お元気ですか?東京オリンピック中止論者の皆さん。「その後」の発信をチェックしてみた
【回顧2021】安倍元首相「今出てこないですね」今年も残り3日。コロナの感染はオミクロンの市中感染は気がかりなものの、各国が今でも感染拡大に苦しむ中、日本は9月以降、新規感染者数の数はほぼ収束し、新年を迎えようとしている。
ただ東京オリンピック・パラリンピックが開催された7〜8月は「感染爆発」と揶揄されるほどの惨状だった。「海外からウイルスを持ち込む懸念」といった非難を含め、さまざまな異論があったが、大会は成功裡に終わった。
そうした中で、首相在任中に大会招致を決めた安倍晋三氏が26日、BSテレ東の「NIKKEI 日曜サロン」の発言がネットで注目されている。
番組はこの1年を振り返ったものだが、番組の序盤で安倍氏は「今年はなんと言ってコロナウイルスとの戦いに集中した1年だった」と振り返った上で、オリンピック開催の是非に揺れた時期を引き合いに。
安倍氏は「オリンピック、パラリンピックをやるかやらないか、観客を入れるか入れないか、あの時、『オリンピックを実行したら10月、11月は大変なことになる』と言っていた人たちがいますよね。今出てこないですねそういう人たち」と指摘。「オリンピック、パラリンピック、堂々と共産党、立憲民主党もかなり反対だったし、朝日新聞なんか社説で(反対論を)書いてましたよね。しかしやってよかったと思いますね」との思いを吐露した。
朝日新聞「収束後」の社説は?
安倍氏は「今出てこない」と述べた反対論者のその後はどうなったのだろうか。
まず、安倍氏が引き合いに出した社説を書いた朝日新聞。オリンピック開催まで3か月を切った5月26日の朝刊で「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」を書いたが、その後も「五輪の観客 科学置き去りの独善だ」(6月22日)、「無観客五輪 専門知、軽視の果てに」(7月10日)などと、大会へのネガティブキャンペーンを展開。開会式当日(7月23日)の紙面では、「分断と不信のなかで幕を開ける、異例で異様な五輪である」と指弾した。
そこまでオリンピックに不信感を持つのであれば、取材陣を引き上げ、大会組織委スポンサーからも撤退した方が筋が通りそうなものだが、2016年に組織委と契約した際、「オフィシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画します」と述べたことを引き合いに、スポンサーは続行。選手たちが金メダルを獲得すると、一面、スポーツ面、社会面と大きく展開。こうした首尾一貫しない姿勢には、朝日新聞のOBからも批判的な意見が相次いだ。
結局、朝日はオリンピック開催翌日の8月9日の朝刊社説で「努力してきた選手や関係者を思えば忍びない。万全の注意を払えば大会自体は大過なく運営できるかもしれない。だが国民の健康を「賭け」の対象にすることは許されない」と、大会中止を求めた5月の社説を正当化した。しかし、その後、感染が大きく収束する流れとなり、菅政権が退陣。「標的」を見失ってしまったのか、朝日のオリンピック批判社説の中身が変質する。
年末モードになった今月24日、朝刊で「東京五輪総括 あるべき姿にほど遠い」と題した社説を掲載したが、その中身はといえば、大会の決算をダシに費用負担やガバナンスの問題に終始。春先から夏場まで連日、オリンピックと政権への批判材料にしていた「コロナ」のコの字や、「パンデミック」のパの字はどこにも見られなかった。
ネットで中止を訴え続けた記者たちは?
ほかの中止論者たちはどうか。
その朝日新聞OBで、現在はフリーランスの軍事ジャーナリストの高橋浩祐氏は、ヤフーニュース個人のコラム欄で大会前、「東京五輪、命を守るために早く開催中止の決断を」(1月13日)、「『東京五輪は抜本的対策なしではハイリスクのイベントになる』韓国の新型コロナ専門家が指摘」(2月10日)「東京五輪の「バブル方式」は選手団入国時の羽田空港で崩壊」(7月17日)などの論考を定期的に執筆。大会が始まるまで、必死の訴えを続けた挙句、懸念したような大クラスターの発生がなく、感染者数の減少が著しくなった9月以降は、ほとんどが本業の軍事関連の寄稿となり、コロナに関する記事は1本も無くなった(12月24日時点)。
ただ、9月3日は菅政権の退陣について「だから僕は2月の首相記者会見でも、コロナ対策に専念して五輪は中止した方が良いとダイレクトに申し上げたのに」と誇らしげにツイート。今月27日には、大阪府と読売新聞大阪本社が包括連携協定を結んだ報道を引き合いに、「全国紙がどこもかしこも東京オリパラのスポンサーをしたのと本質的に変わらない」と述べ、5月に書いた「日本メディアが五輪中止を言えない理由」のリンクを添付。現在も持論に変わりがないことを伺わせた。
一方、安倍政権退陣後はすっかり官邸での勇姿を見なくなった東京新聞の望月衣塑子記者も、大会中止論をツイッターで発信していた1人だ。4月15日には「東京は700人超。とても無理な状況なのは明らかだ。 結局、二階幹事長は五輪中止を決断した勢いで解散か、五輪後の高揚感のあるうちに解散のどちらが勝てるか、天秤にかけているのではないか」とツイート。大会が始まった後の7月31日には「五輪開催に踏み切ったことが人災。有識者の提言に耳を貸さない菅首相の責任だ」などと、政権与党を非難し続けた。
ところが9月以降、望月氏の投稿で「五輪 中止」と記載されたのはパタリと消え始め、10月8日、IOCのバッハ会長が大会を振り返った中で中止をしなかった理由を述べた自社の記事を紹介するツイートしただけになった。
署名集めの宇都宮氏は年の瀬に…
その望月氏も言及していたのが、かつて都知事選に3度出馬した弁護士の宇都宮健児氏の署名活動だ。宇都宮氏は5月からネットの署名サイト「チェンジオルグ」で「人々の命と暮らしを守るために、東京五輪の開催中止を求めます」との題目で、署名集めを開始。7月半ば、約45万筆を集め、東京都の小池知事とバッハ会長宛に提出したが、あっさり無視された。
それでも本人は意気軒昂。署名をめぐる報道は秋になり、ほとんどなくなったが、年の瀬の20日、チェンジオルグがその年の特筆すべき署名プロジェクトに贈る「チェンジメーカー・アワード2021」の特別賞に、宇都宮氏の五輪中止署名が選出された。
社会的に影響があったのかどうか異論も出そうな中での受賞だが、宇都宮氏は27日のツイッターで「署名運動に賛同・協力していただいた方々に対し、ご報告いたしますとともに厚く感謝申し上げます」とコメント。ただ、人権派弁護士でありながら、中国の人権問題への対応が焦点になっている北京冬季オリンピック開催に反対する署名運動を始めないことへのツッコミも呼んでいる。
数ある中止論者で、宇都宮氏がお元気なことは確認できた年末となった。
ただし一方で、中止論者たちに再びスポットライトを向ける発言をした安倍氏に対しても、違和感を覚える人たちも。いわゆる「反アベ」の左派に限らず、ある保守系のネット民は「これ菅さんがいうならわかりますが、安倍さんが言うのはどうなんだろう」と懐疑的だった。
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