北朝鮮、中国、ロシア…日本を脅かす3国の今年の出方と思惑を読む
【展望2022】正月早々「きな臭い幕開け」、もっともカギを握る国は?- 正月から北朝鮮がミサイルを連発。日本を取り巻く厳しい国際情勢を読む
- 北朝鮮ミサイル連発の狙いは?ウクライナ危機のロシアは極東でどう出る?
- 中国は「北京五輪後」が問題…これら3国でもっとも鍵を握るのは…
令和4年を迎えて松の内も明けぬ正月5日、いきなり北朝鮮は弾道ミサイルを日本海へ向けて発射した。この後も11日、14日、17日と、同じく日本海へ向けて北朝鮮は立て続けに弾道ミサイルを発射した。
このうち、5日と11日については、北朝鮮が開発中とされる「極超音速ミサイル」の発射試験と見られ、11日については1000km飛翔して目標に命中したと北朝鮮は報じた。また、14日は「鉄道機動ミサイル連隊」による戦術誘導弾(短距離機動式弾道ミサイル)、17日は地上から同じく戦術誘導弾(同)をそれぞれ2発ずつ発射した模様であり、北朝鮮は報道で「いずれも日本海上の目標に命中した」としている。
正月のこのミサイル発射が象徴しているように、令和4年のわが国を取り巻く軍事情勢はかなり厳しくなることが予想される。筆者のこの掲載は本年初めとなることから、僭越ではあるが今年の周辺情勢を見通してみようと思う。

北朝鮮ミサイル連発の狙い
冒頭で述べた通り、北朝鮮は今月に入りミサイルを繰り返し発射しているところであるが、これと並行して、北朝鮮の(重要な政策的課題を決定する)朝鮮労働党中央委員会政治局会議が19日に開催され(朝鮮中央通信20日付報道)、この中で金正恩総書記は、米国との「信頼醸成措置を全面的に見直す」とした上で、「暫定中止したすべての活動」の再稼働検討を指示した。
これは、言うまでもなく、2018年以来中断していた核実験や長距離弾道ミサイル(ICBM)の発射などの活動を示しており、この「再稼働を指示した」と言わず、「再稼働検討を指示した」としているところが意味深い。米国に対する揺さぶりと見て間違いないだろう。

北朝鮮の報道によると、本会議において「最近、米国がわが国家の正当な主権行使に不当に言いがかりをつけて無分別に策動していることに関する資料が通報された」との文言が含まれていた。これは、北朝鮮の度重なるミサイル発射に対して、米国が今月12日に「北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発などに関与した」として、「北朝鮮国籍の6個人とロシア国籍の1個人、並びにロシア企業1社を新たに制裁対象に指定した」ことを示唆しているものと思われ、この制裁に端を発して金総書記は「今回の決定は、バイデン大統領の自国に対する姿勢を見極めた結果である」、ということを伝えようとしているのであろう。
なお、この会議では、「偉大な領袖金日成同志の生誕110周年と偉大な指導者金正日同志の生誕80周年を盛大に祝うことについて」という議事が採択されたことも伝えており、本年が北朝鮮にとって大きな節目の年であることを強調していることから、この記念日となる金正日前総書記の誕生日である2月16日と、金日成国家主席の誕生日の4月15日には、盛大なパレードなどが行われるものと見られる。
また、これに付随して、軍事力を内外に誇示するための何らかの軍事活動が予想されるが、北京オリンピックが終わった後の行事となる4月15日の前後は、「暫定中止したすべての活動」の再開となる長距離弾道ミサイルの発射に関して、最適な時機となり得ることから警戒を要する。この活動再開に当たっては、3月に行われる予定である米韓合同軍事演習がその口実として用いられるであろう。
欧州も極東も…抜かりなきロシア
北朝鮮がこのように米国に対して攻勢に出始めた背景には、ロシアに関わる情勢も少なからず影響していると思われる。というのも、現在ロシアはウクライナに対して2014年と同様な「ハイブリッド戦争」を仕掛けようとしており、これを阻止しようとする米国との間で鎬(しのぎ)を削っているさなかにある。それでなくとも米国は近年、南シナ海や台湾の情勢をめぐって中国との間で鍔(つば)ぜり合いをしている状況にあるのだから、このタイミングで北朝鮮に軍事力を行使する可能性は極めて低いと高をくくっているに違いない。瀬戸際外交に踏み切れば、「交渉は有利に展開する」と読んでいるのであろう。
その肝心のロシアは、ウクライナへの侵攻をちらつかせて米国に揺さぶりをかけている。この行動は、2014年以来実効支配しているウクライナ東部のルハンシク州とドネツィク州周辺にとどまらず、ウクライナ北部の隣国であるベラルーシも巻き込んで軍事演習を実施することによって(挟み撃ちする形で)ウクライナに圧力をかけようとしている。

