半導体不足「22年も続いて欲しい」!? トヨタや日産の“本音”が指摘される事情とは
【展望2022】「怪我の功名」で大儲けの自動車各社が直面する事態- 半導体不足による品薄で、自動車メーカーに莫大な利益をもたらす事情とは
- 儲けの構造を解説。工場の稼働率低下も、販売金融と値引き抑制による利益で…
- 「怪我の功名」で儲け続けられるのか。デフレからの局面変化で何が起きる
半導体不足による品薄が、一部の自動車メーカーに莫大な利益をもたらしていることは世間ではほとんど知られていない。実は「来年も半導体不足が適度に続いてくれ」と願っているメーカーさえあるのだ。
その理由を端的に言えば、半導体不足によって意図せず、売り惜しみ状況となって新車の市場への供給が滞ったため、中古車価格が高騰し、さらにそれによって新車を値引きせずに売れる、メーカーにとっては「好循環」ができてしまったからだ。

なぜ「半導体不足」で儲かるのか
供給不足の方が儲かる自動車販売の構造を簡潔に説明しよう。トヨタ自動車や日産自動車など日本の大手自動車メーカーの多くは、米国市場を収益源にしている。その北米では、「残価設定ローン」と呼ばれる売り方が主流で、たとえば3年後に引き取る際の残価を高く設定することで、新車価格から残価を差し引いた額を抑え、毎月のローンの支払額を低くしている。そうすることで低所得者でも高価格帯の新車が買いやすい仕組を作っているのだ。
誤解を恐れずに言えば、「自動車版サブプライムローン」で稼いでいるのである。こうした売り方によって、収益性の高い高級車を売りやすいようにしているわけだが、このビジネスモデルが成功するための絶対的な条件として中古車価格が高いことが挙げられる。なぜなら高い残価で引き取った中古車を転売する場合に、引き取り価格よりも低ければ、逆ザヤになってしまうからだ。
今の米国の中古車相場では、高い残価で引き取って転売しても利益が十分に出る。米国における中古車価格の動向を示す「マンハイム指数」は1995年の1月を100とすると、21年10月には223.7となり、過去最高だった。この傾向はおそらく来年も続くだろう。
続いて、米国の新車販売では「インセンティブ」と呼ばれるキャッシュバック(値引き)の制度があり、ブランド力が低いメーカーや供給量が多いメーカーは、この「インセンティブ」の額が大きく、それが収益を圧迫してきた。
それでも、一部自動車メーカーはこれまで、工場の稼働率を高めるために、大量に生産して市場に押し出してきた。押し出し先は、フリート販売と呼ばれるレンタカー向けなどだが、数年後にはそのレンタカーが中古車市場に大量に出回ることになり、需要と供給の関係上、中古車価格が暴落し、逆ザヤとなって台数を売れば売るほど赤字が膨らむ負の循環に陥ることもあった。個人に売る場合でも供給過剰の状態では、インセンティブの額が跳ね上がった。
しかし、完成車の生産量が落ちて供給過剰から需要過多に変化したことで、中古車価格を高値で維持でき、かつインセンティブを出さなくても新車が売れるようになった。要は、工場の稼働率低下による影響を、販売金融と値引き抑制による利益で補ってもおつりがくる状況になったのだ。
半導体不足による減産が、米国における販売上の構造的課題を打ち消した格好だ。ただ、これは一種の「怪我の功名」であり、こうした利益の出し方が良いのかどうか、今後、賛否両論出てくるだろう。
トヨタはもちろん日産の黒字化も…
その半導体不足の恩恵を最も受けているのがトヨタだ。2021年4~9月期決算で営業利益は前年同期から1兆2274億円増加して1兆7474億円となったが、最大の増益要因が「営業面の努力」による1兆550億円。この主な中身が、北米における在庫減少による中古車価格高騰の影響とインセンティブの抑制なのだ。同期間の北米地区営業利益は前年同期から3242億円も増加して3951億円となり、全体の増益に大きく貢献している。
トヨタの近健太CFO自身が率直に「今回の増益は、中古車価格の高止まりと販売費(インセンティブ)の低下によるもので、実力以上の部分がある」とコメントしている。トヨタは22年3月期決算でも引き続き、在庫減少とインセンティブの抑制効果で9200億円の増益要因を見込んでおり、今の状況では純利益はおそらく過去最高を更新するだろう。
トヨタと並んで恩恵を受けているのが日産だ。日産はゴーン経営時代に「台数至上主義」に陥り、北米で値引き販売を推奨し、レンタカーに押し込み販売をした。この結果、ブラン力が低下し、中古車価格が下落する悪循環に陥り、北米事業の収益が急激に落ちた。

