アメリカは「内戦」に近づいている?トランプ信者が加速させた米国内の分断
【展望2022】“内戦研究者”の興味深い分析、分断回避の道は?- 米議事堂襲撃から1年、日本メディアが報じない内戦の萌芽とは?
- 世界の内戦を研究してきた学者「米国内の内戦勃発の可能性」指摘
- 全米3億人のうち「トランプの勝利は盗まれた」説に同意した人の数は…
振り返ってみれば、すでに去年となった2021年には、国際的に実に大きな動きがあった。世界的には米中の対立が深まったこと、アメリカがアフガニスタンから撤退したこと、さらには新型コロナウイルスに対するワクチン接種が世界中で始まったことが最大のニュースと言えるかもしれない。
だが見逃されがちなのが、アメリカが「内戦」の一歩手前まで来ているという解釈が信憑性を帯びてきたという事実だ。
実にショッキングな話だ。だが、もし本当にこれが起こったとすれば、東アジアの同盟国である日本にとっても大きな影響を及ぼすことは確実なために、看過できない話だ。もちろん起こるかどうかは「神のみぞ知る」なのだが、なぜそこまでリスクがあると見られているのか、その理由を簡潔に説明してみたい。

1年前に起きていた「米国内戦」の萌芽
今からほぼ1年前の2021年1月6日に、アメリカの連邦議事堂がトランプ大統領(当時)の大量の支持者たちから襲撃を受けて選挙された事件を覚えている方も多いと思う。
事件の当初はトランプ支持者に親近感を抱く日本のネットの界隈でも、「議会襲撃は『アンティファ』(過激な反ファシスト派)たちが先導した偽旗作戦だ」というデマを真に受けた議論も散見された。これはアメリカの右派系のメディアの情報をそのまま垂れ流していたにすぎない。
実態はどうだったか。すでに逮捕者も大量に出て裁判も始まっており、下院の特別委員会でも無数の証言や証拠が集められている。その結果、トランプ支持者たちだけでなく、現役の議員や大統領のスタッフ、さらには大統領自身が、積極的に民主的なプロセスを暴力的に妨害しようとしたという事実が明らかになりつつある。
連邦議事堂が襲撃されたのは1812年の米英戦争でイギリス軍がワシントンDCを1814年に焼き討ちした案件以来だ(ただし小規模ながら銃撃事件や爆破事件などはある)。また、自国民によって長時間占拠されるというのはもちろん前代未聞の話だ。
この占領事件そのものは1日で騒動が収まった。そのためか日本の大手メディアではその政治的な意味があまり深くは分析されていない。が、その当初からこれはトランプ側勢力による「クーデター」ではないかという意見もあった(参照)。それほど事態を深刻に考える人々もいたのだ。
さらには、今回の件を「アメリカの内戦への一歩だ」というより大きな文脈でとらえようとしている識者がいて注目を集めている。
米議会襲撃は「国内テロ」

カリフォルニア大学サンディエゴ校のバーバラ・ウォルター教授は、長年にわたってシリアやイラクなどの例を研究し、どのような要因が国家を内戦に向かわせるのかを研究してきた人物だ。1月末に発売される新刊『内戦はいかにして始まるのかーそしてどのように止めるのか』(How Civil Wars Start: And How to Stop Them: 未訳)の中で、そのような分析をアメリカに当てはめて、いかに内戦に近づいているのか、実に興味深い検証を行っている。
彼女は以前からアメリカにおける民主制度の力の低下について指摘していたが、去年の事件発生の直後にもあるラジオのインタビューで「1月6日の事件をどのように定義するか」という質問に「国内テロ」(domestic terrorism)であると断言している。
ずいぶん過激な言葉を使うと考える人もいるかもしれない。だが、彼女はその定義を「政治目的のために非合法な暴力とその脅しを使うこと」と定めていて、これは今回の一件にまさに当てはまる。ちなみに暴動事件を起こした人物たちにとっての「政治目的」とは「バイデン当選の阻止、トランプ再選の実現」であった。
ただし注目すべきは「国内テロ」という指摘ではなく、むしろ彼女が新刊で行っている「アメリカの内戦勃発の可能性が高まっている」という指摘の方だ。
アメリカが内包する「分断リスク」
彼女は新刊で、どこで戦争が始まるのか、誰が始めるのか、何が引き金になるのか、なぜ紛争に陥る国がある一方で安定を保つ国があるのか、といった「警告のサイン」を明らかにしており、それらを数々のデータを踏まえて世界の国々をいくつかのカテゴリーに分類している。
たとえば過去にアメリカが占めていた「成熟した民主国家」というカテゴリーには、ノルウェーやアイスランド、スイス、ニュージーランド、カナダ、コスタリカ、そして日本などが入り、アメリカはここ数年のうちに当該カテゴリーから脱落している、という。
ではアメリカはどこに分類されるのか。ウォルターは、米国は今やエクアドル、ソマリア、ハイチのような民主主義と独裁国家の中間にある「アノクラシー」(民主制と独裁制を混合する体制)であると指摘している。
実際のところ、トランプ大統領の下でアメリカの民主制度の状況は劇的に悪化し、もはや定義的には民主国家に当てはまっていない。つまり「部分的な民主国家」 でしかない、というのだ。
さらに悪いことに、彼女は「『部分的な民主国家』は『成熟した民主国家』と比べて内戦を経験する確率が3倍になる」と指摘しており、さらに内戦のリスクが高い国の要素として「人種・文化の分断があること」としているのだ。
これはまさに現在のアメリカそのものではないだろうか。

4700万人が「トランプの勝利は盗まれた」説に同意
他にも気になるデータがある。去年の半ばにアメリカの成人に対して行われた意識調査では、「2020年の選挙はドナルド・トランプから盗まれたもので、ジョー・バイデンは違法な大統領である」という意見に同意する人々が、なんと全米3億人の中に4700万人、つまりほぼ5人に1人もいることになる。
さらにそのうち2100万人が「ドナルド・トランプを大統領に復帰させるためには武力行使が正当化される」という意見にも同意しているというのだ(参照)。
日本が安全保障を最も頼っている国の中にこのような意識を持った人間が大量にいるという異常事態について、われわれ日本人はもう少し真剣に考えても良いかもしれない。
ではアメリカが内戦の危機に陥るリスクを回避できるような解決法はあるのだろうか?
分裂を防ぐのは「中国という外患」のみ?
倫理的にあまり好ましいものとは言えないが、そのうちの一つは、国外から来る「大きな脅威」を「全米の共通の敵」として認識させることかもしれない。たとえばコロンビア大学の経済学部の教授で世界的にも有名なリベラル派のジェフリー・サックスは、12月末のニューズウィーク誌の中でこう述べている。
アメリカの混迷は国際社会にも暗い影を落としている。今のアメリカ人を団結させられるのは、外からの脅威に対する強い緊張感くらいのものだろう。
実に皮肉な発言だが、これは政治の分断にあえぐアメリカにとって、確かに「救世主」となる可能性がある。そしてその格好の存在が、東アジアで台頭し、アメリカが築いた国際的な秩序に挑戦する構えを見せている中国であることは言うまでもない。
新年早々からダークな話となってしまうが、2022年の世界政治は「米中新冷戦」という基軸だけでなく、「アメリカ自身の分裂のリスク」、そしてそれを克服するために中国がどのような役割を果たすのか、という点にも注目すべきである。
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