あしたの元日朝刊、歴史に残るスクープは飛び出るのか?

かつてはサリン事件3か月前のすっぱ抜きも

新聞社の元気がなくなって久しいと言われる。新聞協会の部数データによれば、過去5年で4,327万部から3,302万部と1000万部も減らしたという。構造不況業種ならではの停滞感が渦巻く中で、最近はツイッターで匿名の記者アカウントがグチをこぼしている者も増えているようだ。

それでも世の中を、権力者を、震撼させるスクープこそが報道機関としての力の源泉だ。近年は「文春砲」の後塵を拝していると揶揄されようと、雑誌記者たちが入れない記者クラブ制度を逆手に取り、権力者の懐に飛び込み、あるいは地道に独自調査を重ねて、週刊誌が売れないと見送ったネタを社会に提起する。

そんな記者たちの矜持を凝縮したようなスクープの中でも、元日の紙面は特別だ。実際、過去にも国家機密をすっぱ抜き、権力者たちを仰天させた伝説の特ダネは存在する。

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地下鉄サリン事件より2か月早かった特報

「あの時は社会部記者たちの間でもゲラに載るまでごく一握りしか知らなかった」。読売新聞の関係者がそう振り返るのが1995年の元日スクープだ。

サリン残留物を検出。山梨の山ろく『松本事件』直後 関連解明急ぐ」と一面トップに大々的に掲載された記事は、山梨県上九一色村(後に自治体再編で甲府市などに編入)で前年の7月に異臭騒ぎがあり、警察が極秘に現場の草木や土壌を鑑定した結果、猛毒ガス・サリンを生成した際の残留物質が検出されたと報じたものだった。異臭騒ぎの前月には長野県松本市で松本サリン事件が発生し、8人が死亡する大惨事だった。

読売新聞1995年1月1日朝刊より

しかし、この報道段階まで、誰が犯人なのか報じられておらず、読売のこの記事でもオウムの名前は挙げていないが、警察当局はすでに、オウム真理教の関与を疑い、極秘捜査を続けていた矢先だった。オウム事件での警察・自衛隊の動きを取材したノンフィクション作家、麻生幾氏の『情報、官邸に達せず』(新潮文庫)では、警察庁の幹部が元日朝、自宅のポストに読売朝刊を取りに行って誌面を見て仰天、誰が読売にリークしたのかを巡り、警察中枢が“静かに騒然”となった逸話が紹介されている。

ただ、残念ながら、渾身の大スクープにもかかわらず、同年3月20日に起きた地下鉄サリン事件を防ぐには至らなかった。読売の報道を受けて警察当局がもっと早く動けるような状況であったなら、オウム事件は全く違う展開になっていたかもしれない。

朝日は皇室報道で底力

読売は伝統的に元日の一面トップにスクープ記事を飛ばし、翌日の休刊日を挟んで3日付の朝刊一面から正月用の特集を展開する傾向がある。2001年の元日には外務省幹部が機密費を流用している前代未聞の疑惑を特報。のちに7億円ほどを横領し、競走馬やマンションの購入費などに当てていた歴史的不祥事に発展した。

ただ、毎年のように大スクープを飛ばせるわけではない。ある全国紙記者が「おせち紙面」と自嘲するように、どちらかといえば鮮度の強いストレートニュースよりは、正月休みにじっくり腰を据えて読むドキュメンタリーや企画特集を組む構成を主体とする新聞社の方が増えている傾向がある。

それでも他紙も負けじと弩級のネタを掘り起こすことは多い。朝日新聞は2019年の元日一面トップは「昭和天皇の直筆原稿見つかる まとまった状態で初めて」。御製(ぎょせい、和歌)を推敲する際に使ったとみられる原稿が見つかった、と報じた。朝日は、1987年に秋篠宮さま(当時は礼宮)と大学の同窓生、川嶋紀子さんとの婚約をスクープするなど、皇室報道で圧倒的な強さを誇る伝統があったが、ひさびさに強さを見せた。

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経済安全保障?22年元日の特ダネは?

それでは、来年(というか明日)の元日に各社が何を飛ばしてくるか注目されるが、ネタそのものは難しくてもある程度の傾向はうかがえる。一つは中国を睨んだ政府の動きの報道だ。特に経済安全保障は岸田政権になってから担当大臣が置かれるなど重視されている。経済安全保障という言葉が社会的に広まる前の段階から読売は2019年の元日一面トップで、中国のサイバー攻撃を念頭に電力、水道などの重要インフラの関連データを国内に保管するように求める方針を固めたと報道した。

初代の経済安保担当相に就任した小林鷹之氏(政府インターネットテレビ)

21年元日は、「海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクト『千人計画』に、少なくとも44人の日本人研究者が関与していたことが、読売新聞の取材でわかった」と特報した。ただ、週刊新潮がこれに先駆けて「千人計画」の報道をしており、月刊Hanadaの花田紀凱編集長がブログで「『週刊新潮』の焼き直しを「独自」と呼ぶ、恥知らず」と厳しく論じるなど物議も醸したが、経済安全保障関連は予想される有力なトピックといえる。

一方、毎日新聞は同日の一面特報で「コロナ×中国」と注目度の高い2つのトピックスの合わせ技。「中国で製造したとされる新型コロナウイルス感染症の未承認のワクチンが日本国内に持ち込まれ、日本を代表する企業の経営者など一部の富裕層が接種を受けていることが明らかになった」と報じた。これも近年の毎日の元日スクープでは出色だったが、記事では実際に、東京都内のクリニックを大手IT企業の社長と妻が訪れて接種する場面も活写。迫真性の点でも評価された。

果たして2022年の幕開けは、世間がアッと言うようなスクープが飛び出すのだろうか。

 

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