児相の一時保護で、娘と5か月以上面会を許されなかった母親が国賠提訴
なぜ訴状でアメリカ憲法が引用されたのか?- 親の承諾なき児相の一時保護を巡り、大阪の母親が国を提訴。その目的は?
- 原告の母親は娘と突然5か月以上も引き離しに。
- 訴状で引用したアメリカ憲法に見る日米の「親子の権利」の違いとは
大阪市子ども相談センターで「左腕と顔にあざがあるので自宅に返せない」と言われ、承諾なく児童相談所に一時保護された娘と5か月以上面会することも許されなかったことは、児童福祉法33条で定める「児童の一時保護」について、司法審査を用意せず、親子の面会交流を確保する体制を整えてこなかったから、だとして、母親が、国に対して損害賠償請求裁判を大阪地裁に起こした。

娘と突然5か月以上引き離し
訴状などによると母親は、2020年7月6日、「心理判定」の目的で大阪市こども相談センターに娘を連れていった。 娘が別室に連れて行かれ、母親が子育てについての相談をしていたところ、担当の職員から「娘さんの左腕と顔にあざがあるので、自宅には返せない」と言われた。娘はそのまま、母親の了解を得ることなく一時保護された。
その後一時保護は延長され、母親は「月に1回の娘との面会」や「定期的な報告」「緊急時の連絡」「電話での交流」を約束してもらうことなどを条件に、最終的に施設入所に同意し、娘は児童福祉施設へ入所することとなった。
娘が一時保護されて以来、母親は代理人の川村真文弁護士を通して娘との面会を再三申し入れたが、その年の12月に娘が眼科を受診する時まで、5か月以上もの間、面会することも許されなかったという。
この母子が5か月以上もの間、引き離されていた理由は、どこにあるのだろうか。
日米の法制度の違いに見る「引き離し」理由
日本の憲法制定にも影響を与え、その解釈論でも参考とされるアメリカの憲法では、親から引き離して「子を保護」する場合の司法審査について、どう規定しているのか?訴状でも引用されているアメリカ憲法について見ていきたい。
ちなみに、アメリカは子どもの権利条約の締約国ではない。条約と関係なく、親子の権利が基本的人権とされ、憲法上の人権として保障されている。
アメリカ憲法修正4条は、以下のように規定している。
The right of the people to be secure in their persons, houses, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no warrants shall issue, but upon probable cause, supported by oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.
(日本語訳:不合理な捜索及び逮捕・押収に対し、身体、住居、書類および所有物が保障されるという人民の権利は侵されてはならない。また令状は宣誓または確約によって裏付けられた、相当な理由に基づいて、かつ、捜索される場所及び押収される人または物を特定的に記述しない限り、発せられてはならない。)
これは捜索・逮捕・押収についての令状主義を規定しているものだが、親から子を隔離する場合の子どもの保護は、ここでの「逮捕(seizures)」にあたる。
さらにアメリカ最高裁は、同条は、個人が令状なく逮捕されるときは、通常は48時間以内に逮捕の司法審査がなくてはならないことを要請すると判示している。つまり州の役人は、迅速な司法審査なしでは、何歳であろうと個人を隔離することはできない。ここで要請されている審査とは、「子が危険にあると信じる相当な理由の有無」の調査とされている。

親子の権利は「基本的人権」か
また、「親の子についての権利」について、アメリカ最高裁は、下記の修正14条第1節に規定されている「デュープロセス条項」により、「アメリカ憲法で保障される基本的人権」であるとしている。親の利益は、アメリカ最高裁が認識した基本的自由利益の中でもっとも古いものとされ、「妊娠し子を育てる権利」「子の世話、監護、そしてコントロールについての親の利益」「家庭を持ち、子を育て、その教育をコントロールする権利」など、多様な表現で繰り返し、親の基本的権利が保障されることを確認してきた。
さらに、アメリカ最高裁は、親の子についての権利を、本質的(essential)であり、基本的人権(basic civil rights of man) であり、財産権よりはるかに重要な権利(rights far more precious …than propery rights)であるとし、親でなく子も、憲法上の権利を共有することを認めてきた。
アメリカ憲法修正14条第1節
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside. No State shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.
(合衆国内で生まれ、または合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である。いかなる州も、合衆国市民の特権または免除を制約する法律を制定し、または実施してはならない。いかなる州も、法の適正な過程・デュープロセスによらずに、何人からもその生 命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない」)。
このように保障されてきた親子の権利によって、子を親から隔離する場合「子が十分に危険にあり隔離が選択肢となり、その場合でも、州の子を保護する利益の促進のため、それが最も制限的でない手段であるかどうか」に審査基準の焦点を置いている。
また、フロリダ州を例に挙げると、子が家庭から引き離された場合、子の精神安定のため、1週間に数時間は親子が面会して交流する機会を設けておかなければならないとされ、親子の面会交流が子の最善の利益に適わないという明白かつ確信のある証拠がない限り、面会交流が保障されている。
司法審査は日本にも必要
日本では、アメリカと同様、令状主義は憲法で規定(33条)されており、また、適正な手続きや処遇を受ける権利が保障(13条)されている。児童福祉法33条に基づく一時保護では、逮捕と同様に子どもの身柄を拘束し、その期間も逮捕よりもはるかに長い2か月に及ぶ。
つまり、今回母親の承諾なく行われた一時保護には、逮捕と同様に、司法審査が要請されるのではなかろうか。それについての制度を整えることを、この国は怠っていると言える状態ではないだろうかと提起したことが、今回の提訴の趣旨である。
また、そもそも、親子の権利は日本国憲法で定める「基本的人権(13条)」として保障されているものなのか、この点についても今後、裁判所がどのように判断するのか、注目していきたい。
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