日産の21年4~9月期決算でも「販売パフォーマンス」の向上が増益要因では最大の2630億円を計上している。これも中古車価格の高騰とインセンティブの抑制によるもので、北米地区の営業利益は前年同期比で10倍近い1868億円となり、一転して稼ぎ頭となった。全体の営業利益は2979億円増加の1391億円。北米の収益が全体の増益を支えている。
2期連続で巨額赤字を計上した日産は22年3月期に黒字転換できるか否かが株式市場での信認を得るうえで一つのカギだったが、半導体不足が黒字化を後押ししており、日産の本音はおそらく、来年も今の状態がある程度続いてほしいと思っているだろう。
マツダも同様に「台数・構成」による効果が増益要因では最大の1078億円ある。しかし、21年下半期に入って依然として米国での小売り台数は回復していない。米国市場での月次販売実績を開示しているトヨタ、ホンダ、SUBARU、マツダの4社の10月の米国における新車販売は計30万台で前年同月比28%落ちた。11月も23%落ちている。
こうした状況でも中古車価格の高騰とインセンティブ抑制の方が、販売減・減産の効果を上回ると見られており、「トヨタや日産やマツダは内心、来年も半導体不足が続いて欲しいと思っているのではないか」(アナリスト)との見方すらある。
高騰の中古車市場で新車のランクル出品
一方で、北米で元々ブランドイメージが高くて中古車価格も高く、需要に生産が追い付いていなかったメーカーには恩恵がない。SUBARUがそれに該当するだろう。ちなみに中古車価格の高騰は米国だけではない。国内でも、世界的な需要増による輸出増と、新車供給不足によって中古車価格は値上がりしている。中古車競売大手ユー・エス・エス(本社・愛知県東海市)によると、今年10月の中古車の平均落札価格は93万8000円となり、過去10年で最高となった。
11月26日、トヨタの人気SUV「ランドクルーザー300」の新車が、ユー・エス・エス運営のオークションに出品され、新車価格の3倍近い1600万円で競り落とされたことが業界で話題になった。「ランドクルーザー300」は21年8月に14年ぶりにモデルチェンジされたばかりだが、半導体不足の影響により、製造しているトヨタ車体吉原工場が10月には11日間生産停止に追い込まれるなど供給が滞っている。

このため、購入者の手元に届くまでには2年近くかかると言われ、中古車価格が高騰しており、新車を手に入れた人が転売したと見られる。個人が転売するだけではなく、転売業者も現れているようだ。トヨタは「ランドクルーザー300」の購入者に対して、転売しないことを謳った誓約書にサインしてもらっているとのことだが、個人の財産の処分の話になるので、法的には誓約書の拘束力はないと見られている。
来年以降も引き続き半導体不足は続くと見られ、その「マジック」によって一部自動車メーカーは高収益が続くだろう。しかし、こうした状況が長く続けば、部品を何個売ったか、すなわち自動車メーカーの出荷台数が業績に直結する部品メーカーなど下請けの業績に影響が出始めるのは必至だ。
デフレからの局面変化で何が起きる
自動車産業は日本の就業人口の約8%に当たる550万人ほどが働いている。トヨタや日産などサプライチェーンの頂点いる企業の従業員数はそのうち20万人程度しかなく、残りは部品産業などの「すそ野産業」だ。
日本人の所得が伸びないことを背景として、岸田政権は「分配」を重要政策の一つに掲げている。所得を伸ばしていくためには、トヨタなどのサプライチェーンの頂点にいる企業が、「すそ野産業」にどう配分していくか、その目配せも重要になるだろう。

さらに鉄鉱石や原油、銅、マグネシウムなどの市況価格が値上がりしている資源インフレが続いており、それは来年も収束しない。それにより材料コストが跳ね上がっており、下請け中小の業績を直撃していくだろう。自助努力では対応できない水準にまで来ている。
この30年近く、「失われた○十年」と呼ばれる中で、日本経済はデフレだった。しかし、コロナ禍を機にインフレの芽が現れる一方で、所得が上昇しない「スタグフレーション」の気配も感じる。デフレ下では材料コストも人件費も上昇しなかったので、トヨタが下請を買い叩いても、何とかやってこられたが、局面は大きく変わろうとしている。
半導体不足という「怪我の功名」によって莫大な恩恵を受ける企業、特に賃上げなどで産業界に大きな影響力を持つトヨタは、前述したように今の高収益の状況を「実力以上」(近CFO)と謙遜しているが、見方を変えれば、これから配分を迫られることを想定してのけん制と受け止めることもできる。
いずれにせよトヨタを中心に自動車メーカーなど高収益を出している企業がどう「配分」していくのか。22年のホットイシューの一つになると筆者は見ている。
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