トヨタで過去5年で火災連続の異常事態、過去最高利益のウラで「緩み」説も
経済安保対応は迅速も、問われる足元の危機管理- トヨタ自動車で近年火災が頻発。今月7日「お膝元」実験棟でも発生
- 3年前には本社の研究開発棟でも出火。現場には「虎の子」の技術が
- 先日起きたサイバー攻撃では迅速な危機対応を見せたトヨタだが…
【編集部より】トヨタ自動車や関連会社の施設で近年、火災が頻発しています。品質管理・安全管理で最強だったはずの「トヨタ式」に綻びが生じているのでしょうか。

「お膝元」実験棟で火災騒動
3月7日の夕方、愛知県豊田市のトヨタ自動車本社内にある技術部門管轄の実験棟で火事が起こった。実験車両と見られる6台が全焼し、3台が半焼したという。午後7時ごろ119番通報を受けて消防車14台が出動、鎮火までに約1時間半かかったそうだ。
現場は、役員や管理部門が陣取る本社の事務技術棟に近接する5階建てのビルで、屋上の駐車場に置いていた車が燃えた。あるトヨタ関係者によると、現場は様々な部署の人が出入りできるという。
豊田章男社長は最近、愛知県蒲郡市にある役員研修施設に滞在していることが多いため、当日、本社にいたか否かは不明だが、世界のトヨタの社長が構える本社脇で火事騒動とは様にならない。
また、トヨタは非常に安全管理に厳しい会社で、5S(整理、清掃、整頓、清潔、躾)を徹底している。この5Sは安全・品質管理や生産性向上にも影響するため、工場をマネジメントしていくうえでの基本動作の一つとなる。
2022年3月期決算でトヨタは過去最高となる3兆円近い純利益を計上すると見られ、業績はコロナ禍にあっても絶好調だが、「好業績に浮かれて現場の管理は緩んでいるのではないか」といった声が社内の一部から出始めている。

過去5年だけでも「火事多すぎ」な件
豊田署が調査中なので、失火か、放火かといった原因は断定できないが、それにしても最近のトヨタやグループ企業では火事が多すぎの感がある。
過去5年ほどを遡ってみると、まず、2017年3月20日17時30分頃、操業中のトヨタ車体いなべ工場(三重県いなべ市)の塗装ライン400平方メートルが約3時間にわたって燃え続けた。
同工場はトヨタの高級ミニバン「アルファード」や商用車の「ハイエース」などを生産していたが、この火事により約1週間稼働が止まってしまった。原因は排気ダクトに入ったひびだった。塗料を溶かすために送り込む200度近い高温の空気がひびから漏れて周囲の可燃物に引火した。
自動車の塗装工場では、この排気ダクトの管理は要注意だと言われる。可燃性の塗装カスが詰まってそこから発火するリスクがあるらしく、他メーカーの幹部は「排気ダクトの清掃は重要」と語った。排気ダクトのひびが原因による火災は、工場の保守管理の在り方が問われる問題と言えるだろう。
その大騒動の約2週間後の17年4月3日には本社のデザイン担当部署でボヤ騒動があった。この日は晴れの入社式の日だったが、火事の影響で開始時刻が遅れた。さらに18年4月29日14時頃にトヨタ紡織堤工場(豊田市)でも火災が発生している。
極めつけは19年8月20日午後4時50分頃には本社の研究開発棟から出火し、2時間半燃え続けた火事だ。豊田社長は翌日31日の土曜日、予定を急遽変更して出火現場を訪れた。そのことがトヨタの自社メディアで外部にも発信する「トヨタイムズ」で報告されている。
トヨタイムズでは具体的な出火元には一切触れられていないが、筆者の取材によると、出火元は開発中の燃料電池車だった。トヨタにとっては虎の子の技術であり、だから社長自らが視察に訪れたのであろう。続いて20年12月21日午後2時50分頃には、「クラウン」「レクサス」などを生産するトヨタ元町工場(豊田市)の生産技術部門に置いていた車両から出火した。
どう考えても、過去5年間でこれだけ火災が発生しているのは、異常と言えるのではないだろうか。

サイバー攻撃では迅速な危機対応
トヨタの現場管理のゆるみが指摘される一方で、系列企業の小島プレス工業(本社・豊田市)が2月26日にサイバー攻撃を受けてシステムダウンした際の対応は素早く、さすがトヨタと思わせた。
その影響を受けて3月1日のトヨタの稼働は停止したものの、「すぐに小島プレスの設計部隊をトヨタ本社内に移し、即座に代替えシステムを立ち上げた」(関係者)という。
小島プレスといえば、トヨタ系列の“譜代中の譜代”だ。戦後すぐの1947年に創業者の小島濱吉氏がトヨタの系列団体「協豊会」会長に就任、50年にトヨタで大規模な労働争議が起こり、トヨタが経営危機に陥った時にも離れなかった下請けだ。現在は樹脂に木目調のデザインを転写する加工技術を得意としている。
小島プレスは非上場企業であり、世間一般にはほとんど知られていないが、ハッカーがそこを狙えばトヨタの生産が止まることを知っていたとすれば、サプライチェーンの弱点を握られていたことになる。
ただ、サイバー防衛では、攻撃を受けた後の対応も重要で、小島プレスは身代金を要求される前にシステムを完全に遮断し、トヨタ本社内に暫定システムを立ち上げた。そこにはおそらくトヨタ側の指導もあったと見られる。

優秀なグローバル企業は経済安保対策着々
火事が多発して危機管理が緩んでいるトヨタだが、米中対立を背景にした経済安全保障関係では日本企業の先陣を切って密かに対応を進めており、対外的には非公開の担当部署を社内に設置している。トヨタはサイバー攻撃には非常にナーバスになっていたため、万が一攻撃を受けた際の危機対応を想定していたと見られ、素早い動きができたのかもしれない。
トヨタは、米国防総省が導入を推奨しているサイバーセキュリティ規格である、米国立標準技術研究所による「NIST SP800-171」の導入を日本企業ではいち早く検討しているほか、米国と中国の研究開発部門は直接メールのやり取りを禁止する社内規定を設けた。
勉強不足の一部ジャーナリストや投資家崩れが「経済安保は新たな規制だ」とか「新たな利権だ」などと愚かな指摘をしている間に、優秀なグローバル企業は着々と経済安保対策としてのリスクマネジメントを推進している。それだけに足元で危機管理が問われる火事が続くのは残念だ。
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