岸田政権も維新もビミョ〜な件、結局、国民の負担増ばかりの「最低所得保障」政策

公的年金と生活保護の「機能不全」、働く世代の貧困解消できず...
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 岸田政権の勤労者皆保険構想で厚生年金拡大。国民は「負担増」
  • 公的年金、生活保護はどう機能不全に陥っているのか
  • 働く世代の社会保障が不十分な歪さ。今の政策は貧困を解消できてるか?

2022年10月の厚生年金拡大を前に、社会保障のありかたの議論が加熱しています。7月の参院選後は最長3年間国政選挙がなく、残り数か月での政策形成は日本の未来を大きく左右します。

kellymarken /iStock

「防貧」能力が落ちた公的年金

岸田政権は被用者保険をあらゆる労働形態に対し適応していく勤労者皆保険制度を目指し、今回の厚生年金拡大もその一環。10月改正は一見手取りが増えるように見えますが、国民全体でみれば「負担増」であり、賃上げや現場人員の強化はさらに遠のきます

一方で日本維新の会はベーシックインカム案を先の衆院選で公約。その後財源の議論を経て「一律定額給付だけではない最低所得保障として検討」と軌道修正しました。

これらの議論が有権者からも注目される背景には、少子高齢化や氷河期世代非正規労働者の低年金問題などに基づく公的年金の防貧能力の低下があります。

そもそも貧困の定義とは何でしょうか。一つの明確な線引きとしては憲法25条で保障される「健康で文化的な最低限度の生活」の基準となる最低生活費が挙げられます。

例えば都市部の単身世帯で11万円程度、3人世帯で20万円程度と最低生活費は居住地域・世帯人数・消費動態等と比較して年単位で調整され、それを下回ると生活保護を受給可能になります。

生活保護の機能不全

普通に暮らしていると生活保護者の生活水準は想像できないかもしれませんが、医療現場でお会いする多くの生活保護者は穏やかに暮らしています。一般的に転居の必要はなく、通勤・通院に必要であれば自動車も所有できます。テレビ・パソコン・スマートフォンは当然生活必需品ですし、ゲーム機の所有も違法ではありません。

労働し所得を得ることも推奨されており、「最低生活費に不足する分を受給する」のが本来の制度趣旨。以前は働いても手取りが変わらないので労働インセンティブがないと言われていましたが、2014年より収入増分の一部が積み立てられ生活保護離脱時に現金として支給されるようになりました。

これらの制度設計の背景には19世紀イギリスの「新救貧法」に対する反省があります。当時は労働可能な者は保護を受けることはできず、どんなに悪条件の労働環境でも失職はリスクに。仮に保護を受けたとしても生活水準はそれ以下の苦境でなければならないと規定されていました。

つまり現在の生活保護制度は成立時点より、ワーキングプア・ブラック労働への対策も含まれている職業や年齢による区別のない普遍的なセーフティネットであり、最低所得補償の機能を既に有したものとして作られています。

ワーキングプアの定義はフルタイム労働で所得が最低生活費を下回る者。日本はOECD加盟国中で労働者の貧困率が高いですが、生活保護制度が機能していないためとも解釈できます。

働く高齢者の増加で実態と乖離

一方で生活保護制度は「救貧」であり、年金制度やベーシックインカムの大部分は貧困を未然に防ぐ「防貧」として位置付けられています。

年金制度があるから生活保護予算が抑えられているのは事実です。氷河期世代以降増加した低年金・無年金労働者が生活保護になると、約20兆円の追加予算が生活保護のために必要といわれています(参考)

しかしこれらの試算は65才で就労所得がゼロになることが前提。70才まで就業機会を与える努力義務を企業に課したのが2021年4月の改正高年齢者雇用安定法で、既に高齢者世帯の半数は年金以外の所得を得て生活しており試算と実態は乖離します。

また生活保護受給者の8割は傷病者と高齢者であり、生活保護予算4兆円の約半分は医療費。健康に問題のない高齢者・失業者・ワーキングプアが可能な範囲で働きながら不足分を受給しても負担増は限定的です。

医療同様に予防政策は未然に防ぐという性質上対象が拡大して余分なコストを生みやすいので、税の使途としては特に合理性が求められます。もちろん取り返しのつかない事態への予防ならば事後対応よりもある程度大きい予算が容認されますが、生活保護は命を守り社会復帰させるという予防とリハビリテーションの機能を有しており、生活保護受給自体が取り返しのつかない事態には該当しません

今の政策は貧困を解消できてるか?

防貧政策である勤労者皆保険制度とベーシックインカムに必要な予算規模はどちらも100兆円。日本の社会保障は若者から高齢者への所得移転が過剰で、働く世代の社会保障が不十分という構造問題は、2009年に既にOECDが指摘しています。

さらなる負担増を求める前に、既に欧州諸国並みかそれ以上の潜在的国民負担率がどれだけ実質的な貧困の解消へと還元されているか政策評価をしなければなりません。

既に年金ではない老後防貧政策としてiDeCoやNISAの利用も拡大。成熟社会では高齢者イコール社会的弱者、若者イコール自立可能とは必ずしもなりません。

拡張的防貧政策である勤労者皆保険やベーシックインカムによって、高齢者の貯金が使われないまま停滞し、国民負担増によって世代間共助の余力が失われ、ヤングケアラーやシングルマザーの救貧も後回しになる。それは本末転倒ではないでしょうか。

(図)財務省作成

【関連記事(拙稿)】

(参考)就職氷河期世代の老後に関するシミュレーション ― 総合研究開発機構

 
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