メディアの空騒ぎ「沖縄振興予算3000億円割れは、自公政権の思惑」は本当か?
空騒ぎするより「河野流」合理的予算シフトを- 沖縄振興予算が10年ぶりの3000億円割れが「自公政権の思惑」説は本当か?
- 沖縄返還の半世紀を振り返ると、知事が革新系、保守系問わず…
- 新年度予算の減額は、河野前沖縄担当相時代の成果評価など合理的算出の影響?
西銘恒三郎沖縄担当相と鈴木俊一財務相による閣僚折衝の結果、2022年度の沖縄振興予算がほぼ固まった(12月22日)。今年度の3010億円よりも330億円少ない2680億円となり、予算のうち沖縄県が独自に使途を決められる一括交付金については、今年度比219億円減の762億円と、これも大幅に減額される見込みだ。
10年ぶりに3000億円を割り込んだ振興予算に対して、玉城デニー沖縄県知事は、「このような大幅な減額は本当に大変残念だ」と述べ、失望を露わにした。メディア各社の報道も減額に批判的で、来年の知事選をにらんで、玉城氏に代えて保守系の知事を当選させたいという自公政権の思惑が透けて見える政治的な予算だとしている。だが、これまで沖縄振興予算が「非政治的」だったことなどただの一度もない。メディアの政府批判はまるで的を射ていない。いい加減うんざりする。
「基地反対」が振興予算を増やす?
沖縄振興予算とは、沖縄戦、米軍基地の沖縄偏在、島嶼県といった沖縄の「特殊事情」を勘案し、沖縄の自主性を尊重しつつ、各省庁が管轄する予算を内閣府に集中して一括計上した特別な予算の枠組みである。他の都道府県にはこうした性格の予算はなく、沖縄だけに特別に認められた措置だ。1972年の復帰以来、10年毎に策定される「沖縄振興計画」(現在は第5次)に基づき組み立てられる予算だが、これまでの50年間に総額13.5兆円の国費が投入されてきた。
1972年度に778億円で始まった沖縄振興予算が1000億円台に載ったのは、革新系・屋良朝苗知事時代の1976年度、2000億円台に載ったのは自民系・西銘順治知事(西銘沖縄担当相の父)時代の1979年度、3000億円台に載ったのは革新系・大田昌秀知事時代の1992年度のことだ。1995年の米兵による少女暴行事件と1996年の辺野古移設の閣議決定を受けて、「沖縄懐柔策」として策定された1998年度の予算は4719億円と過去最高を記録したが、これも革新系・大田知事と当時の橋本龍太郎首相との綱引きによって「政治的に」実現したものだ。
大田氏以後に知事を務めた自民系・稲嶺惠一知事、仲井眞弘多知事の時代は予算の減額が続き、民主党政権下の2011年度(仲井眞知事時代)には2301億円と1980年代の水準まで減額されている。2014年に仲井眞氏を破って当選した「オール沖縄」の翁長雄志知事時代から現在に至るまで3000億円台をキープしているが、これは安倍晋三首相が辺野古埋め立てを受け入れた仲井眞氏の決断に対する「報賞」として2013年に約束したものだ。安倍政権に激しく対決してきた翁長知事だが、振興予算に限っていえば、宿敵だった安倍首相の「約束」の恩恵を受けていたわけだ。
つまり、知事が自民系であるか革新系であるか否かを問わず、振興予算の規模はつねにその時々の政治状況に大きく依存しており、これは何も今に始まったことなどではない。しかも、「基地反対」の声が大きな時期に予算が増額される傾向が強く、基地反対の声が小さな時期に減額される傾向が強い。忌憚なくいえば、「基地反対」こそ予算増額のための最善のツールなのである。したがって、コロナ禍で基地反対の声がしぼみつつある現在、予算が減額されるのは当然の事態ともいえる。
ついでにいえば、玉城陣営だけでなく自民党内にも「振興予算を減らせば自民系の知事が誕生する」という単純な図式への「信仰」が存在するようだが、「基地反対」の声こそ予算増額に作用するのであって、「基地容認」の声はむしろ予算減額への道に通ずる。コロナ禍の政治・社会状況がこの「真理」を見えにくくしているが、予算減額が自民系知事の誕生を後押し、玉城知事を落選に導く保証など何ひとつない。
