最新のむし歯学でバレンタインを迎え撃て!食べ方の工夫と初期むし歯

想いの詰まったチョコレート、ゆっくりじっくり食べるのは...
歯学博士/医療行政アナリスト
  • バレンタインデーを前に、むし歯の予防法を最新の知見で学ぶ
  • 歯みがきの回数より食べ方が重要。予防観点で最適な食べ方は?
  • 「削る」だけが治療ではない現代。やっぱり最後に重要なのは…

明日のバレンタインデー。みなさんはもらうアテはありますか。せっかく貰ったからには食べないわけにもいかない、けれどむし歯が心配!という贅沢な悩みもあるかもしれませんね。

そういう場合は「量を減らす」「すぐ歯を磨く」以上に「間食の頻度」に配慮を。この考え方を理解すると万が一の初期むし歯でも進行させない、リスクコントロール法の修得に繋がります。

Irina Petrakova /iStock

歯みがきの回数より食べ方が重要

最新のむし歯研究は様々な意外性のある事実を教えてくれます。たとえば甘いものを食べてもすぐに歯みがきをすればむし歯にならないと考える方は多いですが、歯みがき回数を1日2回から3回に増やしてもむし歯予防効果は小さいです。

それと同様に「甘いものの量を制限する」のは肥満や糖尿病の予防として重要ですが、口の健康に関しては「飲食する頻度が多いとむし歯になる」というのがより正しい理解です(1,2)

理由としては下図に示されるとおり。まず口の中に糖分が入ると、口腔内の常在菌が酸を生み出し、食後20~30分間「脱灰」作用により歯が溶けます。しかし歯のダメージは蓄積しつづけるわけではなく、唾液が酸を洗い流したあとは、「再石灰化」により歯の修復が始まります。

このように歯の健康は日常的な「脱灰」と「再石灰化」バランスの上で成立。ところが間食・ジュース・スポーツドリンク等を摂取する度に、その量とは関係なしに「脱灰」の時間が増えて「再石灰化」の時間が短くなり、バランスが崩れた結果としてむし歯が発生します(3,4)

(図)うさコレ ― 歯科医師/漫画家 うさっぱ(ツイッター「@usappa_」)

つまり最もむし歯になりやすい食べ方は、「数時間にわたり勉強しながら・テレビをみながら甘い飲み物やお菓子を口にし続ける」というものです。

想いの詰まったチョコレートをゆっくりじっくり味わいたい気持ちは分かりますが、むし歯予防の観点では食後のデザートとして短時間で食べ終えることが望ましいでしょう。

「削る」だけが治療ではない

しかし中にはもらうチョコレートが多すぎた、あるいは自分へのご褒美を奮発しすぎたせいで、歯に黒い部分 ― 初期むし歯ができて慌てる方もいるでしょう。むし歯が1か所できるということは、生活習慣が脱灰優位のものになってしまっていることを意味します。

そうであればむし歯を削って詰める「削る介入」を行ったとしても、生活習慣の見直しがなければむし歯の再発は必然。むしろどういった生活習慣がむし歯に繋がったのか、体質的なむし歯のなりやすさはどの程度か等を評価し、「削らない介入」としてリスクコントロールすることこそが本質的な解決ともいえます。

(図)左からエナメル質に限る虫歯、象牙質に至る虫歯、歯髄に至る虫歯

例えば上図の左のように歯の表層が黒くなっている程度であれば、必ずしも削る介入をする必要はありません。また近年のむし歯治療に関するガイドラインでは、上図中央のように歯の内層である象牙質にレントゲン上でわずかなむし歯進行が認められたとしても「削らない介入」―つまりフッ化物使用法指導や数か月毎のレントゲンでの再検査を優先すべきとしています(5,6)

どの程度のむし歯が様子見できるか線引きは難しいですが、英国で行われた65人の象牙質病変を削らない介入で3年間経過した追跡調査では0.5mm以内の象牙質病変で悪化したのは50%、0.5~1mmの象牙質病変が悪化したのは92%でした。

これらの知見をまとめた上で、削る介入が絶対的に必要となるのは「明確に穴が開いているもの、レントゲン上で1mm以上の象牙質病変があるもの」の2要素。

実際の介入法の選択は患者さん自身の美観的要望やお口の健康への理解度の高さ、体質に由来する歯自体のむし歯抵抗力などを勘案し、患者さん自身の意向も取り入れた幅のある個別判断をするのが望ましいとされています。

やっぱり最後は生活習慣

このように「切削介入」が不要な例を挙げるとホッとするかもしれませんが、むしろ「削らない介入」であるリスクコントロールは患者自身と歯医者が両輪となって能動的に行うもの

若い方ほど仕事に勉強に恋愛に忙しく、とりあえず今あるむし歯を削って埋める削る介入で終わりにしたいというニーズも理解します。一方で予防の成否は年間歯科検診回数と相関しないこともわかっており、歯医者にいって歯石取りをするだけではなく生活習慣の改善があってこそ意味を成すもの。単なる早期発見早期治療だけでイタチごっこになっていないか振り返りが必要です(7)

もちろん削る介入が必要なケースかどうかは各種診査に基づくプロの目なしでの判断は危険。小さなむし歯だからこそしっかり診断し、削らない介入で良いならば適切なアドバイスを受けに歯科医院にいくというマインドチェンジは、歯科医と患者の双方に必要です。

歯は食を楽しむために使ってこそのもの。正しい予防と初期むし歯対策を知った上で、大切な人からの贈り物や自分へのご褒美を満喫しましょう。 

*資料提供・監修; トンデモ歯“スターズ

(関連拙稿)

参考文献
(1) Sugar Restriction for Caries Prevention: Amount and Frequency. Which Is More Important? – Caries Research. 2019
(2) Dietary free sugar and dental caries in children: A systematic review on longitudinal studies – Health Promot Perspect. 2021
(3) The Vipeholm dental caries study; the effect of different levels of carbohydrate intake on caries activity in 436 individuals observed for five years – Acta Odontol Scand. 1954
(4) Between-meal eating habits and dental caries experience in preschool children – Am J Public Health Nations Health. 1960
(5) う蝕治療ガイドライン 第2版 P.76 ― 日本歯科保存学会
(6) Non-surgical treatment of dentin caries in preschool children – BMC Oral Health. 2015
(7) Recall intervals for oral health in primary care patients – Cochrane. 2020

 
歯学博士/医療行政アナリスト

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