メタバースの「仮想土地」、資産価値はリアルかフェイクか

NFTで価値確立のウラに「負動産」リスク
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • いま注目のメタバースの不動産取引はリアルと何が違うのか?
  •  ブロックチェーンとNFTによって資産価値は確立されてきた
  • 現実と仮想で機能や役割が酷似しているが、注意すべきこととは

今、メタバースの土地取引に世界中から注目が集まっている。メタバースに特化した不動産投資ファンドのリパブリック・レルムが昨年11月、ゲーム用メタバース「ザ・サンドボックス」の土地を430万ドル(約4億8800万円)で取得したと発表し話題を集めた。

サンドボックスの公式サイトより

ザ・サンドボックスでは、Facebook がメタに社名変更をした2021年後半から仮想空間の土地取引が急増し、累計の取引額は2021年12月末時点で3億ドル(約345億円)を突破した。

他のメタバースでも同じような動きが見られる。ザ・サンドボックスと同じイーサリアムブロックチェーンを基盤としたVRプラットフォーム「ディセントラランド」でも昨年11月、ディセントラランド内のファッション地区の土地をカナダの投資会社トークンズ・ドット・コムの子会社が約250万ドルで取得した。

すでに各国の大手企業がメタバース事業への参入を明らかにしていることから、今後もメタバースの仮想土地取引は増加していくとみられている。

メタバースと現実世界の不動産の違い

では、メタバースの不動産と現実世界の不動産の違いを考えてみたい。

仮想空間の不動産と現実世界の不動産は全く違うものと考えられがちだが、実はその機能や役割はとてもよく似ている。

現実世界での不動産は、土地および土地の定着物だと定義される。土地そのものと、そこに建っている住宅(共同住宅含)・商業系ビル・店舗・工場・倉庫・劇場・映画館その他、土地に定着している建物はほとんどが不動産となる。

不動産の用途は多様だが、不動産が持つ最大の特徴は、所在が一定で容易に位置が変わることなく、その同一性を確認することができる点だ。日本の場合、不動産登記システムも備えられているため、所有権を含め、様々な権利関係の保全という面からも、不動産は他の動産に比べてその価値が高いものとされてきた。

Patcharapon Pachasirisakun /iStock

一方、メタバースの土地は実質的に証書の役割を果たす「NFT(非代替性トークン)」で記録される。NFT化され売買されるので同一性が確認でき、所有者情報も厳格に担保される。

また、メタバースでは土地は「有限」とされ、前述したザ・サンドボックスの土地(LAND)は区画の上限数が166,464個と決められている。この希少性についても、同じ土地が存在せず、供給数が限られている現実世界の不動産と共通している。

では、土地の利用方法について違いはあるだろうか。

メタバースでは、自分が所有する土地に建物を建築し、その建物を自宅やショップとして自ら利用することもできるし、その不動産を貸出して収益をあげることも可能だ。さらに、メタバース内の不動産が値上がりすれば、自分が構築したその不動産を売却しキャピタルゲインを得ることもできる。

ここまで見たかぎり、住まいとしての機能(実際の生活の場)を除き、現実世界の不動産と仮想空間の不動産には、それらが持つ機能や役割に大きな差がないことが分かる。

これまで、デジタル情報はその価値をどのように保全するかが課題だったが、 ブロックチェーンとNFTによってそれが確立され、取引の安全性、透明性、持続性を担保することができた。仮想空間が永続的に存在すれば、メタバースの土地もまさしく不動産と呼んで差し支えないだろうと筆者は考える。

メタバースの不動産の価値

しかし、現実世界と仮想空間の不動産は、その機能や役割が酷似しているとはいえ、NFT によってメタバースの不動産の所有者情報や持続性が確立されても、その経済的価値が担保されるわけではないことには十分注意すべきだ。

これは現実世界の不動産でも同じようなことが言える。現実世界では、その不動産に価値が見いだせなくなってしまうケースが頻繁に起こり得る。現在、日本では首都圏を中心として、パンデミックや低金利などの影響によって住宅の値上がりが続いているが、他方、交通や生活利便性がよくない地方圏では経済的な価値を見いだせない(対価のつかない)不動産が多数存在する。

いわゆる「負動産」である。負動産は、住むことも、売ることも、貸すこともままならず、利用用途がなく、ただ維持管理費というマイナスをもたらすだけの代物だ。

kate3155/iStock

現実世界と仮想空間の不動産の性質が相似している以上、同様のことが仮想空間でも起きると考えられる。例えば、メタバース内のショッピングモールや劇場などの商業施設にユーザーが集まらなければ、その施設は経済的価値が落ちていくだろう。せっかく多額の投資をしてメタバース内で素晴らしい不動産を手に入れても、その空間を利用する人が限られた少数であればその少数の中での不動産価値しか見出せないのである。

また、メタバースの不動産の希少性は常に恣意的なものになることにも注意すべきだろう。ロイターのコラムニストであるGina Chon氏は、同社のコラム内で「デジタル不動産の特徴の1つは、理論上、供給にほぼ制約がないこと」としながらも、ディセントラランドなどで供給される土地の区画が制限されていることを挙げ、それが需要につながっていると指摘している。

ただ、既存のメタバースでの土地供給数が制限されていても、新たなメタバース自体を次々と生み出すことは可能だ。例えば、種類ごとに発行枚数の上限がある(無いものもある)暗号資産も、今ではその種類が数千にも及んでいる。同様に、土地売買を可能としたメタバースも今後さらに増えていくと考えられる。それを踏まえれば、メタバース内の不動産価値を維持するための鍵となるのはやはり各メタバースの普及率(ユーザー数)となるだろう。

ここまでは今注目されているメタバースの不動産取引に焦点を当ててきたが、今後定まっていくであろうメタバースの定義次第によっては、メタバースの不動産価値がリアルなものになるか、それともハイプ(高利回りを謳った誇大広告)になるかが問われていくことになる。

後編に続く

 
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

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