拉致問題:岸田総理は、北京オリンピックという舞台を戦略的に活用すべきだった
「あらゆるチャンスを逃さない」はずだったのでは- 政府が北京オリンピックをもっと戦略的に利用すべきだった
- 北京オリンピックを巡る情勢から、金正恩がやってくる可能性は十分あった
- 岸田総理が言う「あらゆるチャンス」に?金正恩が来なくても…
きのうの拙稿で、政府は、中国が、人権問題でG7などから批判を受けているさ中、国の威信をかけて遂行する北京オリンピックという国際(外交)的な大舞台を、わが国として戦略的に最大限利用しようと本気で考えたのか疑問を呈したが、もっとダイナミックな戦略もあったと筆者は考えている。
中国は、米国などの外交ボイコットに対抗して、この大会を可能な限り外交的にも盛り上げて国家のイメージアップを図るべく、中国と親交のある国家元首などをなるべく多く参加させようと働きかけており、ロシアのプーチン大統領はすでに参加を表明している。当然、北朝鮮の金委員長にも熱いラブコールを送っていてもおかしくはない。
金正恩が北京にやってくる可能性
金正恩委員長が、もし開会式などに参加するというようなことになれば、かなりセンセーショナルなニュースとなるので各国のメディアは大々的に報道するだろうし、ロシアのプーチン大統領と3人が開会式でそろい踏みするとなれば、外交ボイコット組に対してもかなりインパクトがある。金委員長は中国に恩を売る絶好の機会でもあろう。
これを考えると、その可能性も少なからずあると見なければならない。
北朝鮮は東京オリンピックを一方的に不参加としたので、IOC(国際オリンピック委員会)によるペナルティーで2022年末まで国家としてのオリンピック出場資格は与えられていないが、IPC(国際パラリンピック委員会)による処分はなく、北京パラリンピックの出場は可能となっている。このIOCのペナルティーもひょっとすると中国の圧力でご破算となり、今後北朝鮮は北京オリンピックに国家として出場可能となるかもしれない。それも踏まえて、金委員長は判断するだろう。
ちなみに、北朝鮮は、北京オリンピックの開会式2日後にあたる2月6日に最高人民会議(国会に相当)を開催するという決定を公表した。北朝鮮の最高人民会議は、朝鮮労働党大会と異なり(党大会での決定を法令化するなど)形式的な要素が濃く、2019年8月以降、(代議員ではない)金委員長は出席していない。ただし、全国から代議員らが終結することなどから、過去にもこの前後に(弾道ミサイル発射など)国家の威容を鼓舞するような行動を起こすことがあり、同時期に始まるこの北京オリンピックに対する北朝鮮の対応が注目される。
筆者は、金委員長が出席する可能性は先に述べたとおりであるが、少なくとも、最近外交面などの功績により序列を上げたと噂される金委員長の妹の「金与正(キム・ヨジョン)国務委員」が開会式に参加する可能性は高いのではないかと見ている。
これなら米国も理解し、中国にも要求できた
仮に、金与正委員が参加するならば、わが国はそれなりの人物を派遣して彼女と会談するという手もあっただろう。北朝鮮とは協議が必要であるという点では、わが国も米国も同じ考え方である。このような観点からいえば、この北京オリンピックはそのきっかけを作るよい機会だったかもしれない。あえて米国の北京オリンピックに対する方針に同調せずとも、日本の今回のオリンピックへの対応によって、これが結果的に米国の国益に沿うような事態へ進む可能性があるならば、米国もわが国の対応に理解を示すことだろう。
一方、中国に対しては、(米国の対応に追随せずに)大会に協力したわが国に対して便宜を図るべく、日本との対話に応じるよう北朝鮮への働きかけを強めることを求めることができただろう。
わが国には、拉致問題の解決という「喫緊の課題」があるのだから、まさに岸田総理が言うように、「あらゆるチャンスを逃すことなく、金正恩委員長と向き合う」ための行動を起こすべきではなかったか。
今後、様々な事態によって(わが国が巻き込まれるような)緊迫する事態も予想されるような現在の国際情勢において、重要な国家意思の決断が求められるにあたり、大国の顔色とこれに追随する周りの国々の様子を伺いながら、常に後出しで事なきを得ようとするような心構えでは、決してわが国がその存在感を示すことなどできないだろう。その地位は低下する一方だ。
今このような乱世の時代を生き抜く日本を担うリーダーには、「あえて敵陣に乗り込んででも、我の活路を見出す」島津義弘のような智力と胆力を備えて頂きたいと切に願う。
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