北海道新聞の新人記者が書類送検された事件で、見落とされがちな“ディテール”
久々に“朝日脳”の話、カジュアルな恐怖の「罪」- 朝日新聞創業家、村山恭平氏の連載は久々に名物「朝日脳」診断
- 「ヒグマ変異型朝日脳 」北海道新聞、新人記者の書類送検に見る迷走劇
- 見落としがちな重要なディテール。記者はどうすべきだったのか。
【編集部より】村山恭平さんの連載コラム、久々に「朝日脳」の話題です。今回のケーススタディは新人記者が書類送検されたあの新聞社…。
朝日人は歴史的に録音嫌い(!?)

子供のころの記憶は不思議なものです。重大なはずの経験をすっぱり忘れてしまう一方、自分にとってすらどうでも良いようなことを鮮明に覚えていたりします。
3歳だったころ、朝日新聞社でいわゆる村山騒動がおこり、社長であった祖父長挙が解任されました。辞任を求めるため役員たちがゾロゾロと私邸にやってきたとき、祖母と叔母(後の社主美知子)は吹き抜けから応接室を見下ろす2階廊下に、テープレコーダーを置いて彼らの発言を録音していました。
お客さん方をお見送りするときに、「テープレコーダーだ、テープレコーダーだ」とはしゃぎ回っていた(悪意もなく恐ろしいことをする才能は当時からあったわけです)私が、あとでこっぴどく叱られたことは全く記憶にないのですが、左右2つのテープリール(当時はカセットテープすらなかった)が違うスピードで回っているのが面白かったことは、なぜだか「動画付き」ではっきりと覚えています。
このとき、最後の最後にちょろっと社長辞任を求める発言したH氏(後に社長)は、村山家から公式に「不倶戴天の敵」認定され、その後何十年にもわたる不幸な(見ようによっては抱腹絶倒の)ドラマの主人公になるわけです。もっとも、後に母から聞いた話では、当時最年少役員であったH氏が解任の首謀者であったはずがなく、単に猫の首に鈴をつける係だっただけらしいのですが、非情にもテープは彼の大声を記録していたようです。
この件が原因とも思えないのですが、朝日新聞の人は録音というものが嫌いなようです。学者相手の取材で専門用語が飛び交い複雑怪奇な説明を、頼りなげにメモをとりとり聞いていたりしきます。録音は許可があっても失礼という文化があるのかもしれませんが、誤解や誤報の温床になりかねず、取材されるほうにしては却って迷惑です。
一方、自社の株主総会では開始前に「当社が業務として行う物以外録音はお控えください」というアナウンスが流れます。なんだかアンフェアな言い草です。10年以上前ですが、総務部にいる友人は、「金属探知機でも使って、株主全員に所持品検査をしたら、ICレコーダが100ぐらい見つかるだろう」と言っていました。公式録音CDを議事録のおまけに、希望する株主には配布したらいいんじゃないでしょうか。
新人記者の書類送検、重要なディテール

