ゼレンスキー演説、日本の国会でやるなら「真珠湾」より問うべきこと

立民・泉代表の見解、必ずしも間違いではない?
SAKISIRU編集長
  • ゼレンスキー大統領のオンライン演説、日本で開催するか議論に
  • 慎重論で非難された立民・泉氏。ダメな点と実は傾聴すべき点?
  • 情緒的な対応だけで受け入れの是非を決めていいのか?

ウクライナ政府からゼレンスキー大統領のオンライン演説を打診されたことで、日本の政府や国会がどう対応すべきか問われている。 16日には立民の泉代表が当初ツイッターで慎重な構えを見せたが、国際政治学者などからの批判も招いて炎上した。ネット上は「開催派」が圧倒的多数に思え、政府関係者の反応として報じられた「前例がない」というコメントにも批判が集中した。

そして、結局わずか半日で自民・立民両党の国対委員長が実現をめざす方向で一致するという、駆け足な展開になった。 日本の政治がどう対応するかの話に行く前に、この日は事態が大きく動いたので先に言及しておきたい。

アメリカの連邦議会議員らにオンラインで演説するゼレンスキー氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

地震で霞んだ深夜のオンライン会見

ゼレンスキー氏のアメリカ連邦議会向けのオンライン演説は、世界が注目する中、日本時間の同日深夜に実施。同氏は、キング牧師の「I have a dream(私には夢がある)」を引用し、終盤には戦禍を伝える動画も披露するなど、持ち前の巧みなプレゼンテーションで感銘を与えた。ただ、アメリカ人のシンパシーを誘うための戦災体験として9.11とともにパールハーバーを持ち出したことで、日本のネット民は右派層を中心に波紋を広げ、ツイッターでは「真珠湾攻撃」がトレンド入りした。

しかし、演説終了から1時間ほどして日本では東北地方を震源とする強い地震が発生。その衝撃のせいで日本国内では演説の余韻とともにかき消されたのが、戦地での和平交渉の進展だった。英FTによると、ロシアとウクライナは停戦へ前進、ウクライナが中立を宣言し、NATO加盟を取り下げるなどの譲歩をする引き換えに、ロシア側が部隊を引き上げるという方向で合意文書づくりに入ったという。

本稿執筆時点(17日午前1時30分)では合意には至るか予断は許さないものの、これまでよりは和平の可能性が出てきたことは歓迎したい。仮に近日中に停戦が合意し、ゼレンスキー大統領の日本国国会でのオンライン演説が立ち消えになる場合でも、日本の政治の対応や、世間の反応が筆者から見て微妙に思えたことを放置すれば、今後同様の大型の国際紛争が起きた時に再び支障をきたすように思うので、問題提起だけしておきたい。

泉発言、字面が良くてもなぜ非難?

泉氏(立民YouTubeより)

さて冒頭で取り上げた泉氏の発言だが、叩かれたものの、字面だけを読めばそこまで邪険に扱うほど悪質ではない。「他国指導者の国会演説は影響が大きいだけに、オンライン技術論で論ずるのは危険」というのは確かにそうだし、続けて述べた「私は日本の国民と国益を守りたい」という点も至極真っ当だ。

それだけに、だ。半日もたたずに、立民の国対が自民側と開催をめざす方向で握ってしまったというプロセスを見ると、泉氏が党のグリップを握れているのか、もしくは世間の非難を恐れて党の執行部や国対が“直情的”とも思える反応をしてしまったのではないかと疑ってしまう。 それでも泉氏が非難されたのは、「国民と国益を守りたい」と書いた後に「演説の前に『首脳会談・共同声明』が絶対条件だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ」と主張した点が大きかったのではないか。

私見では批判や非難をしている人たちの理由は大筋で2点。ひとつはゼレンスキー演説が実現することで、世論が有事に傾斜し、憲法改正などの機運を醸成する恐れがあり、党内の護憲左派勢力や支持者の意向も踏まえているのではないかという疑念だ。保守派には特にこの点は突かれた。もう一つは、他国の首脳の演説内容を制限するということが非現実的であり、外交的にも非常識であるという点だ。この点は国際政治学者らが呆れ気味に批判している。

筆者も前者については泉氏の本音が見え隠れするように思える。結局、泉氏の発言に説得力も信用性も生まれず、炎上するのは、彼が守りたいという「国益」の中身が何なのかが判然としないからだ。 折しもサキシルでおなじみ渡瀬裕哉氏はツイッターで「ゼレンスキー大統領は日本の国会で演説するなら、今後北朝鮮や中国に対する軍事協力を行わないことを明言すべき。ウクライナは日本の安全保障に対する自らの姿勢を当然に示すべきだ」との考えを示していたのが印象的だった。

渡瀬氏がウクライナに厳しいのは、中国との軍事安保の関係性が緊密だった故だ。中国海軍初の空母「遼寧」は、かつてウクライナから旧ソ連製空母を譲り受けて改造。8年前には、ウクライナが核攻撃を受けた場合には中国が守るという合意を取り交わしたとされる。

今回、同盟国の交戦相手がロシアとあって中国は素知らぬふりをしているが、日本からすればウクライナが現下で非道な目に遭っているとはいえ、“仮想敵国”と軍事関係の深い国の首脳が、自国の国会の外交防衛政策を判断する際に大きな影響を与えかねない機会を提供することには、もう少し冷静かつ戦略的に考えるべきではないのか。ロシアとの和平が成立した後、ウクライナにここまで西側が提供した兵器の技術情報が中国側に流出する懸念は排除できまい。

「日本の国会議員は日本人の利益のために働く」

だから泉氏がもし「ウクライナと中国との関係性を清算する気があるのか」を含めてきちんと指摘していれば、真剣に国益と外交安保政策を考えているという意思表示になったはずだった。渡瀬氏は「我々日本人は欧米人ではないので、日本の国会議員は日本人の利益のために働くべきだ。 核保有国であるロシアと対峙するリスクを取ることを、国際的な慈善事業として行うお花畑な政治家は要らない」とも厳しく断じていたが、泉氏がもし党内事情で国益の中身を言いたくなかったというのであれば、外交安保を含めた立民の政権担当能力への疑念は払拭できまい。

国会議事堂と後ろに聳える衆参の議員会館(okouu /iStock)

ただ、ここまで書いていてなんだが、筆者はゼレンスキー氏の日本国国会でのオンライン演説を否定はしない。むしろ彼が日本向けに何を語るのか大いに関心がある。しかし、「世界が注目するヒーローをお招きしたい」とか「ウクライナが可哀想だから」と言った情緒的・脊髄反射的な対応だけで受け入れの是非を決めることは問題だ。

昨晩の米議会での演説を見る限り、メッセージの設計や動画の活用の巧みさに、いわゆる“戦争広告代理店”、欧米のPR会社のような情報戦のプロが裏にいるのではと感じてしまう。日本の政治風土は日頃の政策プロセスから「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」が弱く、国際的な世論戦の煽りに乗せられてしまわないか。言わずもがな「真珠湾」の一言で揚げ足を取るだけでは、国益を十二分に検討したとは言い難い。

ゼレンスキー氏の演説は、日本の政策決定、世論形成に影響を与える可能性が高いだけに、国会議員は冷静沈着、戦略的・論理的に立ち回って実現の可否を論じ、国民に説明し、決めていただきたい。

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