「ガースー戻ってきて」の声も…菅政権は何を成し遂げたのか
【回顧2021】わずか1年で安倍長期政権の宿題にケリ- 「いまさら菅前首相の評価が急上昇」というネット記事が話題に
- 「国民のために働く内閣」を掲げた、菅政権の仕事ぶりを改めて振り返る
- 世界屈指のワクチン接種率を達成。在職日数384日で成し遂げた仕事は…
ニュースサイト「Smart FLASH」の12月16日付けの記事が話題を呼んでいる。“岸田首相がブレすぎで、いまさら菅前首相の評価が急上昇「ガースー戻ってこい」”というタイトルの記事。いま、なぜか菅前首相の評価が上がっているというものだ。
確かに、ツイッターでも、「菅さん帰ってこないかな」「ほんとに戻って来て」「ガースーは記者会見の受け答えがまともに出来てれば結構良い首相だったと思う」といった菅前首相を好意的に見る声が多数確認できた。なぜ、今さら菅前首相に返り咲いてほしい人がいるのか。年末を機に、菅政権とは何を成し遂げた内閣だったのかを振り返ってみたい。
「コロナとの戦いに明け暮れた」
菅政権と言えば、コロナ対策の政権だったというイメージを持っている人が大半だろう。当の菅前首相も就任から1年の記者会見で「新型コロナとの闘いに明け暮れた日々だった」と述べている。
安倍元首相の突然の体調不良により、急遽、菅前首相が政権を引き継いだのは2020年9月。菅前首相が自民党総裁選に勝利した、9月14日の新型コロナウイルスの東京都の新規感染者は80人。東京都だけで1日に大体100人から200人ほどの新規感染者が出ていた頃だった。
東京都の1日あたりの新規感染者が連日5,000人を大きく超える「第5波」を体験した今となっては大したことのない数字に思えるかもしれない。しかし、ワクチン普及どころか、しっかりしたものが開発されるのかの目途さえ立っていなかった当時、多くの国民は不安の真っただ中にいた。
この頃、読売新聞は新型コロナ関連で、次のような見出しの記事を出している。「八丈島で初の感染例、国内で712人確認」「英アストラゼネカ、中断のワクチン臨床試験を来週にも再開へ」「インフル患者わずか3人、昨年の1000分の1以下…手指消毒やマスク徹底で」「新型コロナの入院対象「高齢者・持病ある人」…政令規定「感染者一律」から見直しへ」「バッハ会長「ワクチンなくても安全に運営」」「コロナワクチン、最終臨床試験に6万人参加…米J&J」――。
そして、9月30日には「コロナ死者100万人 1日5000人増」と、世界での新型コロナによる死者が100万人を突破したと報じている。
こうした状況のなか、首相に就任した菅前首相が打ち出したのは「国民のために働く内閣」。発表した際には、「内閣が国民のために働くなんて当たり前だ」などと揶揄する声も聞かれたが、このスローガンに向けて菅政権は驀進していくことになる。
揶揄されながらも世界屈指のワクチン接種率
10月26日の所信表明演説で菅前首相は、新型コロナワクチンについて次のように述べた。
「ワクチンについては、安全性、有効性の確認を最優先に、来年前半までに全ての国民に提供できる数量を確保し、高齢者、基礎疾患のある方々、医療従事者を優先して、無料で接種できるようにします」
アメリカでワクチン接種が始まったのは昨年の12月。欧米やイスラエル、中国などでも次々とワクチン接種が始まった。アワ・ワールド・イン・データ(英オックスフォード大学の研究者などが運営するデータサイト)によると、今年2月上旬までの世界の国々のワクチン接種回数は、アメリカが5288万回、中国が4052万回、EUが2187万回、イギリスが1584万回、イスラエルが660万回だった。
一方の日本はというと、2月17日にワクチン接種が始まったばかり。G7で最も初動が遅れた国だった。「このペースで行くと日本の全国民にワクチンが行き届くまでに数十年かかる」と煽ったテレビ番組があったことを覚えている人もいるのではないだろうか。
こうした状況に危機感を覚えたであろう菅前首相は、ワシントンDC訪問中の4月17日(現地時間)、ファイザー社のブーラCEO(最高経営責任者)と電話会談。今年9月までのワクチンの確実な供給に向け、さらなる追加供給の要請をした。さらに、7月23日にもブーラCEOと再度の電話会談を行い、ワクチン供給に対する感謝を述べるととともに、追加供給の要請を行っている。
ワクチン確保とともに、菅政権が取り組んだのがワクチン供給体制の構築。今年1月には行政改革・規制改革担当相の河野太郎氏にワクチン接種推進担当相との兼務に配置。ワクチン接種のロジスティックスに関する分野の全権を委任した。河野氏が持ち前のリーダーシップや発信力で、ワクチンを各自治体に一気呵成で配っていったことは記憶に新しいところだ。
12月27日現在、日本のワクチン接種率は2回接種者が77.8%。うち高齢者(65歳以上)は91.7%に上る。アメリカでワクチンを2回接種した人の割合は60%程度。EUに至っては5割以下だ。日本は世界でも屈指のワクチン接種率の国となった。秋以降、日本でコロナが収束に入った要因の一つと見られている。
近年まれにみる「国民のために働いた内閣」
菅首相の所信表明演説をあらためて見返してみると、こと新型コロナワクチンに関してはすべて達成していることが分かる。菅前首相は、ワクチン接種のペースに関して「1日100万回」と発言し、テレビや雑誌で「非現実的だ」などと叩かれに叩かれたが、結局これもクリア。「明かりは見え始めている」発言も非難囂々だったが、その後の感染者数の激減をみると菅前首相の認識は間違ってはなかった。菅政権に対して、いろいろ注文があった人も多かろうが、少なくとも新型コロナワクチンに関しての結果だけは認めるべきだろう。
新型コロナワクチンで大きな成果を上げた菅政権だったが、在職日数384日で成し遂げた仕事はそれだけにとどまらない。東京オリンピック・パラリンピックの開催、デジタル庁の創設や携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用、福島第一原発の処理水の海洋放出、2050年カーボンニュートラル宣言など、主に安倍元首相時代に積み残してきた問題や課題に次々とケリをつけている。
確かに、菅前首相はやり方に強引なところがあり、口下手で発信能力にも欠けていた。国会や記者会見での木で鼻を括ったような受け答えも目立った。こうした点に不満を覚えて不支持に回った人も少なくないだろう。しかし、結果だけを見てみると、近年まれにみる「国民のために働いた内閣」と言ってもいいのではないだろうか。
26日、BSフジのプライムニュースに出演した菅前首相は次のように語っている。
「(衆議院選挙の応援に行った時のことを聞かれ)私自身は、総理を辞めての選挙でしたし、街頭遊説は非常に怖かったですよね。行っても非難されるんじゃないか、批判されるんじゃないかと。しかし、行く先々で見たこともないような光景が続きましたね。本当に多くの人に足を運んでいただいて、あるいは通りすがりの人のほとんどが足を止めていただいて、『ワクチンありがとう』って声がかかったんですね。政治家冥利に尽きましたよね」
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