ウクライナ侵攻:プーチンに戦略的な勝利を与えてはならない
「五輪後の侵攻」予測的中、これからどうなるか- 「北京五輪後のロシアのウクライナ侵攻」予測的中の鈴木氏が序盤戦を分析
- プーチン大統領は2014年からウクライナ全土制圧へ虎視眈々だった
- 開戦の「引き金」になったバイデン発言、我が国はロシアにどう備える?
北京オリンピックが2月20日に閉幕し、これと合わせるようにロシアのウクライナに対する侵攻が始まった。
この少し前の15日に行われたウクライナへのサイバー攻撃は、米国が指摘したとおり、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)によるものに間違いなく、これと並行して(ウクライナ東部に侵入させていた)特殊部隊によって新ロシア派武装勢力に対する散発的な攻撃を仕掛け、これをウクライナが攻撃したように宣伝することで、ロシアによる軍事介入の口実を作為したのであろう。正に、(2014年と同様な)サイバー戦や情報戦を駆使したハイブリッド戦争を仕掛けたということである。

2014年から虎視眈々だったプーチン
1月23日の拙稿「北朝鮮、中国、ロシア・・・日本を脅かす3国の今年の出方と思惑を読む」で、北京オリンピック後にロシアがウクライナに侵攻する可能性について触れたが、どうやら悪い予感は的中したようだ。
ロシアが一方的に(ミンスク議定書を破棄して)独立を承認した、(ウクライナ東部の)ルガンスクとドネツク人民共和国だけではなく、すでに実効支配しているクリミア半島に至るまで、すでに相当数のロシア軍が侵攻していると見られる。今後これらの地域や、すでに部隊が展開しているベラルーシや黒海などを拠点に、ロシア軍は各方面からウクライナの戦力基盤を攻撃し、戦域を拡大してウクライナ全土を制圧しようとするであろう。
このような経過を見ていると、今回の侵攻は2014年の「ウクライナ騒乱」以来、プーチン大統領はウクライナをロシアの支配下に置く計画を練り、虎視眈々とその機会を窺っていたと思われる。もちろん、これにはウクライナ全土への軍事侵攻も含まれていたわけで、これはすでに米国も、昨年12月以来その可能性を指摘していたところである。
これだけ大規模な軍事作戦は、そう簡単に準備出来るものではない。おそらく、数年前からロシア軍はプーチン大統領の指示を受けて作戦計画を立案し、各軍の役割分担を定めた上で、統合指揮系統の構築や展開地域及び部隊の選定など、戦時態勢を整えて侵攻準備を進めてきたのであろう。そして、昨年夏ごろには部隊展開のための(資材集積などの)準備命令、秋には部隊の(ウクライナの国境付近への)展開命令というように段階を経て、昨年12月にはほぼ主要部隊の移動を完了させ、ウクライナへの作戦開始命令を待っていたものと推測される。
引き金になったバイデン発言
プーチン大統領がウクライナへ向けての侵攻を決断するきっかけとなったのは、昨年12月7日にバイデン大統領との米露(リモート)首脳会談の後、翌8日にバイデン大統領が「アメリカが一方的に武力行使をして、ロシアがウクライナを侵略するのに立ち向かうという考えは、現時点ではない」と、明言したことだと筆者は考えている。

なぜならば、この時点で、すでに前述のようなロシアの企みを米国は察知していたはずである。これに対して、「米国は未だそれに対抗する軍事的な準備をしていない」となれば、もはやロシアのウクライナ侵攻に軍事的対応をすると万が一米国が決断をひるがえしてもすでに手遅れであり、これをバイデン大統領は暴露してしまった。
また、同10日にもバイデン大統領は、ウクライナへの米軍による「非戦闘員の退避行動(Noncombatant Evacuation Operations: NEO)は実施しない」と言及し、その理由として、「米国とロシアが互いに発砲を始めれば世界戦争になる」と述べたのである。
この時点でプーチン大統領の腹積もりは決まったのではないだろうか。完全に米国はチキンレースから逃避し、「ウクライナを見捨てた」ということである。このあとのプーチン大統領による諸々の外交は、「ロシアは外交的手段を尽くしている。軍事的手段にまで追い詰めたのは西側だ」というプロバガンダを展開するための演出だったということではないだろうか。
軍事侵攻の最終兆候
今回、米国はロシア軍の行動に関わる様々な機密情報をリークしてロシアをけん制していたが、その中でも、1月28日にリークされた「ここ数週間のうちに輸血用血液が前線に運ばれている」という情報は決定的だった。いつ(実際に)始まるか分からない作戦のために、輸血用血液を前線に輸送して準備しておくことなどあり得ない。これはすでに作戦が発動され、侵攻準備が最終段階に来たことを示している。
これを見ても、やはりプーチンは昨年12月の段階でウクライナ侵攻を決断していたことが見て取れる。これらの準備状況や展開規模からしても、この時点で急きょ作戦を中止して引き返すことなど、とてもできないだろうと筆者も考えていた。

今後ロシア軍は、サイバー攻撃や最新鋭の兵器を駆使してウクライナ軍の指揮系統を破壊するとともに各軍の作戦基盤を攻撃し、戦闘能力の無力化を図るであろう。残念ながら、ウクライナ軍は手も足も出まい。ロシアが目標を達成するのにそう長くはかからないのではないか。パラリンピック開催前には攻撃を停止するかもしれない。
問題は、その後どのような形でこの戦争を終結させるかだ。ロシアの狙いは、ゼレンスキー大統領を政権から引きずり下ろし、ウクライナに傀儡政権を確立させることではないかと考える。場合によっては、特殊部隊によってゼレンスキー大統領らが拘束されるかも知れない。ウクライナ東部のロシア人保護のためなどといくらでも罪はでっちあげられる。次に、ゼレンスキー大統領に代わってロシアが政権に就かせるであろう人物などともすでに連携を図っていることであろう。
わが国に対する“ミリハラ”の可能性
我々民主主義国家は、一致団結してあらゆる手段を尽くし、決してプーチン大統領に戦略的な勝利を与えてはならない。自分たちに痛みが伴うことも覚悟して、徹底的に経済的に締め付けるとともに、様々な外交によってロシアを国際社会から孤立させることだ。
結果的にこのような国際法秩序を無視した力による現状変更の試みは、失敗に終わるのだということを国際社会に示すことが何よりも大事だ。なぜならば、それは今回のロシアによる蛮行の成り行きを、中国が熟視しているだろうからであり、これが成功裏に終われば、次は自分たちが同じように台湾を制圧する番だと考えているに違いないからである。
おそらく、今後ロシアは、経済制裁に同調しているわが国に対してミリハラ(ミリタリー・ハラスメント:軍事的嫌がらせ)を繰り返すであろう。特に、爆撃機や戦闘機などによる領空への接近や模擬攻撃、場合によっては領空侵犯などの挑発行為に及ぶかもしれない。あらゆる事態を予想して、警戒を厳にするとともに、挑発的なロシアの行動に対しては、政治的にも軍事的にも冷静かつ毅然とした対応が求められるであろう。
ウクライナの現状を直視し、わが国は、「敵基地攻撃能力」はもちろんのこと、「核武装」についても前提なしに議論する時期が来たのではないかと痛切に感じている。
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