「宝島社の広告は、単なるポピュリズム」佐々木俊尚氏に聞く
扇情的なキャッチコピーにご用心- 宝島社が政府批判の新聞広告が話題に。佐々木俊尚氏はどう見ていたかを取材
- 佐々木氏「溜まった不満の吐け口として出現。単なるポピュリズム」と指摘
- 新聞広告が存在感も、「影響力があるという漠然とした幻想」と佐々木氏。
ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される。
刺激的なコピーとともに5月11日、朝日・読売・日経の3紙に見開き全面広告を掲載した宝島社。ネット上では賛否それぞれあり、竹槍ではなく薙刀だなどのツッコミもあったが、ともあれ、多くの注目を集めたのは事実。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、今回の騒動をどう見ているのか。
「ツイッター上で医療関係の人たちがこの広告を批判しているのを見て、知りました。この広告に対しては、医療従事者の間では圧倒的に批判が多かったのです」(佐々木氏、以下同)
この広告は、論理的におかしな点ばかりだと指摘する。
「ワクチンについては、元々5月の連休明けから大量に入ってくる計画だったので、広告出稿時にワクチンがないのは当然なんです。日本は米英のようにワクチンを自主開発している創薬国ではないので、ワクチンがないのは仕方がない。クスリについては、世界中どこの国にも特効薬は存在しない」
“タケヤリで戦えというのか”についても、疑問があるという。
「ワクチン接種が進んでも、三密回避、マスク、手洗いという基本的な対策は続ける必要があると言われている。それを戦時中の竹槍戦法になぞらえるのは、完全に間違い。全体的に、すべてが的外れだと私は思います」
政府にも打つ手がない
注目を集めた理由については、こう分析する。
「1年以上も今の状況が続いていて、人々の間に不満が高まっているのは事実。でも、政府も国民も、できることは限られているんです。PCR検査を大量にしている欧米でも、感染爆発が起きており、結局は、地道な手段しか対策がない。コロナ禍の出口が見えないなかで、溜まりに溜まった不満の吐け口として、こういう広告が出てきたのでしょう。単なるポピュリズムですよね、これは」
東京五輪については中止論も少なくないが、中止の判断は難しい。
「ここまで頑張ってきたアスリートの気持ちもあるわけだし、やめるべきという意見が一方的に正しいとは限らない。NHKの調査を見ると、世論は真っ二つに割れている。どちらが正しいかは、誰にも断言できないはずです」
国民に負担を強いられているとはいえ、他の政権だったらうまくいったかというと、そうとも限らない。
「コロナは壮大な撤退戦。ひとたび感染が広がってしまえば、ワクチン接種が広がらない限り、どこの国も成功はしていないんです。コロナに対してひたすら退却を繰り返しているだけなので、ツッコもうと思えば、いくらでもツッコめるわけです。でも、『もしあなたが総理大臣だったとして、今の政権よりも正しい政策を取れましたか?』と聞かれたとして、自信をもってイエスと答えられる人はいないと思うんです」
影響力は“幻想”が作る
不満が高まっているのは事実だが、ベストな選択など誰にも分からない。一方で、今回は、斜陽産業と言われて久しい新聞の存在感を示す形となった。新聞広告の存在意義は、今後もあり続けるのだろうか。
「紙の新聞は、主要読者の平均年齢が60代や70代に入りつつあり、直接的には、高齢者にしか影響を持っていないわけです。ただ、現役世代も含め多くの人が“新聞には影響力がある”という漠然とした幻想を抱いている。その幻想が解けて“新聞なんてお年寄りしか読んでないよね”と多くの人が思う日が来れば、影響力はなくなるでしょうね」
扇情的とも言える広告は、政府への不満をすくい上げる形でSNSでも波紋を呼んだが、いまはまだ佐々木氏が言う「壮大な撤退戦」は道半ば。政府批判を煽るだけでは不満層の「ガス抜き」にとどまり、ましてや政府が実行力を伴った打開策を打つことにはつながりそうにない。
広告の作り手側としては世間で一定の話題になったことで「プロジェクト成功」かもしれないが、国難を前にこれまでのような発想で広告を作り続けていいのか、問われつつあるのかもしれない。
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