創刊SP対談 猪瀬直樹さん #1 コロナで“止まった時間”を生かそう
自分を相対化し、世界観を持ってみる- 創刊スペシャル対談、第1弾は猪瀬直樹さんで3回シリーズ
- 猪瀬さんが「テスラ」を購入して実感した日本の構造問題
- コロナ禍で社会や個人の「時間」が止まった意味は?
SAKISIRU創刊スペシャル対談第1回のゲストは、猪瀬直樹さん(作家、元東京都知事)。昨年には作家生活40周年の集大成として『公(おおやけ)』(NewsPicksパブリッシング)を刊行。戦前からコロナ禍の現在に至るまで日本の近現代を俯瞰しながら、政府の意思決定やジャーナリズムが抱える「構造的な欠陥」を喝破しました。「平成の敗戦」から間もなくコロナ禍にあえぐ令和の御世にSAKISIRUが船出するにあたり、新田編集長が、猪瀬さんに、個人の生き方、この国の反転攻勢、これからのメディアのあり方など、とことん聞いてみました。
テスラに乗って「敗戦」を実感
【新田】きょう事務所に伺ったら、テスラの新車があってビックリしました。せっかくの機会ということで車内も見せていただきましたが、実は、間近に見るのは初めて。カーナビ以外にも、リアルタイムで様々な情報が表示される。あまり褒めると宣伝記事みたいになってしまいそうですが(苦笑)、お世辞抜きで「近未来」を感じました。

【猪瀬】スマホとガラケーの違いですよ。このまま行くと、アップルの攻勢に為す術もなかった日本の家電と同じ道を辿るのではないでしょうか。電池の残量表示は当然として、「赤坂の充電スタンドでは4機のうち2機が使用中」というようなリアルタイムの情報も掲示されるんです。
【新田】今後、テスラが自動運転の時代になったらと思うと、末恐ろしい…。
【猪瀬】もう半分、自動運転ですね。しかも、全世界で走っている100万台の走行記録を統合してビッグデータ化するだけではありません。画像認識機能で道路標識や新しい建物なんかをディープラーニング(深層学習)によって日々アップデートしてしまうんです。
日本のEVでも個別に最新の道路情報を記録している車はあるようですが、テスラのシステムは「規格外」。テスラに実際に乗ってみて、日本の車がというよりは、「日本」が今のままではもうダメだという象徴的な事象にすら思えたのですよ。
【新田】昔の戦争でいえば、プロペラ機同士の戦いにジェット戦闘機が投入されたようなのと同じですね…。あと、私が感じたのはデザイン力の違い。日本のEVやハイブリッドはこれまで大衆車的なデザインが多かったですが、テスラのスポーツカータイプは、EVかガソリン車か、といった論争以前の問題として、普通にカッコいい(笑)。
【猪瀬】(東京都の)副知事だった2010年に、販売前の日産リーフに試乗させてもらう機会がありました。加速などの性能はなかなかいいのですが、デザインにガッカリ。フェアレディZやGT-Rのような外見ならユーザーが憧れるでしょうが、見た目で負けてしまっているのですよ。
この時の出来事からも言えるのは、日本のEVは、高度成長時代から連綿と続いてきた「中流層に当てれば売れる」という発想で作られているわけですね。一方、テスラの売り方は“意識高い系”に当てに行き、そこから一般大衆に広げていく。突き抜けた人たちが作らないと突き抜けたお客さんに届かないというのが分かっているのでしょう。
【新田】「平成の敗戦」を象徴するような話ですね。
世の中の時間が止まったらどう過ごす?
【猪瀬】 昭和が終わって平成の時代になると、みんなが丸くなって、尖った生き方がなくなり、小さな幸福を求める生き方になってしまいました。一流大学に入って、卒業したら大手銀行に入るのが人生の目標では「世界観」を持つことが難しくなる。そうした1人1人のマインドの総体が、ここ30年の停滞の原因なのではないでしょうか。
他方、ヨーロッパに目を転じてみると、若者たちが先頭に立って気候変動のデモをやり、時代を動かそうとしています。
【新田】僕個人は「グレタ現象」は冷めた目でつい見てしまうんですが、言われてみれば、ほとんどデモをしなくなった日本の若者とパワーの違いは感じます。
【猪瀬】突き詰めると、個人に世界観がなければ国家戦略もなくなるのです。三島由紀夫が自決した背景には、日本がそうしたものを失ったからでした。

