ウクライナ侵略の「先兵」か?金正恩がプーチンをミサイル12発で「支援」

北朝鮮の「振り子外交」、今回はロシア寄りに傾く理由
早稲田大学名誉教授
  • 北朝鮮の「連続ミサイル発射」の目的は何か。重村氏が独自情報をもとに分析
  • ロシアのウクライナ侵攻後の再度の発射が示す「ロシア支援」の意図
  • 2月に朝露の外交高官が会談。ロシア支持、米国非難の声明から何が読み取れる?

2022年は世界史に必ず特筆される。北朝鮮とロシアの指導者は、平和を壊した国際法違反の「ならず者」になった。北朝鮮はウクライナ侵略直前の1月から2月27日まで、合わせて12発のミサイルを発射した。結果を見れば、ロシアへの“戦争支援”というほかない。北朝鮮はロシアから多くの情報を得ており、核兵器と統一戦争への戦略を決して手放さないだろう。

2019年4月、ロシア初訪問でプーチン氏と会談する金正恩氏(写真:ロイター/アフロ)

ミサイル連弾は「ロシア支援」

北朝鮮は、北京冬季オリンピック直前の2022年1月、異例ともいえる7回11発のミサイル発射を行い、さらにロシアによるウクライナ侵攻後、再度ミサイルを発射した。北朝鮮の「連続ミサイル発射」の目的は何だったのか。ロシアのウクライナ侵攻後の再度の発射で、この目的が明らかに「ロシア支援」にあることが分かった。

北朝鮮の外交戦略は「振り子外交」である。ある時は中国につき、事情が変わるとロシアを支持する。今回は、それがロシアに傾いた。振り子のように、大国の間を渡り歩き、支援や利益を得る戦略だ。

北京五輪を前にミサイルを11発も発射すれば、中国は不満を抱く。それでも北朝鮮はロシア支援に加担した。つまり、ウクライナ侵攻で米国がどのような対応を取るかを探るために、北朝鮮が多数のミサイルを発射した、と考えると分かりやすいのだ。米国は強硬な態度を取らなかったから、バイデン米大統領は弱腰だとの判断をロシアに与えたことになる。

DedMityay /iStock

「バイデンの弱腰」を確認

北朝鮮はなぜロシア支援に回ったのか。ウクライナは、旧ソ連時代は軍需産業の中心地で、核保有国だった。核開発とミサイル開発のセンターで、多くの企業や技術者がいた。ところが、2014年のロシアのクリミア併合でこの関係が崩壊した。

ウクライナからの武器輸出が制限され、ウクライナの軍需産業は倒産や休業に追い込まれた。この事態を利用し、北朝鮮は密かに技術者をリクルートした。ミサイルの機密部品を密輸入するルートもできたのに、ウクライナがロシアに支配されれば、北朝鮮への核、ミサイル技術流出は止まる。

そこで北朝鮮は、ロシアに恩を売る戦略に出た。それが、年初の11発のミサイル発射だった。しかも最後に発射したのは、中距離核ミサイルだった。米露は、中距離核ミサイル全廃条約(INF)規制をめぐる駆け引きの最中だから、かなり意図的だ。

中距離核ミサイルの発射は、ロシア支援の意図が込められ、米国がどう反応するかをテストする機会にもなった。アメリカの反応は弱く、ウクライナに侵攻しても大きな反発はないと、判断した。明らかに、北朝鮮はウクライナ戦争の先兵役を担ったのだ。

北朝鮮は、ロシアがウクライナ戦争に勝利すると考え、核とミサイル技術の入手ルート確保と、経済、食糧支援も期待した。そして、2月27日には「偵察衛星開発」を理由に、再びミサイルを発射した。その意志はもはや明白というほかない。

メンツをつぶされた中国

北京五輪直前のミサイルを発射について、多くは「米国の気をひいて、交渉に持ち込みたい」との素人受けする分析で、筆者もこれを批判したが、やはり間違いだった。米国は「無条件での対話」を呼びかけており、ミサイルを発射する必要はない。

11発目は、1月30日の中距離ミサイル発射で、中国も呆れて北朝鮮弁護をやめた。というのも、国連総会は昨年12月に中国の提案で「北京五輪期間(1月28日―2月20日)の紛争停止」を決議していたのだ。

習近平国家主席(米国務省公式flickrより)

国際情勢の判断違いは、日本の命運にも関わる。北朝鮮は、米朝対話で核放棄する意図はない。核保有国と認定させたいだけで、それに応じない米国と会談する意味はない。北朝鮮は、米韓合同軍事演習中止や在韓米軍撤退、核放棄はしない、核保有国として認めよと要求するから、米朝交渉はうまくいくわけがない。

中国は、メンツを潰されたにもかかわらず、当初は「関係諸国は北朝鮮を刺激しないように」と弁護していた。中国は、最初のミサイル発射直後に、およそ1年半ぶりに北朝鮮の貨物列車に、支援物資を積み込んだ。それまでは北朝鮮へ支援物資を送っていなかったから、筆者もミサイル発射の意図を「支援物資を出さない中国への反発」とみたが、11発は余りにも多すぎた。中国は支援物資を再び中断した。

米国非難とロシア擁護の意図

実は、露朝の外交高官は2月8日に会談し、朝露の戦略関係強化と北朝鮮のロシア支持を話しあった。北朝鮮外務省は2月13日に、ロシアを支持する立場を表明し米国を非難した。

米国がロシアのウクライナ侵攻説を大袈裟に広め、東欧諸国に数千人の武力を急派するのは、ウクライナを巡る軍事的緊張を段階的に激化させ、ロシアを力ずくで制圧するために自らの武力増強を正当化する大義名分を作ろうとしている。

北朝鮮外務省は、この発表の中でプーチン大統領とラブロフ外相の発言も引用し、ロシア支持をあからさまに表明した。

さらに、ウクライナ侵攻後の26日には「世界が直面している最も大きな危険は、国際平和の安定の根幹を崩す米国とその追随勢力の強権と専横である」と、米国批判を公表した。ところが、これは外務省研究員の主張で、個人の主張と言い訳できる余地を残した。米国や国際社会との全面対立を避けたい北朝鮮の計算が読み取れる。中国がロシア全面支持を避けたので、腰が引けたのだろう。

「統一戦争」勃発後の対応を検討か

北朝鮮のロシアの戦争支援には、韓国への統一戦争の可能性を探る意図もあった。北朝鮮はなお南朝鮮統一を国家目標にしているから、統一戦争をした場合に欧米はどう対応するかを見ようとした。ロシアの孤立は計算外だっただろう。

北朝鮮は改めて、「核兵器を持たないと米国に攻撃される」との教訓を得た。ウクライナは独立の際に核兵器を放棄したから、ロシアの侵攻を招いたことも改めて学んだ。北朝鮮の核放棄と南北問題解決は一層困難になったというほかない。

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