兵器を知らずして安全保障は語れない!日本に足りない軍事知識をどう補うか
【連載】フジテレビ最強の軍事記者に聞く「今そこにある危機」#3(最終回)- フジテレビ「最強の軍事記者」能勢氏へのインタビュー連載最終回
- 「仕事?趣味?」防衛省関係者に言われたほど兵器の性能を追求した理由
- 安全保障議論をしていく上でメディアの立場から重要に思うこと
安全保障関係の取材に長く携わり、軍事専門誌・雑誌への寄稿を多く手掛ける、フジテレビ報道局上席解説委員の能勢伸之さんへのインタビュー。最終回は、なにかと現実離れしがちな、我が国の安全保障論議について、どう地に足をつけた中身にしていくべきかをお聞きしました。(収録は2月末に行いました)
「仕事か?趣味か?」軍事知識への誤解
――能勢さんは安全保障、防衛関係の取材を重ねられ、さらに装備品についても技術的な部分にわたる解説をされておられます。一般的には、兵器のスペックの話題は、とっつきにくい。しかし一方で、スペックを把握していないと、国家間の現時点での力関係や戦略、対処を読み誤りますよね。

【能勢】おっしゃる通りで、技術面については認識にギャップがあります。厳密に言えば、兵器や装備の区別がつかないで国際関係を理解できるのか、という問題があります。
例えば「派遣された車両が戦車なのか、歩兵戦闘車なのか、装甲兵員輸送車なのか」が分からなければ、何のためにその車両が現場に派遣されたのかを判断することさえできません。軍の車両をすべて「戦車」と捉え「人を殺すために派遣したんだ」と判断してしまうような認識が、もし一般に広まっているとすればそれはなぜなのか、考える必要があると思います。
――ご著書の『防衛省』(新潮新書)に、防衛大臣会見で能勢さんが細かく兵器のスペックを質問していたら、防衛省関係者から「仕事でやっているのか、それとも趣味か?」と尋ねられたというエピソードがありました。
【能勢】「大事なことなんだが……」と不満に思っている人がいるという話は、よく聞きます(笑)。しかしその装備が何のためのものなのか、曖昧でいいはずがありません。また、それを明確にするのが報道の仕事でもあります。
「戦車アニメ」製作陣の安保理解
――とはいえ、やっぱり相当の興味がなければ把握するのが難しい。何かいい方法はありませんか。
【能勢】例えば戦車を扱ったアニメーション作品などの中には、製作者の方々が、登場する戦車の性能や、先に述べた歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車との違いは何かという点について大変細かく勉強されたうえで作品に反映しているものもあります。登場するのは第二次世界大戦中の戦車・装甲車がメインでしたが、時々現代の車両も登場し、その性能をきちんと描いていました。
さらにはCFE条約(欧州通常戦力条約)についてもきちんと理解して作品に盛り込んでいるなとも感じました。CFE条約は1990年に調印された通常戦力の削減を取り決めたものですが、この中に「通常戦力」、つまり武器とはどういうものを指すかが定義されています。こうした定義も踏まえて作品作りをしている。そのため、作品を見た人と見ていない人とでは、理解に差が出てきます。

ただ、一方で「今大事なこと」を伝えるために、その前提として生じている知識ギャップを残したまま理解してもらうことも大事ではないか、とも思います。
――それはどういうことでしょうか。
【能勢】例えば、ヘリコプターの回転翼機がありますよね。あれはあくまでも「回転翼」「ローター」なのですが、「プロペラだ」と言ってしまう人も少なくないと思うんです。しかし回っているのはローターなので、厳密にはプロペラではない。かといって、それをいちいち訂正していると、話が進まないし、今、本当に伝えたいことが後回しになってしまいますね。
「観念」ではなく「事実」をつかめ
――確かにそうですね。これからよりシビアな状況で安全保障議論をしていかなければならないと思うのですが、長年、メディアの現場におられる能勢さんから見て、こうした議論をするにあたって何に気を付けるべきだとお考えですか。
【能勢】基本的には、事実関係を冷静に掌握することではないかと思います。自分たちの頭の中の知識、理屈だけで分かった気になって、そのまま話を進めてしまうと間違えてしまう。特に安全保障に関しては、日本国内だけで片付く問題ではなく、相手があることですからね。
このSAKISIRUに登場した稲葉義泰さんとは『週刊安全保障』という番組でご一緒したこともあり、そこでもよく話すことなのですが、例えば「日米安保条約上の『アメリカ軍』とは何を指すか」。アメリカ軍は、アメリカ国籍の人間だけで構成されているのではなく、他国の部隊や人員をembed、つまりスポッと組み込んで運用することがあります。

アメリカのインド太平洋軍は統合軍で、構成部隊にはアメリカ太平洋陸軍が含まれますが、2人いる副司令官のうち、1人はオーストラリア陸軍の現役少将です。これは客観的に誰もが確認できる事実ですが、こうした事実を把握しているか否かで、「アメリカ軍」に関する認識、日米安保というものの認識も変わるはずなのです。
――今回のロシアのウクライナ侵攻でも、「観念としてのアメリカ・ロシア・日本」にとらわれたまま論じている識者も見受けられます。他人事ではなく、確かに「ロシアがアメリカを上回る兵器を持っているはずがない」という思い込みが私にもありました。
【能勢】観念に引っ張られるのではなく、やはり事実をつかむこと、それを意識することが大事かなと思います。(おわり)
■
【おしらせ】能勢伸之さんの著書『防衛省』(新潮新書)はこちらです。
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