日本企業の「PDCA病」、トヨタ流を妄信的に見習う時代の終わり

世界のベンチャーが採用する対極的な思考とは
ジャーナリスト
  • トヨタにあやかって日本企業が見習う「PDCA」思考が限界な理由
  • 筆者が取材した米シリコンバレーなどのベンチャーでは対極的な思考法
  • 時代の変化が速く、何が売れるかも分からない時代に重視すべきことは?

日本はいま、「PDCA病」に陥っていると思う。PDCAとは、P(プラン=計画)、D(ドゥ=実行)、C(チェック=確認)、A(アクション=再実行)のこと。Aの後にS(スタンダイゼーション=標準化)が来る。

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PDCAサイクルを回せなくなった

P→D→C→A→Sのサイクルを繰り返すことで、決められた仕事の水準を高めていくことができる。品質管理の水準を高めていくためには必要な手法と言われる。日本ではPDCAに関する本が多く出版されており、ビジネスパースンが実績を出すためには「PDCAサイクルを回せ」とよく言われる。

日本企業ではトヨタが「PDCAサイクル」を回す仕事ぶりに最も長けているため、好業績のトヨタにあやかろうと、多くがそれを真似する。確かに「PDCAサイクル」は、「正解」が見えた領域で使うと威力を発揮する。追いつき追い越せの時代に、効率的に高品質な製品を大量生産する時代には有効な経営テクニックだったと言えるだろう。

しかし、時代の先行きが不透明な時代、すなわち何をやることが正しいか分からない時代に、「PDCAサイクル」にこだわり過ぎると、逆に物事が先に進めなくなってしまう。なぜなら、社内調整してP(計画)を策定している間に環境が変わるほど時代の流れが速いからだ。

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先が読めない時代こそ、まず小さくてもいいから一歩踏み出して行動し、そこから軌道修正しながら大きなピクチャーを描かないと、新規事業は育成できない。そもそも、新しいビジネスを創出する仕事に標準(S)はないのだからPDCAサイクルを回しても意味がないと筆者は考える。

無鉄砲と言われるかもしれないが、自分や仲間の感性を信じて小さくてもいいからまず行動し、そこから大きなビジネスに育てていくべきだ。「やってみなはれ」。サントリーを創業した鳥井信治郎氏も松下電器産業を興した松下幸之助氏もこの言葉をよく発していたという。やってみないと分からない、という意味が込められている。それと同じだ。

世界はトヨタの苦手な「デザイン思考」時代

この「PDCAサイクル思考」と対極にあるのが、「デザイン思考」だ。コロナ禍になる前、筆者はベンチャーのメッカ、シリコンバレーや中国の深圳に出かけていたが、そうした地域では、この「デザイン思考」をビジネスパースンたちが重視しているように思えた。

「機能性だけでなく見た感じ」、「製品がもつストーリー性」、「個別機能よりも製品群全体での調和」、「論理ではなく共感」、「まじめさだけではなく遊び心」、「モノよりもモノをもつことの意義」などのコンセプトから「デザイン思考」は成り立っていると言われる。トヨタが最も苦手とする領域だ。

デジタル時代は、臨機応変に物事を進めるデザイン思考へ(Geber86/iStock)

また、世界のビジネスパースンは、MBAでロジカルシンキングなどを学んできたが、これもある程度「正解」が見えている領域で最適解を見出す分析的アプローチ。「PDCAサイクル思考」も同様のことが言える。これに対して「デザイン思考」とは決まった課題を解くのではなく、解くべき解を探す力を養うことに重点を置くものだ。

時代の変化が速く、何が売れるかも分からない時代は、「潜在的なニーズ」を探し出すことの方が重要ではないだろうか。

トヨタは20世紀の工業化社会において頂点に立ったが、情報化社会の21世紀の経営において20世紀と同じような思考サイクルを持ち続けること自体が限界で、日本企業が“トヨタ化”したまま変化できないのが、「平成の敗因」の一つではないだろうか。

改めて言うが、業績がいいからと言って、日本企業や日本のビジネスパースンがトヨタを妄信的に見習うことはもうやめた方がいい。もっと強く言えば、トヨタ的経営の終焉が見え始めたのではないか――。新年早々、今年の経済がどうなるかと思いを巡らしながら筆者が感じたことである。

 

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