自身の代理人弁護士による主尋問の終盤、「言いたいことは?」と水を向けられた森氏は、裁判官をきっと見据え、声のトーンも上昇。「このような裁判は、国民に選ばれた国会議員の行政監視を発揮するための活動に対する大きな障害になっている」と、原氏をけん制した。
しかし、原氏サイドは怯むどころか、反対尋問で攻勢をかけた。まずただしたのが森氏の事実認識。森氏は、毎日の記事が出た2019年6月11日の当日、参院農林水産委員会でこう発言している(参院議事録より)。
本日の毎日新聞朝刊の記事でございます。特区提案者から指導料と、ワーキンググループ委員の支援会社が200万円、特区ワーキンググループの原座長代理に対して指導料という形で払ったということで、会食も行っていたという記事であります。
森氏が述べたうち、「特区提案者から支援会社(記事ではコンサル会社)に200万円」は書いてあるが、原氏に対しては毎日の記事でも金銭を直接支払ったとは書いていない。それでもこうした発言をした理由を追及されると、森氏は「断片的に記事の内容を読んだと記憶している」と回答。原氏の代理人は続けて「“原座長代理に対して”指導料と述べていたが、“対して”という日本語の意味からすると、指導料を受け取ったように(聞き手は)受け取れるが、そう理解していたのでは」とたたみかけたが、森氏は「そのようなことはない」と頑強に否認し続けた。
新聞記事の内容すら不正確な認識のまま、国会議員が発言を保障された院内で、民間人を敵視して一方的に槍玉にあげるとなると、たまったものではないが、森氏の否認は想定通りか。ただ、院外の言動で隙を感じさせる点はあった。院内で資料として使った毎日記事をフェイスブックにアップして公表したことについて、事前に毎日新聞側の許可を取ったのかを尋ねられると、森氏は「受けていない。通常受けない」と否定した。
通常、新聞紙面を丸々転載する場合、発行元の許可を得ていないと著作権法で認められる引用を超えた無断転載になるが、毎日新聞側は特に問題にしないのだろうか。
玉木氏をディスり、某市長並みの釈明力
そして、印象的なシーンが森氏が原氏の住所を晒したことが話題になったときだった。事案当時、原氏が抗議した際、森氏の当時の所属していた国民民主党の玉木代表は記者会見などで「大変申し訳ない」と謝罪し、「参院幹部から森議員に対して注意した」と発表していた。
筆者もこのことは覚えていたものの、その頃、玉木氏と、森氏ら後に立民に移籍した左派系議員との溝は大きくなっており、実際に森氏に注意されたのか半信半疑だった。そして、あれから2年余が経ったこの日、森氏は玉木氏の謝罪発言について尋ねられると、「注意は受けていない。玉木さんは確認をせずに発言することがよくあるので」と、玉木氏へのディスりを交えるなど、原氏に迷惑をかけたことに全く悪びれもなかった。
一方で不可解だったのが、住所を載せた「外国人雇用協議会」の登記簿をめぐる発言だ。通常、法人登記簿には代表者の個人名と住所が載ることから、SNSで公開する際には公文書とはいえマスキングすることが常識的だが、森氏は「原氏の個人情報というよりは協議会の登記情報という認識だった」と釈明した。まるでリサーチフェローの経歴詐称を疑われた某市長が「一般的な用語としてリサーチフェローを使った」と言い逃れする姿を彷彿させる。
登記簿の「早すぎる」取得
そして、登記簿を取得時期の謎も残る。取得日は19年10月1日。それを国会質疑に使ったのが同年11月7日。質問通告を期限まで守らなくて問題になった人物が1か月以上も前から用意周到にしていたのか。そもそも10月1日の時点では、森氏はまだ原氏に対する攻撃を公にしていなかった。
もちろん、毎日新聞の報道があったのが6月だから、森氏が秘書らを総動員して原氏を4か月も調べていたと見る向きもあるだろうが、原氏によると、10月1日の頃、毎日新聞から「外国人雇用協議会」の件で取材を受けていたという。毎日はのちに同協議会の件は記事化を見送ったことや、取材時の質問状の内容と森氏の国会質問の内容が酷似していることも併せ、原氏は毎日側から森氏に資料提供などで“裏連携”があったのではと疑っている(詳細は原氏のアゴラ記事より)。
反対尋問で、森氏は、原氏サイドからなぜ(国会質問から1か月以上前の)10月1日に登記簿を取得したのか追及されると、10秒ほど沈黙を置いた上で「10月?11月ではなくて?」と聞き返し、消え入るような声で「私自身が取得したのではなくて秘書に指示した…」と曖昧な答えに終始した。
■
残念ながら毎日新聞との“裏連携”があったのかいまひとつ明確にはならなかったものの、登記簿の「早すぎる」取得時期など不可解な点は残ったままだった。裁判所は形式的に和解に向けて話し合いを促しているが、決裂してこのまま判決に至る可能性が強い。判決は来年3月の予定だ。
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