官製談合事件、竹富町長の倫理観まで歪める「沖縄振興特別法」マジックとは

町負担126万円で11億円の事業ができる構造の「歪み」
批評ドットコム主宰/経済学博士
  • 沖縄・竹富町長が逮捕された官製談合事件に見る、沖縄支援の歪みとは
  • 事件の謎に諸説乱れ飛ぶ中、事業の経費を誰が負担しているのかが本質的問題
  • 町負担126万円で11億円の事業ができる「沖縄振興特別法マジック」とは

日本の最南端、沖縄県八重山諸島にある竹富町の西大桝髙旬(にしおおます・こうじゅん)町長(74歳)が今月13日、官製談合防止法違反の疑いで沖縄県警に逮捕された。

竹富町というと、石垣島から高速船で10分程度の竹富島を思い浮かべる人が多いだろう。赤瓦の民家と白砂の小路のコントラストが有名な観光地だが、竹富島は竹富町のほんの一部に過ぎない。イリオモテヤマネコで知られる西表島、朝ドラ『ちゅさらん』の舞台となった小浜島、「日本最南端の碑」のある波照間島など、9つの有人島(人口1人の嘉弥真島含む)と周辺の無人島から成る人口約4300人の小さな自治体である。

竹富町ホームページより

巨額の海底送水管事業

離島から構成される竹富町にとって最大の問題の1つは水道というライフラインである。町内で独自水源があるのは複数河川のある西表島だけで、竹富島と波照間島を除く他島は、海底送水管によって西表島より水道水の供給を受けている。

竹富島は別自治体である石垣市からの海底送水管によって受水し、距離の大きく離れた波照間島は、海水淡水化システムにより水道水を供給している。1970年代に入るまで、西表島を除く島々は、天候に左右されやすい天水(貯留した雨水)によって生活用水をぎりぎり確保してきたから、海底送水管の布設(水道工事用語)は竹富町の人々の生活の質を劇的に改善してきたといえるだろう。

石垣島の高台から望む竹富島。離島だけに送水管はライフラインだ(K-system /PhotoAC)

1972年から74年にかけて、西表島と新城(あらぐすく)島、新城島から黒島のあいだに総延長約12.5キロ、1975年から76年にかけて、石垣島と竹富島のあいだに総延長4.2キロ、1976年から77年にかけて、西表島と小浜島のあいだに総延長2・9キロ、1979年から80年にかけて西表島と鳩間島のあいだに総延長6.6キロの海底送水管がそれぞれ布設されている。

これらの海底送水管の耐用年数は約50年といわれており、2015年度から送水管の更新工事が始まっている。手始めに2015〜16年度には約11億1726万円の事業予算で、西表島・新城島間の海底送水管を更新している。

逮捕された西大桝町長(竹富町HP)

西大桝町長は、町会議員を経て2016年に町長に当選、2020年の2期目の選挙では無投票で再選された。海底送水管の更新が始まってから町長の職に就いたことになる。

竹富町が厚労省に提出した水道整備計画では、海底送水管の更新工事は2025年までつづき、総事業費は約47億5000万円にのぼる予定である。竹富町の普通会計予算は年間60億円程度なので、いかに大きな工事かわかるというものだ。

官製談合の背景「業界内の秩序 乱した」?

町長の容疑は2020年の竹富島・石垣島間の海底送水管の入札で、入札を予定していたJFEエンジニアリング(本社・横浜)の社員など関係者に対して、入札制限価格を漏らしたというもの。JFEエンジニアリングの落札価格は約6億7300万円で、入札制限価格を千円だけ上回った。2017年度にも、JFEエンジニアリングが新城島・黒島間の海底送水管を、入札制限価格と同額の約8億5000万円で落札した案件があり、これについても官製談合の疑いがあると見られている。

入札制限価格の漏洩はもちろん法令違反だが、竹富町のような小さな自治体の役場が、海底送水管の工法や材質やコストなどを正しく把握した上で適切な入札制限価格を決めるのは難しい。竹富町の水道課の職員はわずか5名であり、広域にわたる島々の水道を管理する日常業務だけで手一杯だ。事情通によれば、規模の小さな自治体は、整備計画を立てるよりも以前に、技術仕様などについて知見のある民間業者に相談することは珍しくないという。たしかにそこに癒着が生まれる余地はある。

沖縄に詳しいある建設業界関係者は、このように語る。

我々の場合も特殊な技術が必要な案件の場合、困り切った役所の人に依頼されて技術仕様を決め、概算見積もりを出してあげることがある。そうした協力をすればたしかに落札はしやすくはなる。けれども、業界内には業者同士の阿吽の呼吸のようなものがある。たとえば、東地区はA社の得意エリアだけど、西地区はB社の得意エリアだから手は出せないよね、といった棲み分け。水道のようにパイが決まっている業界では、特にそうした傾向が強い

そして今回の事件について興味深い指摘をする。

今回の竹富町のケースでは、JFEエンジニアリングがこうした業界内の秩序を乱してしまった可能性はある。町長との関係が必要以上に親密だったのかもしれないし、下請けに宮古島市の業者を選んだことが石垣市など地元業者の反発を呼んで、警察へのタレコミがあったのかもしれない。そのあたりはまだ謎ですね

石垣市長選に絡んだ争い?