【新田】三島の自決は学生運動の動乱がまだ社会に色濃い時代でもありました。去年暮れ、猪瀬さんに初めてお会いしたとき、「学生運動の時代は、若者たちの時間が止まって思索する時間ができた」「今のコロナ禍も時間が止まっている」と話されていたのが印象的でした。
僕はSAKISIRUの発信を通じて日本再生へ頑張る人たちを応援したいと思っていますが、私たちは、この「空白の時間」を漫然と過ごすのか、活かして自分を研ぎ澄ますのか、試されている気もしています。
【猪瀬】時間が止まることは「非日常」。つまり日常を相対化することができます。自分が何をやってきたのか、昨日も今日も明日も同じと思っていたのに、昨日と今日は違うことがわかった。では明日はどうなるか。想像力が試されます。
【新田】猪瀬さんはあの時代、学生運動に身を投じられましたが、当時の若者たちの「日常の相対化」とはどんなものだったのでしょうか。
【猪瀬】村上春樹さんは学生運動こそやっていませんでしたが、その空気は体感していて作品に投影していますよね。『ノルウェイの森』などからはモラトリアムへの意識を如実に感じさせます。
僕自身が身を投じた学生運動は、ある意味「非合法的な世界」です。法律がなくなる世界はどういうものかを一瞬でも体感したことが、その後、社会を相対化し、客観視する上で原点になった部分もあります。
【新田】考えてみれば、先の大戦もまさに社会の時間が止まったと言えますよね。生き残った若い人たちが戦後、高度成長を支えていった経緯を考えると、時間が止まった時にエネルギーを貯め、戦後にそれを爆発させていったようにも思えます。
「ゆでガエル」のままでいいのか

【猪瀬】高度成長といえば担い手となったサラリーマンというのは、実は戦時中の頃はまだ2、3割しかいなかったのです。これが高度成長期に7割くらいにまで増えました。実は「サラリーマン」という言葉ができたのは大正時代。産業が高度化される前の時代は、お百姓さんやお店屋さんや職人さんなど自営業が基本だったのです。
【新田】デジタル化でフリーランスやノマド、ギグワーカーが増えてきた昨今と通じるようなものもあります。不安定であるけれど、流動性があるからこそ何か新しいものが生まれる期待感があるといいますか…。
【猪瀬】でも、社会保障制度が当時は脆弱だったことは忘れてはなりませんよ。船底が一枚抜けたら地獄だったんですから。反面、弱肉強食だからサバイバル意識は覚醒するとも言えますよね。
国民皆保険は、高度成長の果実が行き渡ったとも言えますが、問題はそこからあとでした。冷戦が終わり、それまで社会主義だった中国などが発展して労働力の安い工場ができ、日本は製造業では勝負できなくなりました。そこで日本はシリコンバレーのような新しい産業を興すべきでしたが、踏み出せませんでした。産業構造も既得権益化していましたが、受益者のほうも既得権益化し、停滞につながっていったことは見逃せません。
ものづくりや電機が敗戦し、それでも自動車が持ち堪えていましたが、今度は最後の砦のトヨタに、テスラの脅威が迫ってきました。EVは部品点数がガソリン車の3分の1。自動車業界の就業人口は500万人だから、EVの時代はその3分の2が仕事を失うのです。
ところが日本人はそうした変化に疎い。自民党の政治家も危機感が足りませんね。この前、勉強会の講師で呼ばれた際にテスラを買った話をしましたが、熱心に感想を聴いてきたのが1人くらいだったのは残念に思いました。
【新田】日本がここから立て直すにはどうすればいいのでしょうか。それなりに尖ってる人がリスクを取ってリーダーシップを取っていくしかないと思うんですが…。
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