バイデン政権が「仮想通貨の家畜化」を本気で目指し始めた!

大きく変わる政策スタンス、その中身と背景
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • バイデン政権がデジタル資産に関する新しい政策
  • 仮想通貨に対しマイナス的な態度から大きく変更へ
  • 対ロ制裁に見る規制強化の兆候も、独裁国と異なる難しさ

バイデン大統領は9日、暗号資産(以下、本文では仮想通貨)を含むデジタル資産に関する大統領令に署名した。内容的には、政府の関係機関にデジタル資産のリスクへの対処とデジタル資産とその基盤となる技術の活用について検討を命じるとともに、検討にあたっての大まかな論点を示しただけのもので、具体的な内容はこれから関係機関が法制化していくことになる。

バイデン政権が仮想通貨規制に本腰(※画像はイメージです。Cemile Bingol /iStock、White House)

否定的評価から「責任ある発展」へ

なお、この大統領令で「デジタル資産」と呼ばれているものには、ビットコインなどの仮想通貨、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)、その他分散型台帳技術を使いデジタルな形式で価値が表されるもの全てが含まれる。

これまでアメリカ政府は、G7やG20などの場で仮想通貨が議論されるときは、いつもマネーロンダリングや犯罪収益移転、金融のシステミック・リスクといった仮想通貨のマイナス面に焦点を当てる態度をとっていたのに対して、今回の大統領令は、デジタル資産の台頭がアメリカに世界の金融システムと技術分野でリーダーシップをとるチャンスを与えているという考え方に立っており、仮想通貨に対するアメリカ政府のスタンスが大きく変わった。

今や仮想通貨は、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、JPモルガンなどの大手投資銀行が取り扱う投資商品に組み込まれるようになり、スタンリー・ドラッケンミラーポール・チューダージョーンズといったレジェンド投資家がビットコインを保有していることを公言するなど、アメリカの金融社会で認知が進んでいる。

今回の大統領令に関するホワイトハウスの概要説明文(FACT SHEET)でも、暗号資産を含むデジタル資産が急速に拡大して5年前には140億ドル(約1.6兆円)だった時価総額が昨年11月時点で3兆ドル(約348兆円)を超えるまでになり、アメリカ人の成人の約16%(約4000万人)が仮想通貨に投資したり、売買したり、使用した経験があるとの調査結果が出ていること、また100を超える国々がCBDCを検討したり、導入を始めたりしていることが紹介されており、デジタル資産の台頭はあらがえない現実として受け止められている。

しかし、これで暗号資産が法定通貨のドルと肩を並べる存在として政府からお墨付きを得たと早合点してはいけない。今回の大統領令はタイトルに「デジタル資産の責任ある発展を確保するための大統領令(下線は筆者)」と表記されていることに象徴されているように、暗号資産などのデジタル資産が急激に発展している状況の中で、それらが暴れないようにしっかり国家の管理下に置くという、たとえて言えばデジタル資産という野生動物を家畜化するものと考えるべきだ。

ersinkisacik /iStock

対ロ制裁に見る規制強化の兆候

この大統領令では、デジタル資産に関する国の政策目標として6つの優先項目が掲げられており、その中には暗号資産に対する従来からのアメリカ政府の懸念事項も相変わらず列挙されている。

デジタル資産に関する政策上の6つの優先事項

・消費者、投資家、企業の保護
・世界とアメリカの金融の安定とシステミック・リスクの軽減
・マネーロンダリングやサイバー犯罪などの違法な金融取引や国家安全保障上の

リスクの軽減

・世界の金融システムにおけるアメリカのリーダーシップ強化のための技術と

経済的競争力の向上

・金融包摂(安全で安価な金融サービスに誰もがアクセスできるようにすること)
・責任ある技術革新

(3月9日付ホワイトハウス FACT SHEETをもとに筆者作成)

したがって、リップル社のXRPのように、その発行が有価証券登録されていないとSEC(米国証券取引委員会)から提訴されている仮想通貨や、その価値をドルにリンクするための裏付け資産が不十分だと規制当局から疑われているテザーというステーブルコイン(コインの価値がドルなどにリンクするように設計された仮想通貨)が、この大統領令によって免罪符を得ることにはならない。

すでに、仮想通貨に対する国の管理強化の兆候は、最近のロシアに対する経済制裁でもはっきり表れている。ロシア経済制裁に関して、世界最大手のバイナンスやアメリカに本拠を置くクラーケン、コインベースといった仮想通貨取引所は、一律にロシア人を取引から排除はしないと言っているものの、経済制裁の対象となっているロシアの顧客のアカウントは凍結している。コインベース・グローバルのブライアン・アームストロングCEOはツイッターで「制裁法はすべての米国人と米国企業に適用される…コインベースのような暗号資産の会社が法律に従わないと思うのは間違いだ…我々は制裁対象者のIPアドレスからの取引をブロックしている」と言っている。

民主国家ならではの悩ましい事情

ewg3D /iStock

一方、同じデジタル資産でもCBDC(中央銀行デジタル通貨)の方だが、大統領令はCBDCについて、それが国益に叶えばという条件付きだが、その仕組みと導入方法について至急研究・開発を行うようにと大変前向きな指示を関係機関に出している。

特に、米財務省に対しては関係省庁と連携して180日以内に通貨と決済システムの将来に関する報告書を大統領に提出することを命じたほか、連邦準備制度理事会(FRB)には、現在行っているCBDCに関する研究・開発を継続するとともに、関係機関とともにその導入に際して必要となる事項を検討するように求めている。

こうして見ると、仮想通貨とCBDCの間で大統領令の取り組み姿勢に大きな温度差が感じられるが、国家の通貨発行権に基づくCBDCはその導入を前向きに検討し、国家からの独立を志向するリバタリアン(自由至上主義者)的な仮想通貨は国の管理・統制下に置くというのは、国家としてある意味当然のことかもしれない。

ただし、民主主義国家のアメリカでは、デジタル人民元の実用化を進める中国のように、仮想通貨の保有やマイニングをすべて禁止し、アリペイ、ウィーチャットペイといったQRコード決済も強権を発動して人民銀行の監督下に置くといったことはできない。アメリカ政府としては、仮想通貨を国家の管理・統制下に置くことで我慢せざるを得ないのだろう。

今回の大統領令からは、そうした事情が透けて見える。

 
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