2022年問題:地価暴落の可能性と「問題の本質」とは
【展望2022】生産緑地、法改正で終わらない問題- 都市の農地が売りに出され、不動産下落になる「2022年問題」の年に
- 2022年、東京の地価が下がる可能性は?今後の動向を注視したいのは…
- 国も法改正で対策は講じたが、それでも終息しない2022年問題とは?
筆者の記憶では「2022年問題」という言葉が頻繁に聞かれ始めたのは2016年頃からだったように思う。当時、さまざまなメディアが「2022年には土地が大量に売られるので地価が暴落するのでは」と報じ、その後、この問題はさまざまな場所で議論された。

2022年に何が起こるのか
2022年問題を簡潔に述べるなら、これまで税の優遇を受けてきた都市部の農地が、2022年に税優遇を受けられなくなるので、収益性が低い農地の維持ができず、大量に売りに出されることで土地が供給過剰になり、地価が暴落するのではないかと危惧されている問題のことである。
ではまず、2022年問題の背景とこれまでの経緯を述べてみたい。
都市部は地方に比べ地価が高く、固定資産税等も高額になる場合が多いため、収益性の低い農地を維持管理するのが困難になりやすく、都市の農地はどんどん宅地化されていってしまう懸念があった。その様な事態を避け、都市農地の保全を図るために、国は1992年に法改正(生産緑地法の改正)を行い、30年間の営農を義務付けることで市街化区域の農地は「生産緑地」の指定が受けられるようになった。生産緑地の指定を受ければ、固定資産税の軽減措置や相続税の納税猶予措置等を受けることができる。

ただし、生産緑地の指定を受け、税の軽減を受けられるのは指定後30年まで。つまり、1992年に指定を受けた生産緑地は、今年2022年にその軽減措置を受けられる期限を迎える。
そこで懸念されたのが2022年問題だ。現在、東京都内では生産緑地の面積合計は2,972.37ヘクタール(東京ドーム約636個分)となっており、その約8割が2022年に税優遇を受けられなくなる。
税の優遇措置が受けられなくなれば、都市農地を維持するのは難しく、農地を宅地化したり、売却せざるを得ないケースが頻発するのは想像に難くない。大量の土地が市場に供給されれば需給バランスが崩れ、地価は下落すると考えられる。
と、ここまでが「2022年不動産暴落論」のシナリオだったのだが、実はこのシナリオは2018年時点ですでに崩壊している。大きな混乱を予想した国は、2018年に生産緑地法の改正を行い、税優遇の期間をさらに10年間延長することができる「特定生産緑地制度」を新たに設けたのである。この制度で定められた「特定生産緑地」の指定を受ければ、税優遇の期間は10年間延長され、さらに所有者の希望があれば10年後に再度延長することも可能だ。
この新たな制度により、2022年に都市の農地が大量に市場へ供給されるという事態は回避されたといっていいだろう。
結局、農地を売る人は少ないの?
国土交通省の調査によれば、先に述べた特定生産緑地の指定見込みは2021年9月末時点で約81%となっており、農地の大量売却という事態は起こりそうもない(参考:国土交通省「特定生産緑地の指定意向調査結果」令和3年9月末時点)
他方、生産緑地の指定が解除されるのを心待ちにしている農地所有者も一定数いると考えられる。これまで、生産緑地の指定を受けた農地には、税の優遇がなされる代わりに以下の様な厳しい条件が付されてきた為だ。
- 30年間の営農義務(実際の営農義務は永年間だが30年経過後には実質的な解除可能)
- 農地としての管理義務(休耕の場合も含む)
- 建築物、工作物の新築、改築、増築の禁止
- 転用目的での売却が(買い取り申請が)可能になるのは、相続があった場合や農業の主たる従事者の死亡や故障(ケガや病気など)で営農できなくなることが条件
つまり、一度生産緑地の指定を受ければその後30年間は農業以外でその土地を利活用できない。1992年に生産緑地の指定を受けた以降、経済的に恵まれ、健康で、後継者の育成も順調な営農者ばかりなら問題はないが、突発的に資金が必要になった場合や、農業の後継予定者がいなくなってしまった場合でも前述の解除要件を満たさなければ、生産緑地は農地以外に利用することはできない。
今後、特定生産緑地の指定を受けた場合は、各義務を負う期間が10年間に短縮され、賃貸借(農地として)しやすくなり、一定条件のもと建築も可能となるので、これまでよりは制限が緩和された。
とはいえ、特定生産緑地の指定を受けてしまうと、転用目的の売却や建築行為などが少なくても今後10年間は制限されることになる。これまで、さまざまな理由で宅地への転用を望んでいた農地所有者は、この機を逃すことはないだろう。国の調査によると、特定生産緑地の指定意向がない農地は全体の約7%で、意向未定は約13%となっている(面積ベース)。
地域によってその割合に差はあるが、単純に言うと、特定生産緑地の指定意向がない約7%(633ヘクタール)が宅地化濃厚の農地で、意向未定の約13%(1,213ヘクタール)が宅地化の可能性がある農地となる。

