10万円給付や児童手当は「共働き有利」、所得制限のからくり
加藤梨里『共働きマネタイズ〜 子育て費用 どうかける?どうかせぐ?』第1回- 共働き世帯の「子育て」「お金」を考察する新連載。初回は10万円給付
- 子育て世帯への10万円給付は共働き有利。所得制限は夫婦どちらかの収入で判定
- 一部自治体では所得制限撤廃も。では専業主婦世帯は不利なのか?

共働き世帯数が専業主婦世帯を逆転してから20年あまり。男女格差の是正や働き方の多様化も要因ではあるものの、1人1,000万円にも上る子どもの教育費が家計の圧迫要因になることも背景に、子育て世帯の共働きはますます一般的になってきています。
しかしながらいざ共働きで子育てを始めると、多くの夫婦が直面するのが「どれくらい働き、どれくらい稼ぐのか?」という問題です。そこには仕事と家庭の両立の難しさに限らず、積極的に稼げば公的な補助に制限を受けるというジレンマや、お金のかけ方が受験や進学、就職といった子どもの人生を左右しかねない「教育格差」への懸念など、複雑な課題が絡み合っています。
本連載では、昨今の共働き世帯の子育て事情をFPの視点からフォーカスし、親としての実体験を交えて子育て費用のかけ方や稼ぎ方を考察します。
第1回は、新型コロナ関連の経済対策として、高校生までの子どもに1人あたり10万円相当が配られる子育て世帯への臨時特別給付を取り上げます。

世帯主の年収960万円以上は10万円給付の対象外
今回の子育て世帯への臨時特別給付は、高校3年生までの子ども1人あたり10万円相当が給付されます。当初5万円の現金とクーポン5万円相当などの形で検討された給付方法は自治体の判断にゆだねられ、最終的には10万円を一括で支給する地域が多いようです。すでに年末から支給開始した地域も少なくありません。
支給方法とともに批判が相次いだのが、所得制限です。コロナ対策として速やかに給付するため、平時から子どもを対象に支給されている児童手当のしくみを活用した結果、給付対象はすべての子育て世帯ではなく、児童手当の対象となる所得水準以下の子どもに限られたのです。
児童手当では、家計をおもに支える世帯主の所得による所得制限があります。所得制限の対象になる年収限度額は扶養親族の数に応じて異なり、たとえば夫が家計を支え、妻が専業主婦(年収103万円以下)、子ども2人の場合には夫の年収960万円です※。年収がこれを超えると支給額が大幅にカットされます。
※会社員などで収入が給与所得のみの場合の目安で、厳密には所得や控除の状況により異なることがあります。
(以下、本稿では便宜上、夫婦のいずれかのみが働いている世帯を「専業主婦世帯」と表記します。)
共働きの場合は、収入の高い方の年収で判断されます。上記と同じく子ども2人の場合、夫婦のどちらかが年収1,000万円なら支給対象外になりますが、夫と妻がそれぞれ年収950万円なら対象になります。つまり専業主婦世帯で世帯年収960万円なら給付をもらえないのに、共働きなら世帯年収1,900万円でももらえるわけです。
所得制限撤廃の自治体も
共働きでも専業主婦世帯でも、子育てには誰もが多かれ少なかれ負担を抱えています。また、コロナ禍における緊急的な支援の有無が夫婦の働き方によって違うのは不公平という指摘もあります。そこで自治体の中には、今回の臨時特別給付で所得制限を撤廃するところが出てきています。
所得制限を撤廃する自治体は、国の予算に加えて地域独自の財源から高所得者などへの臨時給付を行います。本稿執筆時点(1/7)でも所得制限撤廃を表明する地域が相次いで増えてきています。しかし比較的人口の少ない地域が中心で、東京都23区など大都市圏では原則通り所得制限を設けているところがほとんどです。

ほかの制度では共働きが不利になる場合も
こうしてみると、臨時特別給付で10万円を受け取れるかどうかという観点では、専業主婦世帯よりも共働き世帯が有利にみえます。そして、このようなニュースが流れると、専業主婦と共働きのどちらが有利なのかなど、とかく対立構造を強調するような比較がなされがちです。しかし、子育て世帯への支援策は今回の給付以外にもさまざまなものがあり、総合的に見るとどちらが有利かを単純には論じられません。
たとえば税の配偶者控除や社会保険の扶養、保育料などです。これらの制度は夫婦の収入によって負担額が変わりますが、収入を夫婦それぞれの収入で判断するか、あるいは世帯合算とするかが制度によって違ったり、優遇の対象になる収入額の線引きが違ったりします。扶養関連の制度は専業主婦など夫婦の一方の収入が低いと税や社会保険料の負担が少なくなるものですが、扶養をこえて“バリキャリ”で働く共働き世帯は使えません。また、認可保育園の保育料は世帯の住民税額をもとに決まり、夫婦合算の収入が高いほど保育料が高くなります。
このため、さまざまな制度を勘案して家計全体でみると、夫婦がどんな働き方でどれくらい稼ぐのが有利なのかを見極めるのはとても難しいものです。加えて、夫婦のキャリア形成や老後の年金、資産形成、そして子どものキャリアへと視野を長期に広げていくと、一概に結論を出すことはほぼ不可能でしょう。
子育てをしながら夫婦がどのように働き、稼ぎ、子どもにどのようにお金をかけていくのか。次回以降は、子育て世代向けの公的制度や子育て関連サービスを取り上げながら、各家庭での考えを整理していくヒントを検証していきたいと思います。
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