織田裕二さんのドラマ彷彿、日大不祥事に見る「新しい危機対応」

「前理事長と決別」宣言の記者会見で注目した登壇者とは
危機管理/広報コンサルタント
  • 日大不祥事で前理事長逮捕後は「悪くない対応だった」と石川氏
  • 特設ページで丁寧な情報提供。記者会見も「前理事長と永遠に決別」
  • 記者会見の登壇者人選に新しい視点。織田裕二さんのドラマシーンが実現?

日本大学理事らによる一連の背任事件。昨年夏に発覚し、容疑者の捜索、逮捕、起訴、そして今年の2月15日、田中英壽前理事長は初公判で起訴された内容を認めました。この間の日大の対応はどうだったのか。悪くない対応であったと思います。むしろ監事(監査役)のあるべき姿について新たな視点を提供したといえます。

日大本部(Mr.Sugiyama /Wikimedia CC BY-SA 3.0)と田中前理事長(日大サイト)

日大不祥事、2つの事件

日大不祥事といえば、2018年のアメフト部のタックル問題はまだ記憶に新しく「またか」と感じた人は多いと思います。今回は日大事業部が舞台となりました。アメフト部の問題とも絡むのでおさらいをします。

12月10日に記者会見をした日大は、この問題を第1事件、第2事件として説明しました。第1事件は、日大事業部の井ノ口忠男氏が昨年10月27日に起訴された問題。井ノ口氏が病院建替えの発注にあたり、設計監理者に水増しさせてリベートを受け取り、日大に損害を与えたとする内容です。これだけなら日大は被害者ですが、問題はそれだけではありません。

井ノ口氏は、日大アメフト部出身で2018年に起きた悪質タックル問題で一度理事を退任したものの、検察が不起訴としたことから、田中前理事長に許され、日大事業部と理事に再就任しました。第1事件の問題は、事件で責任をとって辞任した人を簡単に復帰させてしまったことも環境要因としてあるのです。その意味において日大はチェック体制に不備があり、責任があるといえるでしょう。

第2事件は、田中前理事長の所得税法違反。昨年11月に逮捕され、12月20日に起訴されました。12月10日の日大の会見では、起訴前であったことから、第2事件については説明はなし。初公判で明らかになった内容は、1億1800万円の所得を隠して申告しなかった脱税の罪。この所得は日大に関係する業者から受け取った金銭で、第1事件の井ノ口氏から受け取った金銭も含みます。平たく言えばリベートになりますが、本人は「祝い金」と思っていたと述べています。

特設ページから丁寧な情報提供

この問題に対して、日大はどう対応してきたのでしょうか。

ウェブサイトに特設ページ「本学の一連の不祥事に関するお知らせについて」を立ち上げています。2021年9月10日の「東京地方検察庁による捜査の報道について」を皮切りに、本学理事の逮捕について、理事の解任、被害届け、記者会見のアナウンス、中間報告書、大学再生会議の設置といった大学の方針、あるいは、学長から学生・生徒等保護者、卒業生、教職員の皆様へといった関係者へのメッセージ。約6カ月で47本(2月17日現在)。頻繁に発信されています。学費を値上げしない方針もあり、関係者が不安に思うことに配慮した内容も含まれていました。丁寧な情報提供だといえます。

丁寧な情報発信に努めている特設ページ(日大サイトより)

記者会見は12月10日。11月29日の田中前理事長の逮捕が11月29日で、記者会見を開催する方針は12月3日であったことからすると、田中理事長を「前理事長」とするため、本人の辞任を取り付けるまで待ったことがわかります。

2時間以上に渡る記者会見では、冒頭、「田中前理事長と永遠に決別する」とインパクトのある出だし。内容も第1事件、第2事件と整理され、わかりやすい説明でした。

今回の記者会見で筆者が注目したのは登壇者。学長(兼理事長)、危機対策本部長(副学長)、監事、弁護士の4名。監事の記者会見出席は珍しい。大学側の想定問答を洗い出した結果、監事による説明も必要だとの判断によるのでしょう。実際、質問の多くが田中前理事長の独裁を止められなかったガバナンス、チェック機能についてでした。監事の質疑応答を一部紹介します。

※画像は記者会見のイメージです(Karl-Hendrik Tittel /iStock)

質問対応は不十分も、登壇者人選に新しさ

「監事も大学経営を見てきていると思うが、この不正をどのように総括しているのか」の質問に対して次のように回答しています。

監事としてどういうふうな見方をしてきたのかと、こういう趣旨であると思いますが、私も去年(2020年)の6月に就任したばかりで、今までどうだったかということについての回答はできる状態にはありません。ただ、就任してからは、事業部等、期中監査、期末監査と業務の監査をしてきております。その中でどこまで内容が把握できるかということについては私も苦慮しており、今回のものが発見できなかったということについてはやはり非常に残念に思っております。

この回答はいただけません。1年以上も監事をしていて、「なったばかり」は逃げの姿勢。1年も要ればチェック体制については把握できるでしょう。「残念に思っている」は他人事に聞こえてしまいます。質問対応は不十分ではありましたが、監事を出席させたことは新しい視点を提供したといえます。

監事・監査役の役割と権限は、「業務監査と会計監査があり、違法または著しく不当な職務執行業務がないかどうかを調べ、あれば阻止・是正するのが職務」とされています。これまで注目されなかったことが不自然であったといえます。

筆者が初めて監査役のメディアトレーニングを実施したのは2018年。社長を含めて役員向けトレーニングの中でした。その後、WOWOWドラマ「監査役野崎修平」で主演の織田裕二さん演じる監査役が、銀行の不正融資について1人で記者会見をするシーンを見ながら唸りました。なるほど、これは案外あるべき姿ではないか、と。

監事・監査役が記者会見で説明責任を果たす時代に突入したのかもしれません。

 
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