謎が謎を呼んで、お隣の石垣市長選に関係あるのではないか、と疑う人もいる。石垣市では、きょう2月20日告示、27日投開票というスケジュールで市長選が行われる。4期目を目指す現職の中山義隆氏(54)=自民、公明推薦=と、保守系市議で保革双方から支援を受ける新人の砥板(といた)芳行氏(52)が立候補を表明しており、一騎打ちになるといわれている。

隈研吾氏の設計で話題になった石垣市役所新庁舎(市広報誌より)

中山氏と砥板氏はきわめて親しい間柄だったが、昨年11月に落成した石垣市新庁舎の建設をめぐってぎくしゃくした関係になり、12月になると砥板氏が市長選への立候補を表明した。共産党や社民党など中山市政の野党勢力は、石垣島市民とはほとんど関係のない「辺野古埋め立て反対」などといった主張を公約に含めるよう求めた上で砥板氏支援を決め、目下激しい選挙戦を展開している。

いずれかの候補を快く思わない人物が、西大桝町長の一件を警察にたれ込んで、選挙戦に影響を与えようとした、という噂もあるが、警察は2018年から内偵していたというから石垣市長選とは無関係だろう。が、石垣市や竹富町を管轄する八重山警察署で6人もの逮捕者を出す事件はきわめて珍しいだけに、今も謎めいた噂話は絶えない。

126万で11億の事業…「沖振法マジック」

筆者がいちばん気になったのは、実は事件そのものではなく、海底送水管事業の経費を誰が負担しているのかという問題である。2015〜16年度に整備された西表島・新城島間の海底送水管更新事業(前出)について見ると、総額は11億1726万円で、その内訳は、国庫補助金7億4,400万円(国庫補助率は沖縄特例の高率補助で3分の2=約67%)、簡易水道事業債1億8,600万円、過疎債1億8,600万円、竹富町の単独持ち出し額は126万円となっている。

簡易水道事業債と過疎債の合計3億7200万円は竹富町の借金だが、こうした地方債の元利償還(返済)については、国から配分される地方交付税交付金で手当てされるから、中長期的にはまるまる町の借金として残るわけではない。つまり、このケースでいえばまず126万円払えば11億5600万円の事業ができる仕組みになっているのである。

これが沖縄県以外の市町村だったら126万円では済まない。他県の市町村の場合、国庫補助率は10分の4=40%である。離島であれば離島振興法が適用されるから、補助率は2分の1=50%まで上がるが、沖縄県に適用される補助率3分の2とは約17%の差がある。地方債の起債額を竹富町と同じ3億7200万円と考えると、当該市町村の単独持ち出し額は1億8633万円と計算される。

126万円対1億8633万円。その差は1億8537万円である。これが「沖縄(振興特別法)マジック」というものだ。沖縄県は、先頃延長が決まった沖縄振興特別法は「沖縄県を取り立てて優遇する制度ではない」と繰り返し主張しているが(関連拙稿)、個別の具体的事例を取り上げてみると、その優遇ぶりは歴然とする。沖縄県の首長が公共事業の「誘惑」に負けてもやむをえない。

画・シーサー/PhotoAC

他の国境の島々とのバランスは?

筆者は竹富町のような国境に位置する自治体を、国境防衛や過疎対策という観点から国が財政的に優遇するのは当然のことだと思っている。今回のような島民生活に密着した海底送水管布設事業も不可欠だと思う。

しかしながら、現行の沖縄振興特別法の自治体財政に対する適用状況を見ると、同じように国境に位置する他県の島々とのバランスがまったく取れていないのではないか、と判断せざるをえない。

西大桝町長も、町の負担が126万円ではなく2億円近かったとしたら、海底送水管の整備事業にもっと誠実かつ慎重に取り組んだのではないか。そうすれば今回のような官製談合も起こらなかったはずだ。沖縄振興特別法は自治体の財政規律を乱し、首長の倫理観まで歪めてしまうのである。

関連記事:メディアの空騒ぎ「沖縄振興予算3000億円割れは、自公政権の思惑」は本当か?

 
批評ドットコム主宰/経済学博士

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