自衛隊広報はカズレーザーに学べ 存在意義を報じないメディアの罪

【特集】奥山真司 × 稲葉義泰『学校で教えてくれない国防論』#2
ライター・編集者
  • 奥山真司さんと、稲葉義泰さんが「国防論」対談第2回
  • 「沖縄の米軍基地」が問題になる理由、日本と違う他国での軍隊と国民の関係は?
  • テレビが自衛隊を取り上げる機会は増えてきたが…

【編集部より】右でも左でもなく、冷静に眼前のリアルに向き合っていくにはどうするべきか。サキシルでもおなじみ、戦略学者の奥山真司さんと、気鋭の国際法・防衛法政研究者、軍事ライター、稲葉義泰さんが「学校では教えてくれない」国防論を語り尽くす第2回は、日本と違う他国での軍隊と国民の関係、そして「メディア」の問題について展開します。

iStock / Takosan
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「沖縄の米軍基地」が問題になる理由

――#1でドイツ軍の事例が出ましたが、自衛隊を考えるにあたって、比較になる他国の軍の情報が、一般的に見聞きする範囲では異様に少ない、という面もあります。身近なのは米軍ですが、世界で最も活動している米軍しか比較対象がないというのもちょっと不健全ですね。

稲葉 義泰   国際法・防衛法政研究者、軍事ライター
専修大学在学中の2017年から軍事ライターとしての活動を始め、現在は同大学院で主に国際法や自衛隊法などの研究を進める。著書に『ここまでできる自衛隊』(秀和システム)。

【稲葉】以前、同じ「在日米軍」と言っても、三沢と沖縄で状況が違うのはなぜか、という記事を読んだことがあります。「ジェントルマン的な空軍」と「荒くれ者が多い海兵隊」の違いではないかと指摘しており、確かに沖縄は新兵が赴任することが多いので、若くて元気が有り余っているので、基地の外でうっ憤を晴らそうとして問題を起こしがちだ、というのはあるかもしれません。もちろん、何か一つの要因で違いが出ているわけではないと思いますが。

【奥山】僕は横須賀出身ですが、取り立てて米軍基地を意識したことがありませんでした。もちろん、駅前に反対派が来て抗議活動をしている、という姿は見たことはありますが……。

「軍港」と言われて、戦艦三笠なども置いてありますが、あれは外から観光客が見に来るものであって、地元の人間はさほど意識していません。

「中国がすぐそこまで来ているのに!」

――私も父が朝霞駐屯地勤務で、いわば「和光官舎生まれ」「駐屯地育ち」。ゆえに、「基地や駐屯地が家の近くにあること」の違和感が逆に分からない部分があるのですが。そのうえで言うと、日本全国に基地があるのに、沖縄に置く場合は自衛隊であっても反対運動が起きてしまう。やはり沖縄戦の影響でしょうか。

【奥山】2021年11月に与那国駐屯地に取材に行きました。2016年に開設され、陸上自衛隊員160人程度が駐屯しています。

基地誘致の働きかけの一方で、当然、反対派住民もいます。今はもう5、6人くらいまで減ったそうですが。そのうちの1人のインタビュー記事をあとで読んだら、「島の自然と平和な環境を守りたい」というんです。僕からすると「いや、もう中国がすぐそこまで来てるのに!」と思うんですが、そこには絶対に意識がいかないんですね。それでも現地の自衛隊員たちは彼女のところに行って、顔を見せて信頼を積み上げていこうと尽力されています。

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アットホームなカナダ軍

――他国においては、軍隊と国民の関係ってどうなのでしょう。

【稲葉】僕はカナダのフリゲート艦の艦長を取材させてもらったことがありますが、艦長が言っていたのは「カナダ軍というのは、カナダ社会における最大の雇用者だ」と。社会に開かれた、地元密着型の企業のイメージに近くて、「ご子息、ご令嬢をお預かりする立場」という認識があるので、家族に対するサービスも手厚いし、すごくアットホームな印象を受けました。

奥山 真司
地政学・戦略学者/国際地政学研究所上席研究員
1972年横浜市生まれ。戦略学Ph.D.(Strategic Studies)。戦略研究学会編集委員。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(BA)卒業後、英国レディング大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士に師事。現在、防衛省の幹部学校で地政学や戦略論を教えるほか、戦略学系書籍の翻訳などを手掛ける。近著に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、訳書にクライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略』(飛鳥新社)など多数。

【奥山】そこは米軍とちょっと違うんですよね。カナダ軍は組織自体もフラットだというし、アットホームだという感想もよく聞きます。

【稲葉】「お子さんを預かる」という感覚は、自衛隊に近いものを感じました。

【奥山】僕はカナダとイギリスに計15年ほど、留学していたのですが、カナダにいた頃はカナダ軍がPKOに入れ込んでいる頃で、軍とは裏腹に社会の方は「まあいろいろ頑張ってるようだね」程度の冷静な評価だったような感触があります。

一方、イギリスでは、当時通っていた学校の性質もあって、クラスメイトはみんな軍人でした。だから「軍事が大事?そんなの当たり前だろ」という空気。学校外でもイギリスでは軍の社会的地位が高く、「日本の自衛隊に1佐の友達がいるんだけれど……」なんて話をすると「なに、お前、大佐の友達がいるのか、すごいな」となる。その感覚は日本とは違いますよね。

――以前、自衛隊OBの方から、自分の子供に「お父さんはカダフィ大佐より偉いんだぞ」と話して驚かれたというエピソードを聞いたことがあります。

【奥山】自衛隊の階級で「3佐」と言ってもわからないですからね。「機動戦士ガンダム」になぞらえて「シャア少佐と一緒」と言ってようやくイメージが沸くという(笑)。

テレビの「自衛隊番組」も質はまちまち

――10年ほど前ですが、台湾滞在中にテレビをつけると、毎日「今日の台湾軍」的な番組をやっていました。「スクランブル発進がこんなにあった」とか「どこそこ基地の誰々がこんな任務で頑張っている」と。あれは日本でもぜひ、やってほしい。

自衛隊の場合、テレビが取り上げる機会は増えてきましたが、どうもモヤモヤするというか……。反自衛隊的な人たちが「自衛隊PRが地上波に進出してきて危険だ」と警戒しているのとは別の文脈で「これでいいのか」という感じがあります。

【稲葉】例えばカズレーザーさんが出演されている日テレ系の『沸騰ワード10』などは、カズレーザーさんも制作側も、本来任務などを理解したうえで番組を作っているなと感じられるんです。

【奥山】あの番組は、自衛隊・防衛省側の広報ときちんと番組作りをしているのが、見ていてもわかりますよね。

自衛隊に魅了されて密着取材を続けるカズレーザーさん(左)。19年10月には、護衛艦「いずも」で相方の安藤なつさんと一日艦長を務めた(海自ツイッターより)

【稲葉】はい。しかし一方で、単なる「珍しい見せ物」的な取り上げ方をしている番組も、まだまだあります。装備に関しても、価格だけを取り上げて盛り上げたりとか。

――「エーッ、大砲一発300万円!?」とか。よくわかっていないタレントを戦車に乗せて「ナニコレー」とか。「映える絵面を撮れる・観たい」という観点に終始しているものもある。

【稲葉】本来の役割があったうえでの装備品であり、訓練なんですが、そういうことはなかなか正面から取り上げられないですね。「自衛隊」を扱うメディアの状況がよくなっていく……という希望は、このままでは持ちづらいと思います。

――みんなカズレーザーさんに学んでほしいところです。

#3に続く

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