続・水素社会は本当に来るの?「世界一」日本の技術がピンチをチャンスに変える!
坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第19回- 次世代エネルギーとして注目される「水素」の解説の続編
- 日本の高い技術力。自動車を作るときの廃材を利用して水素を作る装置に注目
- 世界一の特許数を保有する日本の技術とは?水素社会の普及のカギは?
水素社会は本当に来るのでしょうか。前編では、自然界にほとんど存在しない水素H2が、次世代エネルギーとして注目された3つの理由のうち①「燃料にしても二酸化炭素が発生しない」②「様々な資源から作ることができる」のについてご紹介しました。後編では、残りの1つに触れてみましょう。

自動車の廃材から水素H2を作る !?
3つめの理由をお話する前に、最近注目されている少し変わった水素H2の製法に注目してみましょう。
その製法とは、「自動車を作るときの廃材を利用して水素を作る」というものです。

2020年、トヨタ自動車の協力のもと、高岡市のベンチャー企業アルハイテックにより「自動車製造過程で出るアルミ合金の削り粉」を利用して、純度の高い水素を安定的に作る装置が開発されました。すなわち「自動車を作るときの廃材を使って水素を作り、その水素で自動車を走らせる」ということです。
この装置は、アルミ合金の削り粉を専用の容器に入れ、独自に開発した溶液に浸すと化学反応によって水素が発生するというもので、なんと外部電源は不要。通常、水素は液化させたり圧縮させて輸送させていますが、この装置はアルミ合金を使ってその場で水素を発生させるため、輸送費だけでなく二酸化炭素の排出も大幅に抑えられるのです。
それだけではありません。副産物として生じる物質(水酸化アルミニウム)は、セラミックや燃えにくいカーテンなど原料として利用できます。これこそ、本当のクリーンエネルギーですよね。
2021年5月の北陸中日新聞によると、トヨタだけでなく、工場や教育機関スポーツ施設などから装置導入の問い合わせが300件ほど寄せられているのだとか。世間の関心が高いことがわかります。
「今まで廃棄していたものを利用して、必要なものを作る」というのは、これからの時代にふさわしい方法だと思いませんか。
日本が「燃料電池」世界第1位!
それでは、水素が注目される3つ目の理由です。それは「日本の高い技術力」。その技術とは、ズバリ「燃料電池」。この分野における特許出願件数は、なんと、日本が世界第1位なのです!みなさんはご存知でしたか?
燃料電池とは、物質が酸素と反応するときに放出されるエネルギーを電気エネルギーに変える装置です。ピンとこないかたは、物が燃えているところを想像してみてください。何かが燃えている(酸素と反応している)ところに手をかざすと熱いですよね。それはエネルギーが放出されているからです。このように、物質が酸素と反応すると、エネルギーが放出されます。これを電気エネルギーに変えて取り出す装置が燃料電池なのです。
その中で、水素H2と酸素の反応を利用しているのが、街で見かけるようになった燃料電池車に搭載されている燃料電池です。「トヨタのMIRAI」といったほうがピンとくるかもしれませんね。

水素エネルギー利用の中核となる燃料電池車。燃料電池車の普及が水素社会の普及を左右すると言っても過言ではありません。燃料電池車は、約3分の水素充填で600km以上走行可能だとか。水素エネルギーの時代が来れば、燃料電池車は、みなさんの生活に直接関わるものとなるでしょう。自動車以外にも、燃料電池を使った鉄道、船などの開発も進んでいます。
ピンチはチャンス!
とはいえ、水素社会の実現は簡単ではありません。水素ステーションの数は、ガソリンスタンドの数には遠く及びません。また、水素の価格が高いことも大きな課題です。
だからと言って諦めることはできません。水素社会の実現は世界共通の目標であり、未来の地球のためなのです。水素エネルギーの研究をおこなう九州大学主幹教授の佐々木一成博士は次のように述べています。
「日本のエネルギー研究は世界をリードしています。『資源がない』という土壌があったからこそ、景気が良くても悪くても頑張らなきゃいけない状況にあります。つまり、常にモチベーションを維持できる環境にあるんです。ピンチはチャンスなのです」
資源に乏しい国、日本。それはマイナスなどではなく、世界に先駆けて水素社会を実現できるチャンスなのです。それを表していたかのような、五輪史上初の水素を用いた聖火の炎。世界中が暗いトンネルの中にいるかのようなコロナ禍に灯されたその炎は、ピンチをチャンスに変える日本の魂のように思えてなりません。
(ちなみに、水素の炎は無色です。聖火の炎がきれいに色づいているのは、ナトリウムの炎色反応を利用しています。お味噌汁が吹き零れると炎の色がオレンジっぽくなるのと同じです)
■
【編集部からおしらせ】坂田薫さんのサキシルでの本連載が書籍化されました。連載記事も大幅に加筆、書籍オリジナル記事も多数収録しています。
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