やはりスキャンダル合戦の様相、韓国大統領選で「悲劇の選択」を迫られる韓国国民

「野党候補勝利」の流れが、なぜ狂ったのか
早稲田大学名誉教授
  • 韓国大統領選で、勝利確実と言われた野党候補の支持率が急落、与党候補が急上昇
  • 与野党候補ともに家族の醜聞が発覚したが、ともに「目くそ鼻くそ」の暴言
  • 「一寸先は闇」。与党候補は選対幹部の総入れ替えを表明したが…

韓国は文字通り「一寸先は闇」と言える新年を迎えた。正月早々、尹錫悦大統領候補は野党の「選挙対策員全員の辞表受理」を表明し、当面の選挙活動を中止した。一体、何があったのか。

正義の味方だった尹候補がスキャンダル噴出で転落したが、悪役には、与党の李在明大統領候補、朴槿恵前大統領、文在寅大統領も名を連ねる。大統領選が悪役ドラマに書き換えられた格好だが、「韓流時代劇」は、そうした悪人ばかりの韓国政治への批判を込め、「真の正義のヒーロー」を求める筋書きとなっている。

尹錫悦氏Facebookより

与野党候補ともに家族の醜聞が発覚

正月三が日に、与野党大統領候補への韓国民の失望が明らかになった。野党候補の支持率は29%に急落し、「与野党ともに大統領候補を変更した方がいい」、との世論が57%に達した。

スキャンダルの始まりは、与党候補の李在明氏だった。ソウル近郊の城南市長時代の不動産開発で、不当な利益配当が明らかになったのだ。また、息子の常習賭博と買春疑惑が明らかになり、支持率は20%台にまで落ちた。

これで、野党・尹候補の当選は確実視され、野党陣営は「政権交代」が実現すると思い込んだ。ところが、22年正月の世論調査で今度は尹候補の支持率は急落、与党候補は39%に上昇し、両候補の支持率は10%の差が開いている

李在明氏Facebookより

何があったのか。決定打は、尹候補の金建希夫人の経歴詐称だった。夫人は、水原女子大学教員への応募経歴に、「有名なコンクールで受賞した」と書いたが、これが嘘だった。

韓国の大衆心理を考えたら、韓流ドラマのように尹候補と夫人が「土下座」して謝れば、むしろ国民は感激しただろう。ところが謝罪の仕方が悪かった。夫妻ともにすぐには公式謝罪せず、夫人は経歴詐欺疑惑を報じられた翌日に通信社のインタビューに応じ、謝罪を表明。尹氏は報道の3日後に国会記者室を突然訪れ、謝罪を述べた。謝罪こそしたものの、いずれも公式会見ではなかった。これが支持率急落につながった。

大統領候補が「目くそ鼻くそ」の暴言

こうした尹候補と金夫人の態度を与党は攻撃し、メディアや野党内部でも「公式の謝罪をすべき」との批判が高まった。これを受け、夫人は報道から2週間後の12月26日に改めて記者会見し「国民の皆様に謝罪します」と述べた。だが「夫に迷惑をかけた」との表現が多く、国民への謝罪とは受け止められなかった。

経歴詐称疑惑に謝罪会見をする尹錫悦氏の妻、金建希(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

2人そろって土下座して謝罪をすれば許すのが、韓国文化だ。その覚悟なしには、大統領になれない。だがそのことを指摘する側近も広報担当もいなかった。明らかに、謝罪の危機管理と広報に失敗したのである。前検事総長の尹候補は、国民を上から目線で見ているとの反発を残したうえ、野党政治家の党内対立も報じられた。

韓国の大統領には、国民のために不利益を受け入れる覚悟がいる。国民に正直に謝罪すれば、許し受け入れる。文在寅大統領は、度重なる問題に謝罪を重ねて支持率を維持した。

与党の李在明候補も、息子の賭博常習と買春事件について、土下座して謝罪し支持率を回復した。その後に「息子は他人だが、夫人は公人」とうそぶいた。政治家としては余りに品がない、目くそ鼻くその発言には驚かされるが、「謝罪」という点では民心を理解していたといえよう。

詐欺師や失職政治家が跋扈する韓国政界

韓国の世論は、移ろいやすい。「政権交代に期待」の世論は50%を超えたが、「与野党ともに大統領候補を変更すべき」との回答も50%以上に達した。国民の両候補への失望は明らかだった。支持率が逆転したと言っても、与党の李候補が大きく支持率を伸ばしたわけではなく、野党の尹候補陣営の「自爆」に過ぎない。政治家としての資質不足に、国民が呆れた。

これを受け、尹錫悦候補は、1月3日に会見し「大統領選対委員の全員入れ替え」を表明し、出直しを明らかにした。

失望の始まりは、与党内の内紛だった。野党代表の李俊錫氏が、「大統領選挙対策の職を降りる」と宣言し、内部対立が表面化。尹大統領の側近議員が、李代表を無視し「尹候補にしか従わない、李代表の指示は受けない」と反抗したのだ。国民とメディアは、あまりに幼稚な言動を批判した。

これは韓国の大統領選挙ではよく見られる政治現象で、当選すると思われる候補に要職を狙う「詐欺師的政治家」や「失職政治家」が、ハエや蚊のように群がる。そのうちの一人が、李代表を仲間はずれにしようとしたのである。

今春、「青瓦台」の新しい主は誰に?(SUNG YOON JO /iStock)

スキャンダルまみれの大統領選

大統領争いは、昨年末までは尹釈悦候補が与党の李在明候補を10%前後も引き離し「政権交代確実」と言われた。

だが、これが内部対立を産んだ。韓流ドラマにある側近同士の忠誠競争と自分の売り込み、利権争いだ。あまりの質の低さと政治判断のなさに国民は呆れるばかりだ。

低次元の争いと、それを統率できない尹候補の政治力に、政権交代への期待がしぼんだのである。韓国民は、資質と能力に欠け、スキャンダルまみれの大統領候補のどちらかを選ばなければならない。「悲劇の選択」の年を迎えたというほかない。

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