過去を、とりとめなく思いだしたのは、例の「ヒグマ変異型朝日脳 」の北海道新聞(以下;道新))記者らが書類送検されたニュースが入ってきたからです。こういう刑事裁判系のニュースを論評するとき、さっきの村山少年の話ではありませんが、「新人女性記者」「常任逮捕」「実名報道」など、印象が強烈なトピックばかりが論者の記憶に残るのか、重要なディテールを見落としたままの無意味な議論がよく現れます。
今回、典型的なのは「旭川医大は取材の自由を侵害した」という言い分ですが、黙秘する女性の正体が分からないので仕方なく警察を呼んだのですから、取材の自由は関係ありません。細かい状況によって、全体の構図が大きく変わってきます。
以下、見落としがちな重要なディテールを上げてみましょう。
- 会議後記者会見が行われるまで入構禁止の申し合わせが出来ていた。
- 事件の4日前にも、同じ場所で道新記者が無断侵入でトラブルを起こしていた。
- 問題の記者がこの件を取材したのは、この日が最初だった。
- 会議の行われていた建物は看護学科の講義棟だった。
- 記者は携帯電話をかざして会議を盗聴しようとしていた。
- 記者の異常行動を最初に見つけたのは会場から出てきた会議参加者だった。
- 発見時、記者は自分の所属を開示せず、異常な言動を示した。
さて、これらの前提から、もう一度当日の状況を考えてみましょう。まず、道新は何のためにこうした取材を行ったのでしょうか。人事に関する会議、特に利害の異なる当事者が参加しているような重要会議では、誰かが録音をしている可能性は常にあり、参加者はそれを前提に発言しているはずです。だから、危険を犯してまで盗聴する価値は小さいと言えるでしょう。
では、なんのために現場に行くかと言えば、会議の様子を確認するためでしょう。会議と言いながら数分で終わったり、実際には開かれなかったりしていないか。適正な数の参加者がいたのか。怒号が飛び交ったり机や壁を叩いたりする異常な参加者はいなかったか…など、あとで行われる記者会見の内容が、基本的で重要な事実を隠していないかを押さえるのが、最小限の目的です。
無断侵入とは言え普通はあまり事件になるような取材ではありません。けれども、上の1、2の状況を考えれば、記者が発見されるとマズいことは、道新も理解していたはずです。そこで考えたのが、3、4を利用した秘密取材だったのでしょう。医大の側に面識がなく、学生と同年代の新人女性記者ならキャンパス内で目立たないですから、なんとなく潜むには最適な人選です。
新人記者が本来狙うべきターゲット
万一、部外者とばれても「友達とはぐれて、迷っちゃいました」「女子用のトイレを探していました」ぐらいで、切り抜けられる可能性が高いでしょう。ですからこの記者が、「なぜ、わざわざ経験の極めて浅い自分が選ばれたのか」を考えれば、とにかく目だたないようにしているというのが、最低限のミッションだったと分かるはずす。
そして、大きな仕事をするチャンスがあるとすれば、途中退席者への取材だということも想像できるはずです。ここで大事なのは、動かせない仕事や急用で慌てて出てきた人なのか(当時コロナで医師は常在戦場状態)、会議に不満があって席を蹴って出てきた人なのかを識別することです。
後者だった場合、面白い談話(有り体に言えば失言)がとれる可能性まであります。記者としての野心を持つなら、これを狙うべきでした。自信がないならスルーしてもかまわないでしょう。けれども、いずれにせよ5のような行動は慎むはずです。もちろん、上司が盗聴を指示したとはとても思えません。

また、それでも盗聴をするつもりなら専用の盗聴器かICレコーダーを設置して、トイレにでも隠れておくべきでした。現物を発見されても、それだけではアシはつきません。
また、機材の持ち合わせが無くスマホを使うなら、せめてどこかに設置して自分は離れておくべきでした。おまけに、途中退席者を待ち伏せするどころか、盗聴に夢中になるあまりドアがあいても携帯をしまわず、逆に発見されてしまったわけです。
見つかった後の行動も最悪でした。持参した青酸カリ入りのカプセルを奥歯でかみしめろとまでは言いませんが、黙秘しても身元を隠し通すことなど出来るわけがないのですから、とにかく謝っておくのが、まだしもの善後策でした。あるいは、取材の自由や国民の知る権利を理由に、「盗聴して何が悪い」と開き直るほうが、実はマシだったのかも知れません。
素性を隠したせいで、上の3、4が裏目に出て、不審者認定され大事件になってしまいました。こうなると、医大や警察にも威信がある以上、そう簡単に被害届を取り下げる訳にはいかないので、先日晴れて書類送検の日を迎える羽目になったわけです。
カジュアルな恐怖の「罪」
この事件、確かに道新の朝日脳的ドタバタぶりには目を覆いたくなります。調査報告を出せば、無理筋で中途半端な言い訳で失笑を買ったあげく、今回のコメント「検察が刑事処分を決定した段階で、社としての見解を明らかにしたい」ってなんですか。刑事処分を検察だけで決めていいのなら、裁判官の半分は失業するでしょう。
今更、「起訴」という言葉から逃げるからこうなるのです。まだしも「検察で何らかの決定があった段階で、……以下同文」とでもしておいたほうがマトモに見えます。
ただし、やはり、一番悪いのは本人です。「いきすぎ」ではなく「非常識」のせいで、唯でさえ芳しくない新聞ジャーナリズム自体の評判を、さらに暴落させたのですから。
道新の側も、言論やら、取材やらの難しい話をする前に、まずは自分とこの若い者がしでかした不始末を各方面に謝罪し、記者教育ではなく採用のあり方を見直すべきです。
この記者は、今では署名記事まで書いているようですが、私がデスクだったら、怖くてとても街へ取材に出す気にはなりません。ヤンチャは反省のしようがありますが、非常識は自覚しても却ってこじれることすらあります。
思えば、カジュアルに恐怖を発生させてしまうこの記者さんは、私の若いときとそっくりなのかもしれません。もしそうなら、新聞社にとっては最悪のキャラということになります。
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