2022年、東京の地価が下がる可能性は?
東京都が昨年7月に行った調査によると、今年、都内で生産緑地が解除される農地は2,431ヘクタールで、そのうち宅地化される可能性が高い農地は113ヘクタールである。これを平方メートルに換算すると1,130,000㎡。一般的な建売住宅の敷地面積を100㎡とすると、実に1万1,300戸分だ。
東京都の生産緑地全体からの割合でみると113ヘクタールはわずか5%だが、その規模は決して小さなものではない。
東京都の新設分譲住宅着工戸数(戸建)は、ここ数年、年間1万8,000戸前後で推移しており、仮に113ヘクタールすべてが建売用地になると、単純計算だが東京都で年間に着工される分譲住宅戸数の6割以上の敷地面積を占めることになる。
もちろん、生産緑地が解除されても、その土地をすぐに売却しなかったり、自己住宅やアパート、駐車場などで利活用するケースも考えられるので、実際に113ヘクタールの生産緑地がすべて宅地化しても、すぐに不動産市場が供給過多状態に陥ることはないだろう。
ただ、今後の動向を注視したいのは、現時点で特定生産緑地の指定意向がない113ヘクタールに、指定意向未定(24ヘクタール)と未把握(128ヘクタール)の面積がどこまで積み上がるかだ。

その積み上がる面積が過大だった場合、生産緑地が多いエリアでは一時的に土地供給が過多になる可能性もある。
ただ、東京区部の生産緑地面積は395.64ヘクタールと少なく、先に掲げたグラフ(特定生産緑地の指定見込み)のとおり、このうち約90%が特定生産緑地の指定を受ける意向だとすれば、区部においては土地が供給過多になる可能性は極めて低い。
一方、東京市部の生産緑地面積は2,576.73ヘクタールで、区部の約6.5倍だ。とくに生産緑地が多い市では、局所的な2022年問題(供給過剰と地価下落)が実際に引き起こされる可能性は否定できない。
東京市部で生産緑地の面積が多い上位3市は以下のとおりだ。
・1位 八王子市 223.10ヘクタール
・2位 町田市 208.33ヘクタール
・3位 立川市 197.89ヘクタール
※2021年4月1日現在
参考「東京都内の生産緑地地区一覧」
実は2022年問題は終息しない!

2022年問題では、不動産価格の動向にばかり注目が集ることになったが、地価動向と同様に重要なのは都市農地の在り方に目を向けることだ。
すでに周知のとおり、日本は人口減少期に入っている。国内人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じ、2048年には1億人を下回ると推計されている。人口減少が進行していくなか、土地の適正利用と都市農地の在り方は常に見直していかなければならない。都市のコンパクト化も急務だ。
※参考 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
また、生産年齢人口(14歳~64歳)も年々減り続け、2029年、2040年、2056年にはそれぞれ 7,000 万人、6,000 万人、5,000 万人を割り、2065年には 4,529 万人となる推計がなされている。当然、都市農地での農業後継者も減ることになるだろう。
土地の適正利用、都市のコンパクト化、農業後継者問題など、地価動向以外にも都市農地を取り巻く問題は山積している。
実は、これらの問題解決を常に模索し続けなければ2022年問題が解決することはない。今年、特定生産緑地に指定された農地は、10年後に「2032年問題」を迎え、さらにその10年後には「2042年問題」がやってくるのだ。そしてその都度、特定生産緑地に指定された農地は、2022年と同じ問題に直面する。
「2022年に農地が大量に売られることはないので不動産は暴落しない」が、2022年問題の最終的な解ではないことを忘れてはいけない。
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