加えて、ロシアの動きはそれだけにとどまらず、さらにその北方のバルト海においても、海軍を主体に艦艇を集結させるなどして活動を活発化させている模様である。これは、ウクライナと同じくNATOへの加盟を模索しているスウェーデンに対する圧力と見られ、NATO拡大の動きを軍事力で抑えつけようとしていることが窺える。
これら欧州ロシアの動きは、わが国とも無関係ではいられない。欧州でロシア軍が戦時態勢へと段階を引き上げるにしたがって、極東ロシア軍の警戒態勢も同時に上がり、わが国周辺での偵察活動や示威行動が活発化する。2014年にロシアがウクライナにハイブリッド戦争を仕掛けた時も、ロシアの爆撃機や偵察機が連日わが国周辺で活発に活動し、戦略爆撃機がわが国への模擬攻撃を行うなどしてわが国を威圧した(参照:当時の防衛省発表)。
これは、わが国を威圧することで、極東方面における米軍の動きをけん制しているのである。言わば、わが国が人質となっているようなものだ。
これと同様な活動の兆候が、すでに昨年12月に表れている(参照:昨年12/15の防衛省発表)。
欧州方面におけるロシアの軍事動向によっては、再びわが国に対してロシアが挑発的な行動をとる可能性があり、この動向には注目しておかなければならない。
今後のウクライナに対するロシアの行動について、未だプーチン大統領は最終的な決断に至っていないと考えられるものの、ベラルーシとの合同演習は2月下旬まで続くと発表されており、プーチン大統領は長期戦も見越している可能性がある。早期の解決は見込まれないことも考慮して、わが国の対応を準備しておいた方が良いだろう。
中国は「北京五輪後」が問題

令和4年が始まって間もなく1か月が過ぎようとしているが、今わが国周辺で比較的静かなのは中国である。それは、言わずもがな、2月に首都北京で「平和の祭典」とも言われているオリンピックという大きなイベントを抱えているからだ。
それを考えると、中国にとって今の北朝鮮やロシアは、厄介な存在だ。内心さぞかし疎ましく思っているだろう。この中国の存在を考えると、やはり2月のオリンピック期間中にはロシアも北朝鮮も、これ以上緊張を高めるような行動は控える可能性はあるだろう。
問題はこのイベントが終わってからである。ロシアとベラルーシとの軍事演習もこのオリンピックの閉幕時期に合わせたように終了することになっている。3月にはパラリンピックも控えているが、ロシアはそこまで待たないかもしれない。
なお、今年は中国にとってオリンピックだけではなく、秋に「中国共産党第20回全国代表大会(20回大会)」という5年に一度の極めて重要な行事を控えているという節目の年でもある。このような時期に、台湾への武力侵攻という、失敗すれば政権が崩壊するようなリスクを習近平国家主席が冒す可能性は極めて低いだろう。
しかし、欧州におけるロシアの動き次第で、例えば、この地域でNATOや米軍との軍事衝突が発生した場合、米軍の戦力シフトによって東アジアにおける米軍のプレゼンスに隙が生じたと中国が判断した場合、ロシアと同様に中国が台湾に対してハイブリッド戦争を仕掛ける可能性は否定できない。この場合、米軍の戦力をさらに分散させるために、わが国を巻き込む可能性は高い。これが最悪のシナリオである。
■
これらを考慮すると、やはり欧州におけるロシアの動きが今年の世界情勢のカギを握っていると考えざるを得ない。おそらく、プーチン大統領もこのような情勢を見越して米国やNATOに対して強気に出ているのであろう。令和4年は、バイデン米大統領にとって極めて難しい戦略的判断を強いられる年となろう。
いずれにせよ、現下の情勢において、わが国は何より軍事的には最悪のシナリオに備えて同盟国などとの連携を強めておくことが重要であり、外交的には最悪のシナリオに向かわないような不断の努力が必要だということであろう。
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