コインハイブ事件、ウィニー事件にも重なる「前近代性」放置が日本のイノベーションを阻害
耐え抜いた男性被告への称賛のウラウェブサイトにアクセスした人のパソコンの計算機能を無断で使って、仮想通貨(暗号資産)のマイニングをするプログラムが違法かどうかを巡って争われた「コインハイブ事件」は、最高裁が20日、不正指令電磁的記録保管罪に問われたウェブデザイナーの男性被告に対し、逆転有罪とした二審判決を破棄し、一審判決の無罪を支持する判決を言い渡した。この日、公判が行われた第一小法廷の裁判官5人全員一致しての判決だった。
裁判のポイントは、「コインハイブ」という問題のプログラムが、不正指令電磁的記録保管罪を構成する2つの要件に合致するかどうかだった。つまり、①アクセスした人の意図に反しているか(反意図性)②プログラムコードが不正なものか(不正性)--が問われ。1、2審とも①は認め、1審は②を認めず無罪、2審は②も認め逆転有罪とされていた。
時事通信や日経新聞によると、最高裁判決では、②について「一般の使用者が認識すべき動作と実際が異なり、パソコンの社会的機能などを保護する観点から許容し得ないもの」との判断を示した上で、プログラムがPCに与える影響は、サイトの閲覧者が気付くほどではない軽微なものであり、事前の同意がないまま一定程度、閲覧者のパソコンを使う手法はネット広告と同じで、「社会的に許容し得ないものとは言えず、不正ではない」との結論づけた。
無罪判決が出たことで、捜査に当たった神奈川県警と検察の当時の対応にも焦点が集まった。2019年2月には、捜査員が男性に対し、「「お前やってることは法律に引っかかってんだよ!」と恫喝する音声データが、ネットメディアのYouTubeチャンネルで公開されており、この日のツイッターでは再び拡散。ネット民から「無罪良かったけどこれは忘れてはならないよね」などの指摘が出た。
弁護士「戦い続けるのは普通じゃできません」
著作権問題に詳しい中村剛弁護士はツイッターで「弁護人の先生がすごいのは言うまでもないのですが、ご本人もすごいと思います」と男性に惜しみない賛辞を送った。中村氏は「罰金10万円払ってさっさと終わらせた方が楽だったのに、戦い続けるのは普通じゃできません。自分も本人の心が折れてしまうことも何度も目の当たりにしてるので、その凄さが余計に実感します」と述べ、有罪率が99%という現行の刑事司法制度で無罪を勝ち取る困難さを改めて訴えていた。
判決後、事件化したことを批判していた自民党の山田太郎参院議員はツイッターで、かつてのウィニー事件を引き合いに「捜査機関によるイノベーション阻害は大きな問題」と改めて捜査を批判した。
ウィニー事件では、「天才」と言われたプログラマーの金子勇氏が2002年、当時としては実に先進的だったP2P技術によるファイル共有ソフト「ウィニー」を開発したものの、翌年、ウィニーを使って他人の著作物をネット上に公開したユーザー2人が著作権法違反で摘発。さらにその翌年、ソフトを開発した金子氏までが著作権侵害を幇助したとして逮捕・起訴された。金子氏は一貫して無罪を主張していたが、取調べ段階で捜査員による自白強要があったのは言うまでもない。
裁判では、金子氏も、今回のコインハイブ事件と同じく、1審で無罪、2審で逆転有罪となった末に最高裁で無罪が確定した。しかし金子氏はこの裁判の労苦がたたったためか、2013年に42歳の若さで急性心筋梗塞で死去。ウィニーは、後年のブロックチェーンにも通じる技術となったことから、事件は日本のイノベーションを阻害した「悪しき先例」として教訓を残したはずだった。
ウィニー事件の後、取調べの可視化を進めるため、録画・録音の導入がなされたが、殺人や強盗など、一般人が評決に加わる裁判員制度の対象事件に限定されている。ウィニー事件の著作権法違反や、コインハイブ事件の不正指令電磁的記録保管罪は対象外。日本の司法制度の「前近代性」を放置し続ける限り、技術開発や日本社会のDXを遅らせ、「平成の敗戦」に続く「令和の敗戦」をもたらす構造になりかねない。
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