政治的予算から合理的予算へ
そもそも「3000億円基準」にも何ら合理的な根拠はない。なぜなら、沖縄振興予算は各部局の事業予算(必要額)を積み上げて決定されるものではなく、政治的に総額が決定されてから各部局への配分額が決定される仕組みだからだ。だが、今回の沖縄振興予算では、その政治性は大幅に後退している。過年度に比べ合理的に決定された予算だ、というのが筆者の見立てである。
河野太郎氏が沖縄担当相を務めていた今年8月、河野氏は「新たな沖縄振興策の検討の基本方向について」という文書を発信しているが、そこには、「(今後の振興計画では)施策目的に適った成果目標を設定するとともにその達成に資する施策を推進するため、定量的な指標等に基づいて施策効果等を検証し、その結果を踏まえ見直しや改善を行うなど、エビデンスに基づく展開・検証を図る」と記載されている。当たり前といえば当たり前だが、成果の乏しい事業は見直しの対象になると宣言したわけだ。
河野前沖縄担当相の「新たな沖縄振興策の検討の基本方向について」は、内閣府が設置する沖縄政策協議会の資料「沖縄振興の現状と課題」で示されたデータを検討した結果発出されているが、これらのデータは沖縄県が作成した振興策の事後評価が出典となっている。もっとも注目すべきは沖縄県自身が使途を決められる一括交付金についての事後評価(成果達成状況)だ。
沖縄県の「令和2年度沖縄振興特別推進交付金(一括交付金) 沖縄県実施分 事後評価結果総括表」によれば、令和2年度の評価対象となった事業は203事業とされる。この203事業について成果目標の達成状況を見ると、「達成」および「概ね達成」は153事業(75.3%)、 「一部達成」は25事業(12.3%)、「未達成」は25事業(12.3%)となっている。来年度の一括交付金は今年度比77.7%(23.3%減)だが、この数値は沖縄県が「達成」および「概ね達成」とした75.3%に対応している。
つまり、沖縄県の事後評価データを参考に来年度の振興予算額が決定された可能性が高い。これまでのような沖縄県および沖縄県の政治家と政府との綱引き・駆け引きによる「政治的決定」ではなく、データに基づく「成果主義的決定」あるいは「合理的決定」になっているといって差し支えない。
ただし、県によるデータの作成にも、政府によるそのデータの取り扱いにも一定の恣意性が入りこんでいるので、「沖縄振興予算はきわめて合理的に決定された」とは言い難いが、河野前大臣の「成果主義」方針が反映されているとはいえる。これは、「3000億円の政治用具」と化していた沖縄振興予算のあり方に一石を投ずる予算編成で、「垂れ流し」「甘やかし」「無思慮無分別」と批判されることも多い同予算を適正化する第一歩ともなりうるものだ。
とはいえ、2022年度から複数年度にわたる沖縄振興計画(政府策定)の全体像ははまだ発表されていない。わかっているのは来年度予算のみだ。沖縄が真に発展するためには、経済構造・産業構造・社会構造の全般的な見直しが必要で、予算の多寡だけに目を奪われると足をすくわれることになる。
他方で、沖縄経済に対して振興予算に等しい影響を与えている防衛省沖縄関係予算(基地地代や基地周辺整備費が主たる内容)は、来年度、約2000億円と、減額どころか空前の水準に達するといわれており、振興予算と併せて分析する必要がある。これらの課題については稿を改めて書く予定である。
補足
本稿脱稿後の12月25日、2022年度から始まるあらたな沖縄振興特別措置法(案)について、従来の「期間10年」を今回も維持することが決定したと報道された。ただし、同法の付則には「(実施期間について)5年以内の見直し」という条項が付け加えられるという。見直し作業によっては10年が5年に短縮される可能性もある。見直しが法案に明記されたことは大きな変化だが、合理的かつ実質的な見直しが行われるかどうかについては注視する必要がある。
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