「小池百合子 限界説」の落とし穴、東久留米市長選は参院選のサンプルにならない
「アンチ小池」だからこそ油断禁物東京・東久留米市長選(26日投開票)で、都民ファーストの会が推薦した女性候補者が、小池百合子都知事の全面支援にもかかわらず、自民推薦の候補者に敗れたことで、小池氏の「限界説」が一部に出始めているが、実際にどうなのだろうか。

27日には産経新聞が「都民ファ『小池知事頼み』に陰り」との題で政局記事を書き、政界随一の発信力を誇る日本維新の会・音喜多駿政調会長のブログでも「ここまで知事がコミットして敗北したのはおそらく初めて、衝撃が広がっています」と指摘がなされている。また、筆者旧知の自民党都連関係者の中にも「限界説」に気を良くしている人がいるし、筆者も心の奥底からそう願いたいが、長年、選挙に報道や当事者として携わってきた身としては「限界説」には落とし穴があると考える。
今回、筆者は裏数字(政党や報道機関の情勢調査)を持っていないので、あくまで公表された各種のデータを見た上での論考だと断りを入れておく。そういうわけで、選挙期間中は報道をチラ見する程度、小池知事のお得意の存在感演出もあって都民ファの候補者が優勢に戦っているとむしろ錯覚していたくらいだ。だから自民候補に完敗したとの一報を聞いた時は、逆の意味で驚いたくらいだった。
もともと地合いが悪かった
選挙の情勢分析でおなじみ、米重克洋氏のツイートによれば、内実は選挙前から自民候補とダブルスコアに近い差があったようだ。
ただ、裏数字を見ずとも、東久留米市長選は小池知事や都民ファにとって、地合いが悪い選挙マーケットだったことがわかる。
まず特筆すべきはとにかく地方選挙の投票率が悪い。今回は、自民系VS小池系、左派系の三つ巴構図となり、自民陣営には河野太郎氏が来援し、小池知事も総大将自ら節目に出陣するなど一定の盛り上がりが考えられたが、投票率は39%にとどまった。地味な「いつもの」市長選だった前回とたった2ポイントしか上がっていない。また、「小池神話」健在を見せつけた今夏の都議選でも38%の低空飛行。東京全体の42%より下回っている。
そうなると何が起きるか。「小池票」の力の源泉は、無党派層、自民党支持層の中でもライトな人や、自民の古い体質が嫌いな人たち、中道〜やや右派志向の支持をいかに糾合するかだ。そして2017年都議選の時は、ここに創価学会員を中心とする公明党支持層が加わっていた。しかし同年の衆院選で小池氏が希望の党を結成したことで公明党は離反した。

そうなると、小池氏・都民ファ側からすると、無党派層頼みの割合が増え、基礎票がどれくらい集まるのか不安要素が大きくなる。都知事選は元々の関心の高さや小池氏本人の集票力で投票率が54%にもなったが、地味な市長選では投票所に行かない無党派層が増えるばかりだ。国民民主も相乗りしたことで連合票も多少はあったはずだが、後述するような「政治風土」からあまり期待できない。
その政治風土、東久留米市は他の北多摩地域と同様の特殊な状況がある。このエリアは伝統的に創価学会員が多い。実際、市議会の最大多数派は自民(5)と同数で公明(5)が並ぶ。また、社会的弱者へのアプローチで競合する共産勢力も根強い。市議会では自公に次ぐ4議席を確保。いまの副議長ポストも押さえている。
今回の市長選で共産は社民と組んで篠原重信氏を擁立。公明も自民とともに富田竜馬氏を推薦している。先述したように、投票率があまり上がらない中で、細谷祥子氏を推す小池氏・都民ファにとっては、地元に根を張る共産、公明という強力な二つの組織勢力とガチンコでの競合を勝ち抜かなければならない。もちろん、自民の手堅い組織票ともど真ん中で戦っているわけだから、足場のない新興勢力にとっては端から「無理ゲー」だった構図がわかる。
「木下騒動」が影響したのか
また、小池氏の「限界説」に期待したい人からすると、敗因に木下富美子前都議の騒動がワイドショー化した影響をあげる人もいるだろう。選挙民の多数派である中高年は情報番組との接触頻度は多く、木下氏が板橋区選出だったとはいえ、今回も一連の報道の影響がなかったとは言い切れない。
しかし、敗因として挙げられる「低投票率」「木下氏」といった要素は、半年後の参院選にも当てはまるかといえばそうではない。年を越せば木下氏やそのスキャンダルは「過去の人であり、過去の話」。選挙民のほとんどの記憶から半年後には消えている。何よりも、東京都全体、あるいは国全体の規模に戦いの場が広がることで、大型選挙にだけは投票に行く無党派層が増え、メディア報道による「空中戦」の要素が強まる。
今回、小池氏の元秘書の政治ライターが、大手ネットメディアで、東久留米などを選挙区とする木原誠司官房副長官の醜聞記事を、しかも週刊誌の後追いそのままに書いて自民関係者に波紋を広げていたが、不発に終わった。示し合わせたとは言わないが、しかし、それくらいの「飛び道具」が出てくることも小池劇場ではおなじみだ。小池氏がメディアに張り巡らせるシンパ人脈は強固かつ広範であることに変わりはなく、その人たちがどう“暗躍”するかも油断できない。
参院選は解散がないため、選挙日程を組みやすく、前回、当選者を出したれいわ新選組やNHKから国民を守る党のように、新興勢力も準備をしやすい。衆院選で参戦を見送ったファーストの会も仕切り直してくるはずだ。
市長選の後、産経新聞の取材に応じた都民ファの都議たちは眼前の敗北に動揺していたかもしれない。音喜多氏の指摘するように、小池氏が独自の嗅覚で終盤に逆転できると「読み違い」もあっただろう。都議選の時、陣営には情勢分析に長けた有名な選挙参謀がいたが、今回は陣営に入っていなかった影響がここにも見て取れる。
しかし、小池氏は何度も逆風から立て直してきた。少なくとも健康不安説の一掃という最低限の目的は果たせたはずで、百戦錬磨の彼女のことだから、今頃あっけらかんと「むしろ(票差が)よく縮まった」(米重氏ツイート)と割り切っているのではないか。「限界説」に傾斜している方々、ご油断召されるな。
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