日本人にイノベーターは多い !? 世界標準のテストから分かった意外な事実

ジャーナリスト
  • 日本にも実行力が高いタイプと同程度に、発見力の高いイノベーター気質は多い。
  • 組織は既存の日常業務の遂行能力で評価。イノベータータイプは評価しない。
  • 「嚙み合わない」実行力タイプとイノベータータイプが協力すれば、最高の結果も

日本でイノベーションが起こらないのはなぜか?それは日本人にイノベーター気質の人が少ないからだ、などといったもっともらしい言説がありそうだが、実はそうでない。世界標準のイノベーター度を測るテストで、日本にもかなりのイノベーター気質の人がいることが分かったという。問題なのは、日本の組織に、そういったタイプを評価し、育てようとする仕組みが存在しないということだ。

metamorworks/iStock

日本にもイノベーターはたくさんいる!? 

興味深い調査結果が10日に発表された。「イノベイターDNA診断」という世界標準のイノベーションの能力を測る評価手法で「実は日本人の中にも、イノベーティブな人がたくさんいる」ことが判明したというのだ。

同テストは『イノベーションのジレンマ』の著書で知られる米国の研究者クレイトン・クリステンセン氏らの研究に基づいて、米innovator dna社が作成したイノベーター資質を図る診断方法。日本では株式会社INDEE Japan社が翻訳し提供しており、すでに1500人以上がテストを受けているという。

テストでは、日常の行動について70問弱の質問があり、オンラインで回答することで、個人のイノベーターとしての資質が測られるのだという。質問には例えば次のようなものがある。

「現状に挑戦するような質問をよくします」

「新しい方法を探るために、他の組織を訪問します」

「新しいビジネスのアイデアを見つけ、形にするために多様な人々(他のビジネス、会社様式)と話します」

これらの質問から、日常の行動について答えていくことで、個人のイノベーションに取り組む資質を評価しているという。質問からも、イノベーターがなすべき行動パターンがみえてくる。

このテストを日本でも行ってみたところ、アイデアを出し発見することに優れたイノベータータイプが25%と多く存在することがわかったのだという。対になるタイプとして、実行力が高い人のことをエクゼキュータータイプというが、その割合は全体の26%。意外にも比率はほぼ同じなのだ。

INDEE Japanプレスリリースより

同診断を日本で提供しているINDEE Japan社は「イノベーション・コンサルティング」が売り。イノベーションを生み出そうと試みる新興企業や大企業の新規事業部門を日常的にコンサルティングしているのだという。

「日本にも間違いなく、イノベーティブな人はいます。ただ、そういう人を組織が評価する制度には、まだなっていない。和が重んじられ、黙って仕事をしなさい、という従来からの組織文化が依然とあるのです」(同社代表取締役の津田真吾氏)

日本の組織に嫌われるイノベーター

同社の分析によると、このテストを個人で受けた人と、組織で受けた人では、資質に大きな違いが出たのだという。50人以上の組織でテストを受けた人になると、イノベータータイプは19%とグッと減って、実行力に強いエグゼキュータータータイプが38%と、4割近くにのぼったのだという。

INDEE Japanプレスリリースより

「大企業では確立したビジネスモデルの遂行が重視され、日常業務を遂行するスキル、つまり実行力の高いメンバーに偏っている。やるべきことばかりに意識が向けられ、新たに解決すべき課題の発見がおろそかになっている」と同社。「イノベーティブな日本人、エグゼキューティブな日本企業」という結果を公表したホワイトペーパーのなかでそう分析している。

イノベーターを定義している人物像を読んでいると、日本の組織にイノベーターが少ないことの一端も垣間みえた。

機会発見志向で実行力が低いタイプ。(略)通常の実現性を超えてアイデアを創出することが多いため、周囲のメンバーがイノベーターのアイデアを理解できないことがおきます。

こうした一長一短あるような人物像はまさに、日本の組織では排除されやすいタイプではないだろうか。夢ばかり語って実行が苦手な人だとも読み取れ、日本の組織では嫌われがちな人物像だともいえる。

だが、面白いことにこう続いていた。

エグゼキューターとの協力には困難もありますが、アイデアを具現化する協力者と協力しあうことで最も成功します。

イノベーター評価の仕組みがない

日本の組織では排除されがちなイノベーターだが、こうしたテストを受けようと試みる企業があることからも、なんとかイノベーションを生み出したい願望が企業にあるのは確かだろう。日本企業がこれから、イノベーティブな人材を評価しようとする動きはあるのだろうか。津田氏によると、その動きはまだ遅いという。

「評価の仕組みは人事制度ですが、組織の中で制度が変わるのは最後の最後なんです。イノベーターがプロジェクトを立ち上げ、成功して部門が立ちあげられ、大成功を収める。そこでイノベーターが制度を作る側にまわれる。そこまでいって、やっと制度を変えられるわけですが、そこまで行くのには実際のところ時間がかかるのが現実ですね」(同)

つまり大成功でもしない限り、日本の組織でイノベーターを評価する仕組みが生まれにくいという。

「結果を出さないと評価されにくいのは、組織も起業家も同じ。やはり結果を出してこそというのがあります。イノベーションを生み出そうとしている企業には、組織づくりから支援をして、まずは結果を出せるように努めています」(同)

クレイトン・クリステンセン氏は、著書『イノベーションのDNA』で「破壊的イノベーションは、チームプレーに他ならない。一人の力では、新しいアイデアを生み出し、なおかつそれを実現させることは出来ない」と論じている。

「リーダーや企業・国家が率先して発見力を自由に発揮できる環境を整えれば、ものごとは自ずと良い方向に向かう」としている。組織のなかで、多様な人材の力が協力しあい個性を生かしたチームプレイをすることこそが今の日本には必要なようだ。

 

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