すしざんまい社長の海賊撲滅記事、プレジデントオンラインが削除でお詫び
6年前にすでに指摘されていたのになぜ今また…ニュースサイト「プレジデントオンライン」は24日、前日までに配信していた「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた”すしざんまい社長”の声かけ」というタイトルの記事を削除した。プレジデントオンラインは公式ツイッターで次のように謝罪の言葉を述べている。
【お詫び】当方で12月23日に配信した記事「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた”すしざんまい社長”の声かけ」は、内容が事実と異なるため削除しました。本件が「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された事実はありません。掲載前の事実確認が疎かでした。お詫び申し上げます。
プレジデントオンラインが削除したのは、築地場外市場に本店がある有名寿司店「すしざんまい」名物社長・木村清氏が主人公の記事。キハダマグロの好漁場の一つであるソマリア沖が、海賊が出没することによって漁ができなくなった。そこで、木村氏が単身ソマリアに出かけて海賊と面談。木村氏は海賊たちを前に「マグロ漁を教える。船も用意する。だから海賊なんてやめて、漁師になって稼げ」と説得したという。その結果、年間300件以上も発生していた海賊襲撃被害は、木村氏が話を付けたとされる2014年以降、消滅したという話だ。事実であればノーベル平和賞ものだが、誤りだったということだ。
記事は、黒木安馬氏の書籍『雲の上で出会った超一流の仕事の言葉』(あさ出版)から抜粋された形で掲載された。ちなみに、プレジデントオンラインのツイッターにある「ハーバード・ビジネス・レビュー」はアメリカの一流経営雑誌。該当記事では、箔付けのためか“あの「ハーバード・ビジネス・レビュー」にも紹介された”と大きく見出しが取られているが、これも事実ではなかったとのことだ。
すしざんまい社長の木村氏のこの武勇伝。実は何年も前からネットやテレビで取り上げられていたので、知っている人も多いだろう。しかしこの「ストーリー」、何と6年も前に誤りでは?と指摘されていたのだ。
ソマリアを丹念に取材した力作『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)などの著書があるノンフィクション作家の高野秀行氏は、2016年1月22日付けの自身のブログで次のように指摘している。
たまたまだけど、昨日からなぜか「すしざんまい」の社長の話題がネットで盛り上がっている。ソマリアの海賊を一人で絶滅させたとか。そんなわけがないだろう。もしそうだとしたら、とっくに世界中で大ニュースになっているはずだ。日本の一業者がソマリアの海賊を全部退治したなんていうのは、ネッシーや雪男が捕まったという話と同じくらいの途方もないニュースだ。海賊の激減とすしざんまいには何も関係はない。たとえすしざんまいで元海賊を漁師や船乗りに雇っても、他の人間が海賊をやるから同じことだ。
高野氏は、プレジデントオンラインの該当記事を確認したとみられ、23日、次のようにツイートしていた。
「今頃寿司ざんまいの社長がソマリアの海賊を消滅させたなどという記事が出回っている。そんなわけないだろう。2012年から2013年にかけて海賊は激減したが、その主な理由は通行する船舶が武装護衛をつけるようになったことと自衛隊を含む各国の海軍がパトロールや取り締まりを行うようになったこと」としたうえで、「日本の一企業の社長が海賊を全滅させられたなら、そもそも自衛艦を派遣する必要もないだろう」とこの「ストーリー」の矛盾を指摘していた。
6年も前にすでに誤りであることが取りざたされていたこの「ストーリー」。ネットを少し調べるだけで、デマ、もしくは限りなくそれに近いと簡単に判断できそうな類のものなのだ。なぜ今また記事化されてしまったのだろうか。他山の石としなければならない。
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