日立が全社員「ジョブ型」雇用シフトが話題も、日経新聞が書かない「限界」

田端信太郎氏は「ゴッコ」とツイート

日立製作所が全社員を対象に、あらかじめ職務内容を明確に決めた形で働く「ジョブ型」雇用に切り替えると報じられたことが話題になった。日立のような伝統的な日本の大企業は、終身雇用制度と一体化する形で、職務内容を限定せずに勤務する「メンバーシップ型」雇用が一般的だ。

「就社」という慣行が強かった日本の働き方が、欧米のような名実ともに「就職」という意識に変革するのか、経営者や投資家などが様々な見方を示した。

KathyDewar /iStock

日立製作所によるジョブ型雇用へのシフトは、3連休最終日の10日、日本経済新聞が報じた。既に昨年春に管理職を対象に導入していたが、今年7月にも全社員約2万人に対象を広げるという。DXの潮流が背景にあり、デジタル人材などのスペシャリストの採用を念頭に置いているようだ。大企業ではKDDIや三菱ケミカルなども導入しているが、日立の取り組みが特徴的なのは、ジョブ型雇用を契約する際、会社と社員が仕事内容について取り交わすジョブディスクリプション(職務記述書)を社外にも公開するというのが、労働市場に開かれた取り組みとして目を引く。

元ミクシィCEOで、現在は投資ファンドを経営する朝倉祐介氏はこの日、ツイッターでこのニュースに言及。「転職が一般になった結果、終身雇用を前提とするジョブ型が維持できなくなったがための転換でしょうが、スタートアップの台頭がこうした雇用の流動化に少なからず影響を及ぼしていることでしょう。 スタートアップ起点での雇用慣行の変化。 新卒一括採用も早晩、変わらざるを得なくなるのでしょうね」と、産業の新陳代謝にも背景にあるとの見方を示した。

また、投資家の内藤忍氏はブログで取り上げ、

ジョブ型雇用になれば、幹部候補生として役職に就いている一部の評価の高い社員以外の中高年社員は、体裁良く給与カットされることになるでしょう。

専門能力を持たないまま管理職となり、いきなりジョブ型雇用に移行です。40代以上のジェネラリスト社員にとっては、青天の霹靂です。

などと、シビアな見方を示す。確かに、現状の雇用制度のままジョブ型に切り替えると、「中高年ハシゴはずし」(内藤氏)のネガティブな結果の方に注目が集まりやすいのも確かだ。

「ジョブ型って言いたいだけ」!?

その辺りのメカニズムを指摘したのが、ツイッターで約3万6000人のフォロワーを誇る、ビジネス系人気匿名アカウントの哲戸次郎氏だ。哲戸氏は「なんか30年前の『成果能力主義』みたいなのと同じで、ジョブ型って言いたいだけな感じ。そもそも解雇規制を緩和しないと会社にジョブ無くなったらどうするん?」と指摘する。

日本は、会社都合で金銭を支払う代わりに解雇することが先進国で最も厳しく規制されている。現行制度のままジョブ型に切り替えると、例えばDXの潮目が変わった時、それまでのスキルをもった人材が力を発揮できなくなった場合でも、会社はクビにできず、社員本人から依願退職でも出ない限り、辞めさせるのは難しくなる。

そうなると、過去にも名だたる大企業が産業動向の変化に合わせて人材配置や業態転換に遅れたまま経営危機に直面したように、ジョブ型人材を抱え込んだままになり、結局はメンバーシップ制の終身雇用企業と同じ結果になる恐れがある。LINEやZOZOの役員などを歴任した田端信太郎氏は哲戸氏に同調。「ほんそれ!解雇なきジョブ型雇用だなんてゴッコですよ」とツイートしていた。なお、哲戸氏や田端氏が指摘したような「限界」は日経では触れていなかった。

日本企業で本格的にジョブ型雇用が根付くかどうかは、メンバーシップ制を前提とした現行の雇用制度を抜本的に見直せるかどうかだが、岸田首相が「新自由主義」と批判した、小泉政権時代ですら解雇解禁は実現しなかった。一方で、日本と同じく労組の影響力が強かったドイツやイタリアは既に解禁。G7の中でも「ぬるま湯」に浸かっているのは日本くらいという状態がまだまだ続きそうだ。

 

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