テスラ・ショックで急落後のビットコインの行方

待ち受ける3つの死角。特に脅威があの国
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • テスラの決済導入停止で揺れるビットコイン相場を、財務省OB有地氏が展望
  • ビットコインの上昇トレンドは不変。ただし米政府の緊縮転換など死角あり
  • リブラのように抑圧もあるが、中国が全面的禁止する可能性とその根拠は

昨年末以降破竹の勢いで上昇し、4月14日には6万5000ドル超の史上最高値をつけたビットコインは、その後やや大きなアップダウンはあったものの、おおむね5万ドル台の後半を推移していた。

それが先週12日にテスラ社のイーロン・マスクCEOの「爆弾ツイート」で、一気に1日で2割近い暴落となり、5万ドルを割る水準まで値を下げた。円建てのビットコイン価格も600万円台の前半から500万円台半ばまで急落した。

今後ビットコインが再び右肩上がりのトレンドに復帰するのか、あるいは2017年のピーク時のように急降下するのか、固唾をのんで見守っている投資家も多いだろう。

それでも上昇トレンドは変わらない理由

マスク氏は、採掘に大量の電力を消費するビットコインは、化石燃料が発電に多く使われるため環境への悪影響が懸念されるとツイートし、3月に始めたばかりのビットコインによるテスラ車の購入を停止した。

ビットコインの採掘が電力を爆食いすることは以前から広く知られていることで、これまでビットコインのことを持ち上げていたマスク氏が、このタイミングでなぜ突然ネガティブなツイートをしたのか真意は不明だ。

しかし、彼の真意がどうであれ、私は今回のマスク氏のツイートだけでは、ビットコインの上昇トレンドを変える力はないと思っている。

アメリカを始めとする国々の過剰流動性がビットコインを含め有利な投資先を求めて世界をさまよう一方、コロナ後の超拡張的財政金融政策がもたらすインフレを懸念して暗号資産で資産の保全を図ろうとする動きがある限り、ビットコインへの需要が減退することはない。

また、最近アメリカの大手企業の間でもビットコインが市民権を得つつあることも、ビットコインの価格の下支えになっている。

ビジネス向けデータ管理・分析サービスのマイクロストラテジー社が昨年夏以降これまでに21.9億ドル(約2400億円)のビットコインを購入したほか、マスク氏のテスラ社自身も今年になって15億ドル(約1600億円)購入した。ちなみにマスク氏はネガティブなツイートをしたにもかかわらず、今のところこれを売るつもりはないと言っている。

さらに最近、世界最大の資産運用会社のブラックロックがビットコイン先物に投資したことが明らかになったし、投資銀行のモルガンスタンレーはビットコインに投資するファンドの販売を始め、ペイパルがビットコイン等での支払いに対応するようになった。

こうした様々なビットコイン相場を押し上げる要因を考慮すれば、ビットコインは今後再び上昇トレンドに復帰する可能性が高いように思える。

D-Keine/iStock

緊縮転換、米政府の抑圧…「3つの死角」

しかしその一方で、私は一見盤石と見えるビットコイン相場にも、次の3つの死角(下落要因)があると思っている。そして、そのいずれかが現実のものとなるとビットコイン相場は2017年のように大きく下落していく可能性がある。

一つは現在の世界の金余り状態に変化が訪れることで、具体的にはアメリカの景気が回復傾向を示し、インフレ懸念が現実のものとなって連邦準備制度(FED)が超金融緩和モードから緊縮モードに政策転換することだ。

その時はバブル状態の株価などと共に暗号資産も大きく値を下げることは間違いないが、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長はワクチン接種の拡大による経済活動の回復やバイデン政権の大規模財政出動があっても、まだインフレの脅威は差し迫っていないとして、今のところ政策変更をするつもりはないようだ。

二つ目は、アメリカの司法省や証券取引委員会(SEC)がビットコインの存在そのものを否定するような措置をとる場合だ。ドルなどの法定通貨と対抗する性格を持つ暗号資産は、アメリカだけでなく各国政府・中央銀行から、様々な理由をつけてネガティブなとらえ方をされてきた。

フェイスブックが中心となって発行しようとしているディエム(かつてはリブラと呼ばれていた)は、その決済処理の迅速性や容量の大きさからドルの地位を脅かしかねないものであるがゆえに、マネーロンダリングや脱税、犯罪収益の移転等の懸念があると批判されて導入が延び延びになっている。

もっともビットコインは、決済のスピードと処理容量が不十分なため、決済手段としてはドルの敵ではなく、今のところは、アメリカ政府の抑圧のターゲットになっていない。

中国の全面禁止シナリオ

デジタル人民元がビットコインの脅威に?(RHJ/iStock)

三つ目の要因がビットコインの上昇に水を差す可能性が最も高いのだが、中国が国内の暗号資産取引を全面的に禁止することだ。

中国では2017年9月に、政府が国内のすべての暗号資産取引所の閉鎖を命じたが、その後も売り手と買い手が直接相対で取引する形式(OTC市場)で暗号資産取引は活発に行われている。

OTC市場ではテザー(Tether、略号はUSDT)という米ドルに価値がリンクされた暗号資産が人気で、中国の暗号資産投資家は現在のようにビットコインの値上がりが続くときは、テザーをさらにビットコインに替えて値上がり益を享受しようとしている。

今ではビットコインの購入通貨の中でテザーのシェアが60%以上(CryptoCompare資料による)と断トツに大きくなっており、チャイナマネーがテザーを通じてビットコイン相場に大きな上昇エネルギーを与えていることは間違いない。

しかし、来年の北京オリンピックまでに政府が取引の監視と管理ができる中央銀行デジタル通貨(CBDC)を実用化しようとしている中国政府にとって、監視の目が届かないテザーやビットコインなどの暗号資産の取引が盛んなことは看過できないことだろう。

私は、いずれ中国政府はすべての暗号資産取引を禁止し、OTC市場で使われているSNSの通信記録からテザーやビットコインなどの暗号資産の売り手と買い手を特定・逮捕するようになる可能性が高いと思っているが、その時ビットコイン価格は、チャイナマネーという推力を失って急降下することとなるだろう。ビットコイン相場が崩れるのは意外と早いかもしれない。

なお、この記事に書かれた見解は情報提供を目的とするものであり、いかなる投資助言を提供するものではなく、また、個別の金融商品または暗号資産の購入・売却・保有等を推奨するものでもないことをお断りします。

 
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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