中国経済の真の脅威は、恒大ではなくアメリカの金融引き締めだ
【展望2022】テーパリング後に何が起きる?- 中国は不動産バブル崩壊の危機だが、政府は恒大問題を「制御可能」と見ているはず
- 海外マネーの流入で人民元の為替相場も安定、企業の破綻処理をしやすかった
- しかし米FRBが物価高を受けて引き締め策に転換。テーパリング後に起きることは?
中国の不動産開発大手の恒大が社債の利払いができずに複数の格付け機関からデフォルトとされて20日以上が経つ。しかし、中国の不動産市場が雪崩のように崩壊して不動産バブルがはじけたといわれるような状況には今のところ至っていない。もちろん恒大に限らず不動産業界の資金繰りは苦しく、在庫の投げ売りも起きているようだが、次々と不動産業者が破綻して、それらに融資をした金融機関の経営にまで影響が出るというパニック的状況にはない。
恒大問題「制御可能」とみる理由
それは中国政府が、社会不安が起きないように事態のソフトランディングをはかっているからだ。習近平政権にとって、「共同富裕」のスローガンを掲げて貧富の格差解消を目指す以上は、バブルに踊る不動産業界を締め付ける必要があるが、バブルをつぶすことによって社会不安が生じることは絶対避けたい。

中国政府は、地方政府、国有銀行、国有企業などを使って建設途中の不動産を完成させて購入者に引き渡すなどして恒大問題を自らの手のひらの上で処理し、経済全体に影響が及ばないようにするつもりだろう。最近でも業種は違うが、国有銀行の不良債権処理を行う中国華融資産管理や海南航空を傘下に持つ海航集団といった企業の大規模な不良債権処理を粛々と行っている。
もちろん不動産バブル崩壊は恒大だけの問題ではない。これからも行き詰まる企業は次々に現れ、中国政府はその度に処理に追われるだろうが、それでも制御可能だと考えているようだ。しかしこうした企業の破綻処理は、海外から資金が流入して為替相場が元高傾向になり、人民元相場を下支えするための為替介入や国内金融の引締めをしなくても済む状況だから容易にできたことだった。
近年、主要国の中央銀行が超緩和的金融政策をとる中で発生した過剰なマネーは世界中で収益機会を求めて暴れまわり、これが中国にも流れ込んだ。
株式については、資本市場の規制緩和の一環として、2014年に「ストックコネクト」と呼ばれる制度が作られ、それまで海外の個人投資家が買えなかった上海市場上場株式を香港市場経由で買えるようになり、さらに2016年には深圳市場上場株式についても同様の措置が講じられて、中国への海外からの資金流入が大幅に増えた。
また債券については、主要国がゼロないしマイナス金利政策をとる中で、高金利で為替リスクの小さい人民元建て債券は海外の投資家の人気を呼んだ。人民元建て10年物国債の利回りは、今年2月下旬頃には3.3%を超え、10年物米国財務省証券の利回りとは2%近い開きが生じた。また、人民元の為替相場も貿易黒字の増加と海外からの資金流入などから元高方向に振れたため、海外から資金が押し寄せた。

しかし、ここに来て過剰なマネーの潮目が変わりつつある。アメリカの物価は今年の春以来上昇を続け、11月には前年比6.8%と約40年ぶりの上昇率となった。このためFRB(連邦準備制度理事会)はそれまでの「物価上昇は『一過性』」と言って様子見をする姿勢から、金融政策を引き締めの方向へ転換し始めた。
米の引き締め、巡り巡って為替相場に…
FRBは、まだ現段階ではテーパリングという国債などの資産買入額を徐々に減らす、いわばユルイ政策転換だが、今後物価上昇の勢いが弱まらないと今年早いうちに年に何回も政策金利を引き上げる本格的な金融引き締めに移行することとなろう。
そうなると世界中にあふれている過剰マネーが消滅し、中国に向かうマネーの流れもストップする。そしてそれだけでなく、中国とアメリカの間の金利差が縮まるのでマネーがアメリカへ回帰することとなる。
このような海外への資金回帰が始まると中国の株式や債券の価格が急落するため、海外の投資家はますます焦って資金を中国から引き上げようとする可能性が高い。前掲のグラフでは、今年6月末の証券投資残高が約2.1兆ドル(約241兆円)と、約3.3兆ドル(約379兆)ある外貨準備高の3分の2近い金額まで積みあがっていることが示されているが、これがすべて一度に流出しないとしても中国の国際収支に与える影響は半端ないものがある。
そうなると人民元の為替相場は大きく元安になり、輸入原材料を使う企業の採算を悪化させる上に、消費者物価の上昇につながることから、人民銀行としては人民元の為替相場を支えるために為替市場への介入と同時に預金準備率や政策金利の引上げといった金融引き締め措置をとらざるを得なくなるだろう。
しかし、こうした金融引き締め措置は減速中の中国の景気をさらに落ち込ませるばかりでなく、資金繰りが苦しい不動産業界の息の根を止めることとなるので、不動産バブルが雪崩のように崩壊してしまう危険性が高い。
中国経済にとって、真の脅威は恒大ではなくアメリカのFRBの金融引き締めだ。
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