「影の首相」石原慎太郎氏、「死ぬまで人から憎まれていたい」

遅すぎた「石原新党」の季節
SAKISIRU編集長

作家で、元東京都知事の石原慎太郎氏が1日、89歳で死去した。長男の伸晃氏の記者会見によれば膵臓がんを患っていたが、最期まで創作意欲は衰えることなく「遺作」の完成に満足そうな様子だったという。

写真:アフロ

政治家としての歩みを振り返れば、議院内閣制と根回し文化の永田町ではその持ち前の個性もワンオブゼムの扱いとなり、思うように力を発揮できなかった。しかし、大統領制に近い都知事になってからは、運輸相時代に片鱗を見せるに留まっていたリーダーシップを度々見せつける。

凡百のメディアがすでに挙げているように、大気汚染対策として始めたディーゼル車排出ガス規制は石原都政の指折りの功績の一つだった。記者会見で、粉塵入りのペットボトルをぶちまけたのは、メディア操縦術に長けた後年の小池知事も顔負けのパフォーマンスだった。いまの大江戸線が開通前、正式名称を「東京環状線」、愛称を「ゆめもぐら」に公募の末に決まりかけたときも一蹴したあたり、普通の首長ならやらないちゃぶ台返しだった。東京マラソンを創設し、後年の東京オリンピック招致に向けた流れを作り出したのも、サッカー青年だった石原氏らしさの発揮だった。

2002年11月、都知事として、大江戸線の汐留駅開業式に出席した石原氏(都庁サイト「知事の部屋」より)

知事就任初年の都議会で、自治体の行政権と基本条例に関する質問が出たのに対し、石原氏はこう述べている(発言は議事録より)。

私は、知事に就任以来、首都東京から新しい変革の歴史をつくり出していきたいと思い、独立した行政主体としての都の自主性、自立性を最大限に発揮して、地方主権の時代にふさわしい、国もリードする先駆的な施策を展開したいと思っております。

その言葉通り、1期目から、前述のディーゼル規制、そして物議を醸したが、銀行を標的にした外形標準課税(銀行税)など石原都政を代表する政策が提起された。

自民党と霞が関の支配が磐石な一方で、野党は揚げ足取りに終始しがちだった当時の国政に対し、首都東京を、時代の先をとらえた政策を推進する「影の政府」として、知事を「影の首相」としてそれぞれ機能させたことは、政治に良い意味での緊張感を与えた。石原都政から2年後にスタートした小泉政権、あるいは後年の第二次安倍政権の官邸主導のように、トップダウン政治のロールモデルを地方から提示した意義は大きかった。

2012年、東京マラソンでランナーと握手する石原都知事(都庁サイト「知事の部屋」より)

もちろん、そうした政治スタイルだけに、ハレーションも大きかった。2期目の目玉公約として中小企業向けに設立された新銀行東京は杜撰な経営ですぐ頓挫、1000億近い累積赤字と400億円の税金の追加投入の末に民間銀行に売却された。国有化される前の尖閣諸島を東京都で購入しようと寄付金を募り、14億円を集めるまでの手際の良さには目を見張ったが、当時の民主党・野田政権が逆に国有化を急ぎ、寄付金は今でも銀行口座で塩漬けされたまま。石原氏の動きに反発したのを機に、中国国内では、反日デモが暴徒化して日系企業が甚大な被害を受けた。

政策的にそうした功罪半ばした足跡を振り返ったが、政局的に振り返れば、1期目の途中に小泉政権が誕生して国民の支持を大きく得たことから、都知事から首相へのステップアップというシナリオは崩れてしまった感がある。

石原都政が絶頂だった2000年代前半、石原新党への期待も持ち上がったが、後年、大阪で旗揚げされた橋下徹氏の維新や、小池都知事の都民ファーストの会のような地域政党から変革を迫っていく展開にはならなかった。都知事を4期目の途中で辞めて、その橋下氏と組む形で国政に復帰するも「石原新党」の旬は過ぎてしまっていた。

写真:アフロ

「三国人」などの政治家としていただけない言動は物議を醸したこともあったが、作家の感性から紡ぎ出される言葉に痺れさせられた人が多かったのも事実だ。政界引退後、小池知事の豊洲移転問題で、都議会の百条委員会に引き摺り出された際に言い放った「科学が風評に負けるのは国辱」は晩年の石原節の中でも至言だ。コロナ禍で冷静さを欠いた昨今の世相に対する警句としても通じるものがある。

中国メディアは日本からの訃報に「右翼政治家」「中日関係の悪化を招いた」などと酷評しているようだが、政界引退時の記者会見で「死ぬまで人から憎まれていたい」と笑っていた石原氏からすれば、してやったりというところかもしれない。

個人的には、生前、単独インタビューなどの取材をする機会がなかったのが極めて残念だが、地方支局や社会部の下っ端記者として数回、選挙の演説現場や、都庁の記者会見で、その勇姿と歯に衣着せぬ物言いに直接触れる機会があった。公称181㌢の長身が独特のオーラもあって、ひと際大きく見えたのが今でも瞼に焼き付いている。

 
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