証券会社のせいだけか?IPO時の公開価格がディスカウントされるワケ

“上場請負人”が喝破、本質的な問題はどこか
IPO請負人/中小企業診断士

【編集部より】スタートアップ・ベンチャー企業がIPO(新規上場)する際の「公開価格」が“割安”ではないのか--。ここにきて経済メディアだけでなく、読売新聞が今月7日付の社説で証券業界を批判する文脈で「公開価格の決め方を透明化してもらいたい」と注文するなど一般メディアでも取り上げ、関心が強まっています。

それでは、資金調達する企業側から見た実状はどうなのか?3つの事業会社で上場準備責任者を歴任した“上場請負人”佐々木義孝さんが「なぜディスカウントされるのか」をひも解きます。

上場で鐘を鳴らすことを目標にする経営者が多い中、公開価格が問題に…(写真:長田洋平/アフロ)

「公開価格はもっと高く」ホットな議論に

昨年2021年のIPOは年間で125社と2006年以来の高水準となり活況が続きました。また、未上場でしっかりと事業を成長させてから上場する企業も増え、公開価格の時価総額が1000億円以上をつけた企業は、2020年はゼロでしたが2021年は5社と6年ぶりの多さでした。

しかし足元では、初値が公開価格を下回る銘柄が相次いでおり、今年に入っても2社が続けて公開価格割れとなっております。昨年2021年12月のIPOは32社と異例の多さ、1日に6社のIPOの日もあり、限られた投資家の資金が分散し、投資家からは「多すぎ」の声も上がったと聞きます。

そんな環境下ではあるものの、IPO業界隈では、公開価格決定に関する議論、特に「公開価格はもっと高くあるべきだ」という議論がホットな話題となっております。

2021年6月に閣議決定された成長戦略実行計画では、スタートアップの振興策が項目として盛り込まれており、その目玉の一つが「新規株式公開における価格設定プロセスの見直し」となっております。

それを受け、上場時の公開価格決定については、昨年8月頃、公正取引委員会が、IPO時に企業が適切に資金調達できているかの調査を始めたとの報道がありました。この背景には、欧米に比べ日本では初値が大幅に上昇しており、日本のIPOでは発行体が本来調達すべき資金が、証券会社が抱える個人投資家に行き渡っており、IPOしたベンチャー企業の成長を阻害しているという見方があります。

今回は、「そもそもなぜIPO時の公開価格はディスカウントされるのか?」を確認してみたいと思います。

ディスカウントされる理由

上場していない会社の株には市場価格がないため、誰かが決めなければなりません。そのときに参考にするのが、会社や株式市場の状況です。具体的にいうと、まず上場する会社の業績や資産、将来性を元にして会社の状況をチェックします。そして、すでに上場している会社で類似した事業を行っている会社の株価や指標などを参考にし、上場企業にとっての適正な株価を算出します。

このようにしてIPO企業の公募価格は決定されます。しかし、実際のIPO時には、公募価格を上回る初値がつくことがほとんどです。なぜでしょうか。

証券会社の価格決定プロセスに注目が集まるが…(※画像はイメージです:m-company /PhotoAC)

初値が公募価格を上回るということは、投資家たちはその会社の実力は公募価格よりももっと上だと考えているということです。「株価=投資家が考える会社の実力」と考えると、IPO株の初値こそが会社の実力を表すフェアバリュー(適正価格)と考えることができます。

ところが企業側にとっては面白くありません。初値が公募価格を上回るなら、元の公募価格は会社の実力を適正に評価できていなかったのでは、と感じてしまうからです。

しかし、それは間違いです。公募価格をつける側には、IPOディスカウントが働くからです。IPOディスカウントの幅はフェアバリューの20~30%が多いようです。要は想定時価の20~30%安い価格をつけて売り出されることになるわけです。

ディスカウントされる2つの理由

なぜそのようなことをするのか、理由は大きく2つあります。

1つは投資家からの目線を意識していること。投資家は正規の値札では買いたくないと考えているのです。なぜなら、IPOの時点で割引価格ではなく正規の値札がついていたら、「別に今買わなくてもよい」ことになり、IPOの魅力が薄れてしまうからです。その結果、発行体が考えている株数を消化できない可能性があります。

もう1つの理由は、「情報の連続性」です。すでに上場している会社は過去暦年で財務諸表を定期的(四半期ごと)に開示しており、その数値の信ぴょう性については担保されています。

一方で、IPOする会社は今まで財務諸表を開示しておらず、目論見書で過去5年(監査法人の監査証明書は直近2年)の数値が一度に出てきます。その数値の根拠や連続性を疑うわけではありません。ただ投資家にとっては、目論見書公開から上場日まで1カ月程度の間で、今期の業績予想の確度を検証しなければならず、それなりに困難な作業となります。その部分がIPOディスカウントに反映されているとの認識です。

私個人は、この論理、考え方は極めて適正なものと捉えております。日本のIPOが規模が小さく、資金が思うように調達できないという問題は、私の経験から考えるには、IPO企業に対する価格決定のプロセスに大きな問題があるというより、ディスカウントを加味してでも投資家に訴求できるだけのエクイティストーリー構築力が発行体にも主幹事証券会社にも不足していることのほうが問題なのではないかと考えます。

それは、ベンチャー界隈で、ファイナンスに知見のあるCFO不足感が甚だしいことにも大きな要因があるのではと考える次第です。

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