自治体で初の兼業・副業人材公募:なぜ福山市の挑戦を後押しできたか?
連載『ビジネスで社会を変える共感力』#1- 4月に上場したビジョナルの広報担当が、社会課題の視点で事業を振り返る
- 「日本初」自治体の副業人材公募に挑んだ広島県福山市。実現した経緯は?
- 実際に手を挙げた人材の活躍ぶり。「福山モデル」への共感が他地域に拡大。
(編集部より)未上場で時価総額1000億円の「ユニコーン企業」として、今年初の上場となったビジョナル株式会社。祖業の転職サイト「ビズリーチ」開始からの12年は、働き手の人手不足や事業継承など、その時々の日本経済が直面してきた社会課題の解決を模索する日々でもありました。
SAKISIRUでは、この間の同社の歩みが、企業や行政、NPOなどで働く人たちの課題解決を生み出すヒントになればと思い、編集記事として連載を企画。従業数 約1400人の同社がまだ7人だった創業時から広報担当として活躍してきた田澤玲子さんに執筆をお願いしました。第1回は自治体で初の兼業・副業人材公募を行った広島県福山市のプロジェクトです。

ビズリーチなどを展開するホールディングカンパニーであるビジョナル株式会社は、先日4月22日に東証マザーズ市場に上場しました。これまで応援してくださった方々のおかげでこの日を迎えることができました。本当にありがとうございます。
申し遅れました。はじめまして。Visionalの田澤玲子です。2009年4月のビズリーチ創業時から現在までPRを担当しています。
ビジョナルのミッション「新しい可能性を、次々と。」では、「時代がもたらす様々な課題を次々と新しい可能性(ビジョン)に変え、世の中の革新を支えていく」ことを掲げています。
創業12年で上場。社会課題解決を志向
私たちは創業以来、社会の課題とともに事業づくりに取り組んできました。それぞれの課題において、その当事者となる方がどんな想いを持ち、どんな未来を描き、そのビジョンを実現するためにどのような課題があり、どうすれば解決できるかについて、一緒に考え、一歩一歩前進してきました。
その過程で、当事者である「主役」の方々とともに、課題解決に向けた具体的なアクション事例をつくり、コミュニケーションを通じて、その想いをお一人お一人に丁寧にお伝えしてきました。
すると、メディア、ビジネスパーソン、企業、省庁、自治体など立場を超えて、共感・応援してくださる方が一人また一人と増え、そのアクションに共感して実践してくださる方が生まれ、さらに共感してくださる方が増えました。
これを繰り返すことで、最初は小さかった一歩が、大きな共感の輪へと広がっていくことを実感し、その熱い想いにインスパイアされてきました。
そこで、SDGsの取り組みの重要性が叫ばれる今、これまで「主役」の方々と経験してきた具体的な事例を挙げながら、社会の課題とともに歩む事業づくりにおいて、「想いを伝え、その輪を広げていくVisional流のコミュニケーション」についてご紹介させていただきます。少しでも読者のみなさまの参考になれば幸いです。
日本初 自治体の副業人材公募のきっかけ
さて、第1回目にご紹介するのは、地方自治体初の広島県福山市の兼業・副業公募です。広島県福山市は、2017年11月に、地方自治体において日本で初めて、兼業・副業限定で民間のプロフェッショナルを、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」で公募しました。募集したのは、人口減少対策など、当時福山市が抱えていた課題を分析・抽出し、事業の立案・実施を担う「戦略推進マネージャー」でした。

福山市は、人口減少対策などの重要な施策を効果的に推進するため、行政だけの「自前主義」から脱却し、課題発見とその解決に向けた新しい発想を取り入れたいと考えていました。しかし、人材獲得競争が激化するなか、民間企業の最前線で活躍する専門性の高いプロフェッショナルを市の職員として採用することは難しい状況でした。
そのような中、弊社担当者がこの課題について福山市の方から伺い、当時、政府も推進しはじめていた「兼業・副業」での公募をご提案しました。というのも、ビズリーチ会員様にアンケートを実施したところ、83%が「今後、兼業・副業を行ってみたい」と回答しており、企業では得難い経験ができるチャンスとして、興味をもつ方が多いのではないかと考えたためです。
当時弊社で本件を担当していた加瀬澤良年は、「実は、福山市様とお話をする前に、複数の他の自治体様から同様のお問い合わせをいただき、副業・兼業限定での人材募集を提案していたのですが、検討の俎上にすら載りませんでした。そのため、福山市様でも難しいだろうと思いながらもご提案したところ、即座にやりましょうとおっしゃってくださり、その決断力に驚き、同時にご縁を感じました」と振り返っています。
そして、福山市様が公募を実施してくださり、全国からの395人もの応募がありました。もともと1名採用の予定だったのですが、素晴らしい方々が多く、新規事業開発や経営企画、経営支援をはじめ、各界の第一線で活躍する5人を採用。その後も、2020年度末までに合計4回の公募を実施し、1,195名が応募、合計10名を採用しました。
民間の経験で行政を“クリエイティブ”に

最初の公募の際には、枝広直幹 福山市長を東京にお招きし、弊社とともに記者発表会とビズリーチ会員様向けの説明会を開催しました。
このとき枝広市長は、「人口減少、少子高齢化に立ち向かうためには、『自前主義』による既存の行政運営から脱却する必要があります。民間企業で働く方ならではの新しい視点により、市政全般の業務に関して、経営者目線で牽引していただきたいと思っています」と力強くコメントしてくださいました。
この様子が全国放送のニュース番組をはじめ、多くのメディアでご紹介いただき、共感の輪が広がっていきました。
最初に採用された5人の戦略推進マネージャーの方々は、課題を抽出した後、女性のひとり旅をテーマにしたリトリートツアーの実施、大学発のベンチャー企業の創出に向けた調査研究、海外への情報発信など、さまざまな結果を残しています。

そのなかのお一人で、当時都内の映像製作会社の管理職だった野口進一さんは、応募動機について「マーケティングや経営企画、映像のプロデュースなどの経験をしてきましたが、培った経験が最も市民生活に近い行政で活かせるのか試してみたかったため」と話されていました。
野口さんは、「ワーケーション」のモデルケースの構築のほか、「まるごと撮影都市」を掲げ、映画などのロケ誘致やクリエイティブ産業の誘致・新興を目指し、クリエーターを交えたワークショップを行っています。

「福山モデル」への共感、加速度的に
そして、この課題解決のモデルケースに共感した方々が「福山モデル」の成功事例を紹介。福山市の取り組みは、テレビをはじめとするメディアで70回以上紹介されました。また、共感した他の自治体が次々と、「ビズリーチ」で兼業・副業公募を実施してくださるようになりました。
そして、福山市は、本年3月から新たな取り組みを開始。産業・地域・行政のデジタル化に向け、スピーディーな民間人材活用を目指し、弊社が運営する人財活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」を活用し、自治体初となる「副業・民間人材データベース」の構築に向け共同研究を開始しました。
このように「福山モデル」への共感の輪は、加速度的に広がり、課題の解決に向け、多くの自治体の方々が動き出してくださっています。未来を描き、一歩を踏み出し、常に先駆者として前進し続ける福山市の方々は素晴らしい課題解決のお手本です。
次回は、この「福山モデル」をきっかけに、共感の輪がスポーツ界にも広がった事例をご紹介します。
(本連載は、毎月第3土曜日に掲載します:次回は6月19日予定)
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