なぜ日本のスタートアップは上場たった1年で、4割の会社が元の株価すら下回るのか?
欧米並みの公開価格やユニコーン企業輩出に必要なこと- 岸田首相が力説する「スタートアップ元年」に横たわる上場株の公開価格問題
- IPO企業の多くが上場1年後には初値を下回り、40%近くは公開価格を下回る現実!
- 欧米並みの公開価格やユニコーン企業輩出に必要なことは?
岸田首相は、年始早々、本年2022年を「スタートアップ元年」と位置付けることを明言しました。
そもそも菅前政権時代の2021年6月に閣議決定された成長戦略実行計画では、スタートアップの振興策が項目として盛り込まれており、その目玉の一つが「新規株式公開における価格設定プロセスの見直し」となっております。

企業が本来調達するお金はどこへ行った?
それを受け、上場時の公開価格決定については、昨年8月頃、公正取引委員会が、IPO時に企業が適切に資金調達できているかの調査を始めたとの報道がありました。この背景には、欧米に比べ日本では初値が大幅に上昇しており、日本のIPOでは発行体が本来調達すべき資金が、証券会社が抱える個人投資家に行き渡っており、IPOしたベンチャー企業の成長を阻害しているという見方があります。
これは、日本ではIPO株の7割を個人投資家が受けて初値を売り抜ける、米国ではIPO株の8割を機関投資家が引き受けて、価格決定にも影響力が証券会社よりも大きいという、投資家層の違いも大きく影響しています。
政府資料に基づく学術研究によりますと、単純平均値では欧米はじめ諸外国に比べて我が国のIPOは、初値が公開価格を上回るケースが多いとされています。値付けの際に過小評価されることで、時価総額1000億円以上のユニコーン企業が出にくくなっているとも言われております。
公開価格は過少値付けされているのか
さらにこれを受け、日本証券業協会は昨年9月頃、「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキンググループ」を立ち上げ、ディスカッションを始めております。議論の中心は、「公開価格は本当に過少値付けされているのか、もし本当ならば、そうさせているものは何か」
確かに、初値は高騰している現実があるものの、1年後にはIPO企業の多くが初値を下回り、40%近くは公開価格を下回っています。ある大手の証券会社幹部がおっしゃる「公開価格の在り方は全体の一部を切り取った議論ではないか」というのはごもっともであります。

単純に我が国と諸外国における公開価格の在り方を比較して、一概に日本がいけないというのは違うようにも感じます。日本と欧米はじめ諸外国では投資に対するカルチャーが全く異なる中で、不確実性の高いIPOベンチャー企業に対して、リスクマネーが大きく流れることは少ない現実があります。
また、日本は小型IPOが多く、スタートアップの成長を阻害しているという指摘もあります。大型の資金調達を実現するためには、相応の規模にまで成長して、ハイバリュエーションでIPOしないと意味がないという考え方もあります。
しかしながら、小型でもIPOができずに、潰れたり安く買い叩かれていった会社も沢山あると思いますし、IPOできたからこそ小型でも今も生き残り、ポストIPOで成長を志向できるチャンスが与えられている会社も沢山あると思います。小型IPOはそれで日本らしくて良いのではと思います。
大事なのは日本の投資文化の育成
重要なのは、IPO前、IPO時だけでなく、ポストIPOに関しても、成長志向の会社に対するリスクマネーが行きわたる日本の投資カルチャーの育成なのではと思います。
この点において、我が国に必要なのは、前回述べましたSPAC制度の日本における浸透と同じであると思います。わが国では欧米はじめ諸外国と異なり、投資に対するカルチャーが全く異なることから、米国のようなアグレッシブな投資スタンスで機関投資家も個人投資家も実際にIPO銘柄やスタートアップ企業に投資を行うか?という点です。また、日本の機関投資家や個人投資家に企業の成長性を見極める目利き力が本当にあるのか?という点です。
現状では、IPO時もそうですし、IPO前から積極的にインフォメーションMTGを実施して海外機関投資家を株主に入れたり、主幹事証券会社に外資系証券を共同主幹事として入れて、バリュエーション交渉において日系の証券会社を牽制する体制づくりも生まれてきております。これはIPO時のバリュエーション交渉テクニックの一つとも言えます。

ただ、真に実態の伴った欧米並みの公開価格向上やユニコーン企業の創造が日本に根付くためには、投資に対する考え方、文化、そして起業を当たり前に行え、失敗も許容できる文化やインフラの構築まで踏み込んで変える必要があると思います。
企業の成長性を見極める目利き力は、自分が起業し失敗や成功を繰り返すことで、大きく磨かれることと思いますし、実際に起業までしなくとも、学生時代など若い時からそのような学習やトレーニングを積み重ねることで磨かれることと思います。
このような我が国の実状も踏まえ、複数の事業会社でCFOとしてIPOに関わってきた私が思うのは、発行体側で最も心がけるべきと考えるのは、とにかくIPO時の調達額を増やすことに意気込むのではなく、証券会社とWIN-WINの関係を築けるよう、適正な交渉のタイミング、議論の仕方や相手先、牽制方法、投資家へのエクイティストーリーの見せ方などについて、上場準備の初期段階から、最優先事項として議論を重ねて行き、上場後のファイナンスまで視野に入れて、主幹事証券会社と共にフェアバリューを形成できるようにすることだと思っています。
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